映画「マジック(1978年)」が”オススメ”である理由と考察、その感想

②オススメ☆4

マジック 英題:MAGIC

監督-リチャード・アッテンボロー 1978年 107分

脚本-ウィリアム・ゴールドマン

出演-アンソニー・ホプキンス、アン・マーグレット、他

”オススメ☆4”である理由と考察、その感想

若かりし名優

 若い頃のアンソニー・ホプキンスの不気味な演技が光るサスペンスドラマ。

静かな語り口だが、人間の狂気の怖さが見事に描かれている。

途中で人形が命を持つというSF物かなと思ったが、そうではなく、あくまで人間の心理が狂ってしまったら実際に起こり得るかもしれないという、サスペンスドラマとして描かれている。

 心が弱いコーキー

冒頭コーキーがステージでマジックを披露した時もそうだが、コーキーは自分のマジックを見ようとしない客に向かって怒鳴ってしまった。

確かにちゃんと見ようとしない客も悪いだろうが、お客さんを振り向かせるほど魅力があるマジックをコーキーも出来ていたわけではない。

そこで、ああ自分はまだまだだと思えずに、見ない客が悪いんだと、自分と向き合おうとしなかった。

そんなコーキーは腹話術を使ったマジックで人気が出たが、根本の心は変わらないままだったんだろう。

腹話術を使い始めて、徐々にファッツとの息が合って人気が出始めたくらいの時はまだ大丈夫だったのかもしれないが、もっと人気を出そうとファッツを使って練習を続けていくうち、もうファッツなしではいられなくなった。

自分の言えないことを代弁してくれるファッツに依存し、のめりこみすぎた。

自分が喋っているのかファッツが勝手にしゃべっているのかもう自分でも分からないというというのは、見ているものにとってもファッツがまるで人間かのように見えることで、マジックショー自体の人気は揺るぎのないものになったが。

健康診断を拒否した理由

テレビに出れると聞いてファッツとコーキーは喜んでいたが、出るにあたって健康診断があると聞かされると、かたくなに拒否した。

本来であれば、拒否する理由が分からない。

健康診断をしたって、コーキーのおかしさはばれないだろうと思う。

仮に健康診断をしている間にずっとファッツがしゃべっていたとしても、はたから見たら変わった人だなくらいに思われる程度で、この人は病気だなどとは判別できないだろう。

むしろこの人はエンターテイナーだなくらいに思われるかもしれない。

最悪ばれたって、最高のショーが出来れば誰も文句は言わない。

全て告白したっていいくらいだ。

誰もそんなに深刻には受け止めないだろう。

それなのに、ばれたらいけないと思ってひた隠しにしようとするのは、自分でやましいと思っているからだろう。

かつて自分に注目してもらいたかったコーキーはファッツと出会ったことで圧倒的な人気が出て、ショー自体も自信をもって出来るようになったはずだ。

それはもちろん自分に自信が持てたということだから、何も隠すものはないはずだが、コーキーはそうではなかった。

コーキーにとっては、いつしか、ショーを成功させたい、人を楽しませるマジックがしたいということよりも、ファッツとの関係の方が重要になってしまったのかもしれない。

ファッツが一番で、お客さんやギャラや名声などは二番目以降になってしまったのかもしれない。

万が一自分がおかしいと言われて検査されて治されてしまうと、もうファッツとは会えなくなってしまう。

それは自分がおかしいとはたから言われることよりも辛いことだ。

ファッツとは離れたくても離れられない関係だ。

だから、そんな危険な要因は排除しておきたいということか。

人気は得たものの、コーキーの心自体は弱いままで、何も成長していなかったのかもしれない。

 もう少し葛藤が欲しい

検査を嫌がり田舎に逃げるが、コーキーに焦ったような様子はない。

コーキーは秘密を抱えて逃げたわけだから、出来ればもう少し焦った様子や葛藤が見えても良いと思った。

もう田舎に行ってからも基本的に落ち着いていて、そこまで心から苦悩しているという印象は受けなかった。

たまにファッツと口論してはいるが、比較的普通でさほど葛藤はしていない。

ファッツがマネージャーのベンやペギーの夫を襲った後だって、なんてことをしたんだという焦りが少ない。

むしろ、コーキーはその行為を容認しているかのようにも感じる。

もっと後悔し頭をかきむしってファッツと口論しているくらいでちょうどいいんじゃないかと思う。

自分とファッツとの考え方に違いが生じていて、自分でももう辞めさせたいがどうしようもないというくらい。

そういった感じがあったらもっと良かったが、比較的コーキー自身は落ち着いているので、カード当てやファッツの狂気性、ペギーの夫とのやり取りなど見どころもあるにはあるが、見ていてハラハラ感や緊張感が少なく、後半少し単調に感じてしまった。

コーキーはファッツを家においてペギーと会ったり、結構普通にファッツを触らずに過ごしていたりするので、それは別に大丈夫なのかと思った。

そこらへんも家に帰ったらめちゃくちゃファッツに怒鳴られたりしてもいいし、見た目は普通にしていてもファッツと離れたら内心気が気じゃなかったり、ファッツとしゃべっていない時の方がコーキーにとって異常に感じるという所が見たかった。

最終的には自分で自分を刺したわけだから、葛藤は一応していた訳だが、それでももっと苦悩する場面が見れたら、見ているこっちももっとコーキーに感情移入出来たんじゃないかと思う。

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