それでも夜は明ける 英題:12 Years a Slave
監督-スティーブ・マックイーン 2013年 134分
脚本-ジョン・リドリー
出演-キウェテル・イジョフォー、ポール・ダノ、ブラッド・ピット、他
“オススメ☆4”の理由と考察、その感想
理不尽な搾取
思っていた内容と違った。
奴隷になった主人公が、あきらめないで妻と子供のもとに走っていく話だと勝手にパッケージとタイトルから想像していた。
突然連れ去られて、今までの普通の日常からいきなり奴隷の生活になるという地獄の12年間を描いている。
もし自分だったらと思うと最悪で、これが現実に起こっていたというのは、想像を絶する。
奴隷にされた人の描き方がリアル
もし自分が奴隷になったとしたら、何かしら企てて周りと協力し、なんととしてでも逃げ出せばいいんじゃないかと安易に思っていた。
実際はそう簡単な話ではなく、奴隷がみんなそう思っているとは限らないことに驚いた。
奴隷になっていても、あきらめてそこで生きていくことに集中した方が賢明だったり、嫌がっているよりもむしろそこで一生過ごすことを覚悟している人の方が多かったりする。
そういう人たちを説得するのは至難の業で、逃げ出すなんてそうそう出来るものじゃない。
奴隷にされた人達の思いも様々
必ずしもみんながみんな、逃げ出そうと思っているわけではなく、中には奴隷にやさしく大事に扱う農場主もいたりして、価値観がこんがらがってしまう。
楽しそうに暮らしている奴隷さえいる。
日々過酷な労働を強いられ、価値観も分からなくなっていき、逃げ出すなんてことはもう考えすらしなくなってくる雰囲気。
特に印象的なのは、主人公が白人に理不尽に暴力を振られていても、他の奴隷は見て見ぬふりで、何も助けてくれなかったりするシーン。
他にも、かつて奴隷で今は裕福な黒人が身近にいても、その黒人は自分が裕福になっているので、決して親身になって助けてはくれず、他人事のような助言を主人公に与えたりする。
これではとてもじゃないが、みんなで結束して農場主をやっつけようという団結など出来るものじゃない。
確かに奴隷にする方が絶対に悪いけれども、他の生き方を知らなければ、奴隷として生きることに何ら疑問も持たなくなってしまう。
抜け出せない悪循環、洗脳に近い。
幼いころから奴隷にされてしまっては仕方がないことだ。
奴隷制度の悪の本質を突く、鋭い切り口の作品だと思う。
主人公は家族を支えにしている
主人公の場合、自分で自立して家族を支えてきた人間なので、心までは支配されない。
とくに疑問も持たない他の奴隷たちを横目に見ながら、常に心は反骨心がくすぶっている。
自分の妻や子供を時折思い出して悔しさでいっぱいになったり、見ていてとても身につまされる。
くじけるんじゃない、と見ていて応援してしまう。
仮にこれを打破する手立てがなくても、心までは服従せずに強く持つべきだ、という姿勢を主人公が見せてくれている。
主人公は、12年間一度も、かつて自由だったときに見せたような心の底からの笑顔は見せなかった。
強い人だ。
ラストシーンで溢れ出す感情
最後のラストシーンはとても心動かされる。
12年という長い地獄のような日々を送ってきて、決して忘れることが出来なかった家族への思いが溢れ出すシーンが実にいい。
今までの描写もきつかった分、このシーンで跳ね上がる、報われる。
他の奴隷はどうなるんだ?とも考えるが、とてもそこまで考えられるような状況じゃなく、これは仕方がない。
主人公一人がもがいても解決することの出来ないくらい、根深い巨大な当時の社会的な問題だ。
誰しもがヒーローになれるわけではないので、この結末は実にリアリティにあふれていると思う。
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