映画「シン・仮面ライダー(2023)」が“物足りない”理由と考察、その感想

④物足りない☆2

シン・仮面ライダー

監督-庵野秀明 2023年 121分

脚本-庵野秀明

出演-池松壮亮、浜辺美波、江本祐、大森南朋、長澤まさみ、森山未來、竹野内豊、斎藤工、他

映画「シン・仮面ライダー(2023)」のあらすじ

バイク事故に遭った本郷猛は、ショッカーという組織に体を改造され、バッタのような仮面をつけることで、常人離れした戦闘能力を発揮できるようになった。

改造を施したのは組織の天才博士、緑川弘で、娘のルリ子と共に逃げ、暴走し始めたショッカーを壊滅させることを本郷に託したのだった。

訳も分からず強大な力を得た本郷は、ルリ子に促されるように、世界を恐怖に陥いれようとしている組織の改造人間達と戦闘を重ねていく。

元々生体電算機として組織に作られ、組織に所属していたルリ子の助けや、後押しする政府機関の協力もあり、本郷は着実に組織の刺客達を倒していく。

そのショッカーを束ね、全人類の意識を別の次元へと移行する計画を進めていたのは、強大な力を持つ蝶オーグと呼ばれる改造人間で、イチローことルリ子の兄であった。

“物足りない☆2”理由と考察、その感想

主人公の棒読みに近い演技

主人公の仮面ライダーが棒読みで、特に気持ちを持っていかれる所も特にないので、ドラマとしていまいちである。

シン・ゴジラもそうだったけど、この監督に、実写の演技指導をする力はない。

主人公は確かに影のある雰囲気はあるが、ただ影があるだけ。

見ていてどういう人間かも分からないし、好きになれない。

最初に人を殺して葛藤している所も、本当に葛藤している感じもなく、感情を爆発させて闘うシーンも、最後に自分が死ぬのを覚悟して蝶オーグに語りかけるシーンも薄く、伝わってこない。

特に、緑川ルリ子が死んだ時は、もっともっと血管が切れるんじゃないかというくらい悔やんでほしかった。

それは藤原竜也みたいなうわべの大げさな演技ではなく。

だって、本郷は父が通り魔に殺された時に、強い力が欲しいと望み、今度はその強い力を手にしたのにも関わらず、目の前でまた大事な人を亡くしてしまった。

それなのに、ちょっと泣いだだけで、悟るのが早すぎる。

やけになったり怒ったりして、暴れたりすったもんだする描写があり、ようやく自分のやるべきことが分かった、となるならいいが、そんな描写はない。

力ってなんだ、強くてもダメなのか、もっと強くないとだめなのか、などと葛藤してほしかった。

「復讐ではなく、彼女の願いをかなえるために闘う」という本郷のセリフ自体は良いが、ただ言っている、セリフをなぞっているだけ。

自分を責める様な、葛藤する様な描写がない分、拍車をかけてそう見える。

描写がないのであれば、その分深みがある演技をしなければいけないが、そうはなっていない。

ここだけでなく、全編にわたって棒読みに見えるので、ストーリーを作っていけていない、惹きこまれない。

全部監督が悪い。

もし仮面ライダーが菅田将暉だったら、面白いものになっていたかもしれない。

菅田将暉じゃなくても良いが、若手で見ているものを惹きつけるような、強い演技を出来る人は、他にはほぼ見当たらない。

菅田将暉は喜怒哀楽の演技を自分なりに消化して演じられるだけでなく、ルックスも良いので、仮面ライダーにはぴったりなんじゃないか。

影もあり、怒りを爆発させる演技も出来る。

監督が、本来今作の仮面ライダーの演技をそういう風に演出しなければいけないのに、出来ていない。

テレビでやってたシン仮面ライダーの製作ドキュメントでは、庵野秀明がアクションの演技指導を厳しくやっているシーンがあり、「出来ないなら全部やめればいい」と強く言い放ち、その場にいる十数人のスタッフ全員凍り付くという、近年まれにみる怖い現場になっていた。

それを見たからこの作品を観てみた、ということでもあるが、庵野の言葉を借りれば、それこそちゃんと主人公の演技指導が出来ないなら、全部やめてしまえばいい。

餅は餅屋で、アニメに専念した方がいい、シンゴジラもそうだけど、出来ないのであれば。

彼が監督した実写映画を見て、庵野は声優に対する演技指導なら出来る、のではなくて、声優のレベルが実写の俳優よりもクオリティーが高いから、ちょっと言ったら勝手に向こうで良い様にやってくれるだけで、そもそも演技指導なんて出来ないんじゃないか、とも思った。

そもそも棒読みの声優なんて一人もいないから、何を要求しても大根にはならなさそうだ。

主役はほぼ緑川ルリ子

主人公の過去がきちんと描かれていないこともあり、そんなこんなで、主人公は存在感が薄く、浜辺美波が演じる緑川ルリ子に完全に持っていかれている。

浜辺の静かだが強い演技が良い。

というか、この映画は緑川ルリ子が主人公だ。

仮面ライダーは駒みたいなもので、一文字隼人を改心させたのも、蝶オーグを倒したのもルリ子のおかげだ。
仮面ライダーの存在感的にも、まさにこれは浜辺美波が主演と言っていいんじゃないか。

江本祐演じる一文字も良かった。

ナチュラルで、ひょうひょうとしている感じが江本にすごく合っていて良い。

昔の、昭和の男前観というか、そんな感じが仮面ライダーに合っている。

政府の二人は軽いので、もうちょっとしっかりしたおじさんにやって欲しかった。

二人とも無理やり髭を付けている感じ。

斎藤は本当の髭かもしれないが。

まだ、主要キャストのルリ子と一文字が良いので、もし主役の仮面ライダーが良かったら、もう少し見れているものになったと思う。

本当は、訳も分からずすごい力を得た本郷が、葛藤しながら、悲しみを経験してそれを乗り越えながら身を犠牲にしてでも闘う、という成長ドラマが見たかったが、そうはなっていない。

重要な人間ドラマが表現できていないので、アクションは悪くなくても、全体としてぼやけた印象になってしまっている。

悪の描写が弱い、序盤は変な奴同士の戦い

普通のヒーロー物と比べて、恐怖に怯えている一般人や、世界が強大な悪に混乱しているシーンなどほぼなく、悪とそれに対峙する正義側の裏方のやり取りだけでほぼ全編構成されているので、スケール感がなく、すごく狭い世界に感じる。

あえてそうしたのかもしれない、一般人の知らないところで奮闘している裏方の格好良さを描こうとしたのかもしれないが、主人公の演技面もあり、奏効していない。

仮面ライダーという超有名作品をリメイクするんだから、普通の撮り方ではダメだ、と思ったのかもしれないが。
悪が一般世界に悪事を働いている描写がないので、悪に対してこいつら酷いやつだなという感情も湧かず、本当に悪かどうかもよくわからず、悪というより戦闘能力の高い変なコスプレ集団とひたすら闘っていく感じ。

強いて言えば、悪事を働いていた描写は、蜂オーグが街の住人を操っていたところくらいか。

なので悪いやつをばんばん倒していくヒーローもの独自の気持ち良さもなく、ポカンとしてしまう。

仮面ライダーも変なので、変なやつ同士の戦いを序盤はひたすら見せられる。

最初に、本郷という人間、ルリ子という人間がどういう人間か、分からす描写などほぼなく進んでいくので、それも心をつかまれない要因だ。

あまり説明しなくても惹きつけておけるほど、登場人物の演技や映像にパワーはない、浜辺美波は悪くないけど。

派手なアクションでも補えていない。

そうであれば、少し時間を割いてでも、本郷の大学時代、ルリ子の組織にいた時代を描いても良かったんじゃないかと思う。

プラーナを源にして闘うとか、オーグメントがどうだとか、設定も難しく、本郷とルリ子に感情移入もできないまま、中盤まで進んでいく。

中盤になってようやく、ルリ子が人間らしさを見せ、まだ観れるようになってくる。

浜辺ミナミの独特の存在感、マンパワーもあり、少し興味を惹かれだしたあたりでルリ子が死んでしまうシーンは、少し涙腺を刺激された。

まさか死ぬと思っていなかった、この大胆な展開は悪くない。

独特のアクション、物足りないアクション

この映画には、アクションシーンが満載だが、マスクがシャキンとしまる所、バイクが変形する所は格好良いし、蜂オーグが暗闇で素早く動き回り、黄色い残像が残るシーンも独特で良い。

しかし、時々動いている人が人形みたいに見えたり、CGが明らかに作り物風に見える所も多いので、そこはあまりお金をかけられないのかなと思った。

特に残念に思ったアクションシーンは、終盤のトンネルのシーンと、大ボスの蝶オーグと戦うシーンだ。

本郷が最後の闘いに挑み、一文字も加勢してトンネル内で改造人間との戦うシーンだが、暗くて何をやってるのかほぼ分からない。

せっかく二人のライダーが協力してたくさんの敵を倒し、格好良い音楽も鳴って盛り上がるシーンなのに、なぜ暗くした?

もっと明るい所ではっきりと見せて欲しかった。

暗いシーンにしてCG代を浮かしているというか、CGの粗さが目立たないために暗くしてる、誤魔化しているのか分からないが、暗くして逃げないで欲しかった。

そして最終的に蝶オーグと戦うが、全く歯が立たず、「とにかく仮面をはがしてくれ」と本郷が一文字に頼み、一体どうやって仮面をはがすのか、妙案でもあるのかと思ったら、

蝶オーグが急にスタミナ切れしてふにゃふにゃになったので勝てた、というのは拍子抜けだった。

ルリ子のプログラムを使って、蝶オーグの後ろにある機械を壊しておいたおかげだが、仮面ライダーが捨て身でもぎ取って勝った感がなく、結構盛り下がった。

急に弱くなり、総合格闘技のようにゴロンゴロン転がりながら殴り合って勝った、というのは変な展開だ。

機械を壊したおかげで蝶オーグに今までになかった隙が少しだけ生まれるようになり、その一瞬のスキをついて仮面を壊した、とかならまだ分かるが。

本郷は最終的にはプラーナを使い過ぎて絶命するので、弱くなった、と言ってもまだ蝶オーグは強かったんだろうが、物足りなく感じてしまった。

そして、蝶オーグがなぜ改心したのか、死んだのか分からない。

蝶オーグは、マスクをかぶされて、比較的すぐルリ子に「すまなかった」といって謝りだして抱きしめ、死を覚悟した本郷を前に、「ルリ子が信じた人間を信じることにしよう」と言って死んでいった。

なぜ人間を全て酷い状態にしようとしていた悪いやつが、すぐ謝った?本郷を認めた?

それは、ただ自分が死にそうになったから気持ちが弱まった、しかこの流れでは理由がないので、とってつけたセリフのように感じてしまった。

悪として非常に薄っぺらい悪、というか、もはや悪ではない。

その後死んだのは、もうマスクをかぶさなくても死んでいた、ということなのか。

じゃあ、本郷はそもそも蝶オーグを倒すためではなく、ルリ子の遺言を伝えるためにマスクをかぶそうとしていた訳で、一文字に「勝機がある」と伝えたのは、なんだったんだろう?

遺言を伝えれば蝶オーグが改心するかも、という賭けだったのか?

いずれにせよ、最後の見せ場の闘いとして、もっと純粋にアクションの攻防をちゃんと見せて欲しかった。

後ろの機械を壊したらほぼ勝ちというのなら、ギリギリまで二人で戦って、奥の手として使うとか、そもそも機械を壊すのが大変だとか、なんかやりようはなかったのか?

そこら辺の詰めが甘く、蝶オーグの改心ありき、感動ありき、という感じがして、あまりすっとはいってこなかった。

もっと言えば、コウモリオーグもカマキリカメレオンオーグも、結構あっさりと倒してしまったので、物足りない。

ちゃんと戦った方なのは、最初の蜘蛛オーグと蜂オーグくらいか。

蜘蛛オーグは空中に投げ出されただけで負ける、というのもよく分からない。

すごく高い所からジャンプするのは出来るのに、蜘蛛の糸も使えるのに、空中は不利なのか。

わざわざ本人から説明してくれていた。

蜂オーグはあんなに早い動きをずっとしていれば負けないのに、普通に殴られて追い詰められた。

勝つまでに、妙案で勝つ、なんとか勝つ感がなく、全体的に急に負けるので、そこらへんは物足りない。

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