アルカトラズからの脱出 英題:Escape From Alcatraz
監督-ドン・シーゲル 112分 1979年
脚本-リチャード・タークル
出演-クリント・イーストウッド、パトリック・マクグーハン、ロバーツ・ブロッサム、他
映画「アルカトラズからの脱出」のあらすじ
刑務所から脱出を何度も試みたために、アルカトラズ刑務所に護送されてきたフランク。
そこはサンフランシスコ湾に浮かぶ島の刑務所で、潮は流れが速く、脱獄不可能と言われた場所だった。
知能指数が高いフランクは、所長のウォーデンに目を付けられてはいたが、日々過ごすうちに脱獄できるのではないかと思いつく。
秘密裏に仲間をつのり、必要な機材を集め、徐々に脱獄の準備を進めるフランク。
果たして脱獄不可能と言われている刑務所から脱獄することは出来るのか?
“オススメ☆4”の理由と考察、その感想
ハードボイルドに包まれる
シンプルな描き方の映画だ。
特になぜフランクが刑務所に入っているのかなども描かれずに、途中からひたすら脱獄についての計画が進んでいく。
クリント・イーストウッドの静かで深みのある雰囲気も相まって、淡々としてはいるが味わい深い作品になっている。
囚人同士の会話など、ウィットに富んだやりとりが面白い。
絵をかくのが好きな囚人、老人のドクが、所長に理不尽に絵を書くのを禁じられ、抗議として自分の指を切り落とすところは強烈に印象に残っている。
脱獄の計画が進んでいくに連れ、少しうまくいきすぎている所もあったように感じるが、まあそれはハードボイルドさで補っていると捉えて、あまり気にしないことにしよう。
全てがとんとん拍子ではなく、犠牲を払って計画を進めなければいけないところも描かれてはいる。
実にシンプルだが、男の魅力が詰まっているハードボイルドな作品だ。
どちらかというと男向きな映画かも知れない。
終わり方も結果を明示するわけではない小粋な感じになっている。
実話を元にしているというのもあって、こういうリアルをベースにしたシンプルな見せ方なのかもしれない。
貴重な脱獄物、決してヒーローとは限らない
犯罪を犯したから刑務所に入っている訳で、囚人全員が全員冤罪ではないはずだ。
だから、脱獄する者をヒーローにするというのは、結構難しいんだと思う。
昔こそ腐敗した警察がいて、理不尽に刑務所に入れられるということもあっただろうが、現代においてはかなり少なくなっているから、脱獄物自体、時代の象徴なのかもしれない。
その脱獄物の中でも、この作品は白黒をはっきりさせておらず、そういう意味で珍しい作品なのかもしれない。
フランクはなぜ刑務所に入っているのかも分からないし、決して分かりやすいヒーローという訳でもない。
そこらへんはうまくそぎ落とされて、善か悪か、という単純な構図にはしていない所がリアルなんだろうと思った。
イーストウッドの深さが光る 追記:2023/05/24
イーストウッドらしいと言えば、イーストウッドらしい、あまり主人公の状況について詳しく説明せず、行動で見せていく作品かもしれない。
脱獄するための逃げ道や人形など、知恵を絞ってコツコツと工作し、緻密に計画を立てていく様は知的さも感じるし、どちらかというと男心をくすぐる描写が多い。
モデルになった実際のフランクは、13歳の頃に犯罪に手を染め始め、10代で強盗や麻薬の売買で逮捕され、この時は銀行強盗の罪で服役していたらしい。
なので、そこを映画の中ではっきりさせてしまうと、フランクを感情移入して見れないので省いたのかもしれない。
作品の中で、見ているこっちはフランクに対して、きっとこの人は何か間違って刑務所に入れられているのか、もしくは何かの深い理由があって犯罪に手を染めざるを得なかったのか、などとイーストウッドの深い立ち振る舞いがゆえに思わされる。
多分この人は悪い人じゃない、と思わされるがゆえに、エンターテインメントとして成り立っている。
実際のフランクは銀行強盗をして捕まって、映画にあるように精巧に人形まで作って脱獄している訳だから、ヒーローでも何でもない。
むしろ反省のかけらもない、とんでもない大悪党で、そんな才能があるなら頑張って他に生かせ、格好良く脱獄する以前にそもそも刑務所に入るな、と思ってしまう。
それとも、こんな頭の切れる人間をちゃんと働かすことが出来ない、理不尽な社会へのアンチテーゼとも言うのか?
いや、庶民が汗水流して稼いだ金を銀行から奪っている訳だから、成立しない。
だからこそそういった設定はぼやかして、うまい具合に魅せる映画にしていると思う。
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