震える舌
監督-野村芳太郎 1980年 114分
脚本-井出雅人 原作-三木卓
出演-渡瀬恒彦、十朱幸代、若命真裕子、中野良子、宇野重吉、他
映画「震える舌」のあらすじ
外で遊んでいた女の子が、土の地面に転んだはずみで小さい怪我をしてしまう。
大したことはないものと両親も思っていたのだが、やがて少女に異変が起こる。
しゃべれなくなり、歩き方がおかしくなり、寝ているときに急に体をのけぞらせ、突然大声で叫びだす。
その少女の様は、まるで悪魔が乗り移ったよう。
急いで病院に連れていくと、思いもよらぬ病名が告げられるのだった。
光を怖がるので、暗闇の部屋に入院し、隔離される。
その少女の看病をしていく両親も、その病気に振り回され、精神的に参っていく。
“今すぐ見るべき!☆5”理由と考察、その感想
破傷風という怖い、良い題材
破傷風になると、全身の筋肉が強烈に痙攣して背中をのけ反らし、背骨が折れて死に至ることもあるらしい。
これはドラマだが、ホラーのような要素が入っていてとても惹きつけられた、怖かった。
自分はホラーはほとんど怖いと感じるものがないので、これは普通のホラーより怖いと思う。
なんだこの病気は、どうなっていくんだ?という恐怖感で頭がサーッとなる。
ホラー的なサスペンスドラマというか。
ホラーと違って、少女に起きた現象の原因は突飛なモノではないので、リアルに落ち着くので良い。
しかも、破傷風という病気は現代においてほとんど馴染みがない病気なので、なんだ、オチはただの病気だったのか、ともならない。
何だその病気、となって、その稀有な症状も合わせて、観ていて緊張感がある。
破傷風というのは聞いたことがあったが、こんな変な激烈な症状だなんて、全く知らない。
ただ傷口から黴菌が入って大変になるよ、くらいしか、ほとんどの人も知らないんじゃないかと思う。
知っているけど知らなかった、という怖さもあり、そういう意味で、非常にちょうどいい題材を選んでいると思う。
当時の高度経済成長期あたりの時代には、現代よりも衛生面において、何かと感染する機会が多かったんじゃないか。
しかし、当時の人達はもちろん、現代の人が見ても、そして未来の人達が見てもずっと楽しめる作品だと思う。
むしろ、未来に向けて、破傷風という病気に馴染みがなくなればなくなるほど、より怖く感じられる映画かもしれない。
発症自体に馴染みがなくなっても、破傷風菌は世界中どこにでも、どの土の中にもいるそうなので、決してなくなることはない。
なので、日常に潜む恐怖として良い題材だ。
というか、気を付けないと本当に怖いから、リアルである。
傷がある状態で土に触れたり、とかは気を付けないと。
日常から土いじりをしている人でないと、中々そんなタイミングはないかもしれないが。
重厚な映像で緊張感がある
監督の野村芳太郎は、黒澤明の最高の助監督だったらしい。
題材が良いだけじゃない、映像に重厚な感じや、迫力がある。
映像に緊張感があり、無理に怖がらせようとしている訳でもなく、真剣に描いている感じが、黒澤的な重厚さがある。
こんな雰囲気が感じられる作品は、監督の手腕や演じている役者も含めて、今の日本映画にはおよそ無理だろうなと思う。
演じている人達も卓越した演技で飽きずに見られる。
このころの渡瀬恒彦は無駄にギラギラしていて、一般的な父親をはるかに超している迫力がある。
しかし、父親の存在感がある分、娘の激しい症状との拮抗、闘いがあり良い。
こんな父親ですら、破傷風にはめちゃくちゃ振り回されてしまうというのも、より怖さを増す要因になっている。
「エクソシスト」のモデルになった、悪魔が取りついたという少女は実在するらしいが、もしかしたら破傷風だったのかもしれないとも言われている。
ヨーロッパでも昔から恐れられていた病気らしく、光を怖がり、体をのけ反らし、奇声を発するから、同じである。
これは、サスペンスドラマのエンターテインメントであると思う。
理想は、破傷風という病気の詳細をあまり知らないで見ると、より怖く感じられる。
変なホラーを見るよりも、この作品はよっぽど怖い。
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