映画「ザ・マスター(2012)」が“オススメ”の理由と考察、その感想

②オススメ☆4

ザ・マスター 英題:The Master

監督-ポール・トーマス・アンダーソン 2012年 143分

脚本-ポール・トーマス・アンダーソン

出演-ホアキン・フェニックス、フィリップシーモア・ホフマン、エイミー・アダムス、他

映画「ザ・マスター」の簡単なあらすじ

第二次世界大戦に参加していたアルコール依存症の退役軍人がある新興宗教の教祖と出会い、行動をともにしていく人間ドラマ。

退役軍人で情緒不安定な中年男フレディは、いつも酒におぼれ社会に適応できずにいた。

ようやくありついた写真屋のカメラマンの仕事では客を殴りクビに、農場の仕事では自分で作った危険な酒を従業員に飲ませ死なせてしまい、逃げ出してしまう始末。

夜の埠頭を酒浸りでフラフラと歩いていたフレディは、半分ヤケになり、出港したばかりの船に勝手に乗り込んでしまう。

その船はザ・コーズという新興宗教団体の船で、教祖のランカスターは目覚めたフレディを追い出すことなく、あたたかく迎え入れる。

フレディは不思議に感じながらも、ランカスターの人柄や厚意に惹かれ、ランカスターもフレディに興味を持ち、二人は行動を共にすることに。

フレディは教祖の家に居候し、ザ・コーズの教えを学び、教祖のボディガード兼側近の様になっていく。

ザ・コーズはその教祖の怪しい魅力や話術で徐々に力をつけていき、アメリカ各地を回りながら支持者に講演を開いていく。

教祖と一緒に行動を共にする中で、フレディは教祖に対して疑問を抱くようになる。

そして、突如教祖とフレディに起こった事件・・・。

果たしてふたりはどうなってしまうのか?

フレディは依存症から立ち直ることが出来るのか?

この教団の行く末は一体?

ポール・トーマス・アンダーソンが宗教をテーマに描く、ミステリアスな人間劇!

“オススメ☆4”の理由と考察、その感想

個性的な登場人物たち

なんとも不思議な映画だった。

映像がとてもきれいで、いかにも映画を見ているという感じで味があり、とても惹きこまれる。

主人公のフレディ、教祖のランカスターもそうだが、変わっていて決して真人間ではない人物を中心に物語が展開していく。

リアルな人間劇だが、まともな人間はほとんど関わってこない感じが面白い。

ホアキン・フェニックスも、フィリップ・シーモア・ホフマンも強烈だ。

奇をてらっているわけではなく、ナチュラルに強烈で、アクが強い。

ホアキンは本当にダメな人間の感じがよく出ている。

ホフマン演じる教祖は、うさんくさい感じと信頼できそうな感じが絶妙なバランスで保たれている。

どっちかというとうさんくさく感じるが、それでも魅力的に見えてしまう感じはホフマンのマンパワーを感じる。

こんな教祖いたら、たぶん騙される人はたくさんいるんじゃないかと思う。

本人は決して悪気があって騙そうとしているわけではないが、どこかしらで矛盾していたりおかしなところが出てきてしまう。

それを教祖本人も無意識に見ないようにしている感じがする。

悪ではないので、行き場がないフレディに対しても優しく接する。

不思議な儀式を繰り返しフレディに行い、時には厳しくしかりつけながら、なんとかアルコール依存症から立ち直らせようとしている一生懸命な姿はなんとも滑稽だ。

宗教ってなんだ?

現代において、新興宗教というのは案外多くの人に支持されていて、外にいる自分にしてみたら「こんな教えを信じている人は本当にいるのか?」といつも思う。

そんな誰もが疑問に思う新興宗教団体の内情をリアルに描いた作品だと思う。

実は教祖も教祖なりに正義があり、世のため人のためを思って行動しているという。

そんな真摯な教祖の姿勢を信者たちが目の当たりにしたときに、その宗教は広まっていくのかもしれない。

その人の人柄も含めて自分が信じるに値する宗教だ、と思わされるんじゃないか。

ねずみ講やマルチ商法はまだ批判しやすいが、新興宗教はとてつもなく大きい組織もあったりして、中々ものを言いづらい。

そこらへんへの警鐘のようなものをこの作品が代弁しているようにも感じる。

宗教団体の中にも人間ドラマがあり、他者への救済という行為そのものは間違っていないという。

これはアメリカのサイエントロジーという団体をモチーフにしたものではないかと言われているらしい。

トム・クルーズも入信している、世界中に多数信者のいるアメリカの新興宗教団体だ。

ラストのシーンは、何とも皮肉で、そんな怪しい宗教がもたらしたフレディへの良い影響が描かれている。

でも、良い影響か悪い影響かは、見ている人の感じ方次第かもしれない。

正解が明確に描かれているわけではなく、時間も比較的長いので、すこし退屈に感じるところもある。

はっきりと何が言いたいのかを明示しないという、最近のポール・トーマス・アンダーソン作品のやり口だ。

が、このテーマにして重厚な作品だと思う。

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