映画「こわれゆく女(1974)」を“見て損はない”理由と考察、その感想

③観て損はない☆3

こわれゆく女 英題:A Woman Under the Influence

監督-ジョン・カサベテス 1974年 155分

脚本-ジョン・カサベテス

出演-ピーター・フォーク、ジーナ・ローランズ、他

映画「こわれゆく女」の簡単なあらすじ

一見幸せに見える子供のいる家庭。

しかし、情緒不安定な妻メイベルは、人前でいつも過度な行動をして周りを引かせてしまう。

そんな妻を夫のニックは愛し、受け入れようと努力していくが、妻の精神は日ごとに病んでいく。

やがて妻の奇怪な行動は度を越し、ニックの手に負えなくなっていくのだった。

“見て損はない☆3”理由と考察、その感想

妻の奇行で食卓が張り詰めるリアルな空気感

これは、人間の理性が限界にきてホラーさながら狂っていくのかなと勝手に思っていたが、見てみたら精神病の人の話なんだと思った。

ジーナ・ローランズの演技は、ささいなやり取りやしゃべり方、間が微妙にずれていたりすることで、おかしさが見事に伝えられていると思った。

もちろん奇行じみたこともするが、そうでないときにもおかしいと感じさせられるのはすごい。

肉体労働をしているニックが、同僚の男友達を10人くらい仕事帰りに家に呼んで、メイベルが作ったスパゲティをみんなで食べるシーンがあるが、そこでの空気感がとてもリアルに感じた。

男たちは無理にしゃべるでもなく、ずっと沈黙するわけでもなく、ごくごく自然にしゃべっている。

そこにメイベルがずれた絡み方をしていき、空気が張りつめていく。

最近の日本の映画やドラマでは、そもそもこんな感じの自然な食事シーンですら表現できないんじゃないかと思う。

自然なところにメイベルが絡んでいくから、余計おかしさが際立つ。

日本人だとなぜだかセリフを言っている感じに聞こえてしまうことが多く、演技しようしようという演技ばかり。

即興で撮る手法もよくやる監督らしいので、撮り方も良いんだろう。

ピーター・フォークは自分はコロンボのイメージしかなかったが、この作品では怒鳴ったりするところも多く、全然違う人に見えた。

特に、怒りの感情をこんなに激しく表現できる人はあまりいないと思う。

当時では珍しい、精神病をダイレクトに描いた作品

邦題がこわれゆく女ということだが、最初のシーンで同僚から「お前の妻は情緒不安定だ」と言われているので、もともと周りからちょっとおかしいなという見方をされていたんだろう。

壊れていくというか、もともと壊れていて、それが悪化していったという感じなので、後半にかけては想像の延長線上を越すことはなかった。

精神病だからしょうがないと思ってしまうところがあった。

しかし撮影当時は今ほど認知されていなく、良い薬もなく、差別もひどかっただろうと思う。

そんななかでこれをテーマにしたジョン・カサベテスは勇気があるし、そんな妻に戸惑い葛藤しながらも受け入れようとしていく夫の姿はとても愛情に満ち溢れていると思う。

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