映画「ネオン・デーモン(2016)」を“見て損はない”理由と考察、その感想

③観て損はない☆3

英題:The Neon Demon

監督-ニコラス・ウィンディング・レフン 2016年 117分

脚本-ニコラス・ウィンディング・レフン、メアリー・ローズ、ポリー・ステンハム

出演-エル・ファニング、カール・グルスマン、ジェナ・マローン、ベラ・ヒースコート、アビー・リー、キアヌ・リーブス、他、

“見て損はない”理由と考察、その感想

映像美と独特の空気感に引き付けられる序盤

冒頭から、淡々としてはいるが迫力のある映像美と、役者のナチュラルな演技、それが合わさった独特の空気感にかなり惹きつけられた。

主人公がモデルの世界に足を踏み入れ、その厳しくも華やかな世界に魅せられながら、次第に認められ、自信をつけ、のし上がっていく様が期待感を煽られつつ興味深く序盤は見れた。

この監督は、音楽と合わせた美しい、スタイリッシュな映像を撮らせたら、恐らく右に出る人はいないだろうと思う。

エンドクレジットの映像もやたらと格好良い。

独特の世界観のある歌もさることながら、それに合わせてキラキラの粉がメイクした女性の顔にスローモーションでかかっていくなんて実に魅惑的で、ストーリー関係なく惹きつけられてしまう。

もし、テレビのCMでこの映像が流れたら、なんだこれはと、短い時間でも間違いなく釘付けになる。

センスが良い、スタイリッシュ、オシャレというジャンルのトップクラスの人で、また自分の美的感覚に対する自信も相当なものがある人なんだと思う。

正直、ストーリーの練り方もこの映像くらいのクオリティで、練りに練って欲しかったと思う。

映像がきれいで魅力的な分、もし作品全体が面白かったら、ものすごいことになっていたと思うが、残念ながらそうはなっていない。

想像を超えないストーリー展開

モデル業界は厳しい世界、そういったショービズ界で生き抜くには他人を蹴落としたり、コネを使ったり、ありとあらゆる汚い手を使う、というような話はよく聞く話だ。

実際にそういった世界かどうかは分からないが、世界中の芸能界あるあるといった感じで、そういった自分が知っている想像の域を出ていないストーリーになってしまっている。

他人を蹴落とすどころか、食べちゃうようなモデルがいたら面白いんじゃないか、とよぎって膨らますのは悪くないが、いかんせん主人公を食べてしまうモデルたちに深みを感じないので、同じ業種の嫉妬深い三人組にやっかみで殺された、という浅いストーリーに見えた。

それが例えライバルを実際に食べてしまう、という突飛な行為ですら、相手を蹴落とすという行為の一つにしかなり得ていないので、食べる食べないにかかわらず、主人公との確執やぎくしゃく感などのドラマをしっかり描いた方が良かったと思う。

主人公が上り詰めていくのが早いのはまだ良いが、そこから殺されるまでが早すぎる。

上り詰めたと思ってもまだ壁があることに気付いたり、嫌がらせをかいくぐりながらそれでも上っていく、先輩モデル二人も苦悩し葛藤し、主人公を疎ましく思い、様々ドラマがある上で、最終的に食べてしまうなら成立したと思う。

そこのドラマをしっかり描けば、別に食べなくても面白くなったはずで、そのドラマ部分が足りなすぎるので、全体で見ると突飛な薄い話になってしまった。

先輩モデルの二人がとんでもなく悪い、もしくはぶっ飛んだ奴らだった、という話はそれでそれで面白くなるはずだが、先輩たち二人の感情が薄いので、さほど怖さも感じない。

表面上はニコニコして、優しく主人公を気遣い、応援してる素振りを見せながら、心の底では殺したいほど憎悪している、というのであればゾッとするし、主人公の命を狙われた時に衝撃も感じられる。

しかし、悔しがってはいるが、二人とも感情を表に出さない感じでロボットみたいなので、きっと冷たい人間なんだろうなと思うし、結局主人公に悪さするわけだから、そのままとも言える。

悪も深みがなくてはいけないが、そうではないので、物足りない。

モデルの人の雰囲気はああいう飄々とした感じというイメージも確かにあるが、その表面上のモデルっぽさだけしか表現できていなく、掘り下げられていないと思う。

一方メイクアップアーティストのルビーはそれなりの存在感があるので、さほど悪くない。

エル・ファニングはさすがで、最初の初々しさから、成り上がって自信をつけ、性格が変わってしまう所まで演技で表現できている。

正直、エル・ファニングの演技をもっとたくさん見たかったと思う。

ネオンデーモンのデーモンはどちらかというと、エル・ファニングの変わりぶりのことなのか、と勝手に期待してしまっていたし、そっちの方がはるかに面白くなったと思う。

エル・ファニングなら段階を踏んで変わっていくというのが出来るので、まるでモデル版のブラックスワンのような感じになったんじゃないかと思う。

そうはならず、主人公が命を狙われるというのはそれはそれで悪くないが、急すぎるし、先輩たちが魅力的でないからなんとも物足りなくなってしまった。

キアヌ・リーヴスの怪演が光る

キアヌ・リーヴスが安モーテルの気性の激しい主人を演じているが、まあ板についている。

正義的な役のイメージがあるキアヌだが、むしろこういった悪役というか、ちょっとねじが外れている役の方が合ってるのではとすら思えた。

意外に演技派なのかと思わしてくれて、実にいい味を出している。

様々な暗示が散りばめられている

ヤマネコがジェシーの泊まっているモーテルの部屋に侵入したり、トライアングルの意味や、最後にジジがジェシーの目玉を吐き出し、サラがそれを食べた理由など、はっきりとは意味が描かれない暗示が所々散りばめられていて、少なからずより作品を不思議で不気味な雰囲気にしているのは間違いない。

ちなみに、ヤマネコはこれから起こる

しかし、特に深い意味の暗示ではないし、ストーリー自体に深みがないので、最終的にそういった要素が集約して作品に厚みを増すことには成功していない。

見終わって、だからなんだ?という感想になってしまう。

また、暗示ではないが、最後に、「FOR LIV」とエンドクレジット前に入っているのが引っかかった。

これは奥さんの名前らしいが、何でも奥さんが寝ている時のきれいな顔や容姿を見て、抱いた劣等感のようなものからこの作品の着想を得た、とのことらしい。

「~に捧ぐ」というメッセージは映画でたまに見るが、冷めるので入れないでほしい。

壮大なラブレターというか、愛の告白に見ているこっちも利用された気がして、なんだかなあとなる。

実際そうでも言わないほうが格好良いのになあと思う。

この監督はこっちをくすぐってはくるが、いまいち振り切れない感がある。

見たのはもう一つ「ドライブ」しか知らないが、ドライブも面白くなりそうなのに、物足りなかった。

主人公の青年が薄かったからだ。

今度は主人公がエル・ファニングでだいぶ良いかもと思ったが、上述の通りうまくいかない。

映像美や音楽のセンスは抜群だが、人間ドラマがついていかない。

まあ、次回作に期待しよう。

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