エクソシスト(ディレクターズカット完全版) 英題:THE EXORCIST
監督-ウィリアム・フリードキン 1973年 122分
脚本-ウィリアム・ピーター・ブラッティ
出演-リンダ・ブレア、エレン・バースティン、ジェイソン・ミラー、マックス・フォン・シドー他
“今すぐ見るべき!☆5”理由と考察、その感想
リアルな雰囲気のホラー映画
ホラーというのは大抵が嘘くさく感じてしまうものだが、この作品は真に迫ってくる迫力がある。
登場人物の心理の流れが丁寧に描かれていて、ドラマとして見応えがある。
俳優陣の演技がリアルでシリアスにストーリーが展開していくので、かなり惹きこまれる。
序盤から登場するカラス神父は悪魔など信じてはおらず、むしろ疑り深い人間で、なにより精神科医でもある。
科学的な視点も持っているまともな人間が、非日常を目の当たりにして、目の前で起こっていることを信じざるを得なくなっていく過程が非常に丁寧に語られる。
ジェイソン・ミラーの落ち着いたリアルな演技が、見ているこっちにその深刻さを感じさせてくれる。
いざ悪魔と対決するというシーンまではかなり長いが、ドラマとしてしっかりとリアルに見せてくれるので飽きずに見れるし、引っ張った分最後の対決もより真に迫ってくる。
ジェイソン・ミラーだけではなく、母親役のエレン・バースティンや、メリン神父のマックス・フォン・シドーなど、名優たちによってドラマ自体が重厚なものになっている。
この作品を見ると、ホラーだろうがそうでなかろうが、やはりそこに演じている者たちのリアルな感情や演技がまず大前提としてあるべきで、それがいかに作品の肝になっているのかというのがよく分かる。
もし、終盤までのドラマをホラーだからと言って適当に描いていたとしたら、いかに終盤に力を入れても、全体としては薄っぺらいものになっていただろうと思う。
ホラーの金字塔だとか言われているが、ホラーの分野もこのリアルさがベースであってほしいと思う。
監督は役者の演技には厳しかったそうで、かなり出演者を追い込んだらしいが、ホラー以前にまずしっかりとしたドラマを描くということ自体が難しいことなのかもしれない。
追い込んだ成果は画面に如実に出ている。
演技面だけでなく、映像の取り方も重厚でじつにいい。
壮絶な対決シーン
なんといっても一番見どころなシーンは終盤のカラス神父、メリン神父と悪魔との対決のシーンだろう。
見どころと言っても、最初からの流れがあるから最後がより跳ね上がる訳で、見どころは全部であるが、一番迫力があり、真に迫ってくるクライマックスという意味で見どころだ。
悪魔を退治すると聞いて、そんなに大したことがなさそうに思えてしまうが、そんな想像をはるかに超えて来る迫力だった。
信じる信じない、作り物かそうでないかなどどうでもよく、真に迫ってくる映像になっている。
その描き方がまた巧妙で、惹きつけて来る。
化け物が出てきて暴れまわり、格闘してやっつけるといういきなり派手に立ち振る舞う雰囲気ではなく、最初は静かな所から徐々に徐々に悪魔の力が大きくなり、終いにはこれは手におえるのかという所までグラデーションの様に拡大していく様が迫力に輪をかけている。
そこら辺の描き方が丁寧で面白い。
命をかけて神父が闘うという壮絶感が実にいい。
もし自分の身近にいる優しいおじいちゃんが神父で、誰かを助けるためにこんなすごい闘いを目の前でやられたら、涙が止まらないだろう。
簡単に封じ込めるという訳では全くなく、ほぼ差し違えるつもりで闘っているという感じも格好良い。
ホラー映画の難点
ほとんどのホラーにかけているのは、リアルさである。
サプライズ的な脅かしだったり、グロテスクや残虐な映像をただ見せれば良いと思っているホラーが多すぎて、辟易する。
まず、その世界があるかのように見せて欲しい訳で、それには描き方や演技も合わせてリアル感が必要になってくるが、そこがスポンと抜けていたら、怖く感じる訳もない。
その世界が実際にあるか否か、作り話かそうでないかなどはどうでも良く、むしろ映画は全て作り物な訳だから、リアルに見せてくれればそれで楽しめる。
きっと、ホラーはリアルでなければすぐに嘘だと思われてしまうから、ある意味映画のジャンルの中で一番作るのが難しい、厳しいジャンルかも知れない。
リアルを知っていなければいけないし、それだけ徹底的な作り込みが必要になってくる。
そういう意味で、こういうエクソシストのようなホラー映画がわんさかあったらどんなに楽しいことだろうかと思う。
映画界もこの作品を金字塔と言っている場合じゃなく、どんどん良いホラーを作って欲しいと思う。
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