映画「セブンス・コンチネント(1989)」が“オススメ”の理由と考察、その感想

②オススメ☆4

セブンス・コンチネント 英題:The Seventh Continent

監督-ミヒャエル・ハネケ 104分 1989年

脚本-ミヒャエル・ハネケ

出演-ビルギット・ドル、ディータ・ベルナー、他

映画「セブンス・コンチネント」のあらすじ

父のゲオルクは研究所で働き、妻のアンナは弟と眼鏡屋を経営しながら主婦業をこなし、娘のエヴァは小学校に通っている。

何気ないが、ささやかな幸せを感じているであろう一家の日常。

数年が経ち、家族に微妙な変化が現れる。

ゲオルクは上司とそりが合わず、妻のアンナは母を亡くしうつ病になった弟を気づかい、エヴァは学校で先生に目が見えなくなったと嘘をつく。

それでもゲオルクは昇進の話があり、アンナも落ち込んでいる様子はなく、エヴァも普通に学校に行っている。

ラジオから悲観的なニュースが流れたり、眼鏡屋で客の女性が自分の子供時代の話をしたり、一見何気ない日常が展開していく。

また、家族で車に乗って街中を走っているとき、道路わきに交通事故で横たわっている遺体が目に入る。

それを見たあと、洗車中の車内でアンナが突然泣き出してしまう。

特にこれといった反応をするわけでもないゲオルクとエヴァ。

何がきっかけになったのかは分からないが、家族はある計画を実行に移すために準備を始める。

三人はゲオルクの故郷を訪ね、両親に会う。

そのあと家に帰ってから、ゲオルクは仕事を辞め工具を買い込み、アンナは貯金を全額おろして豪勢な食材を買い込んだ。

エヴァは好きなように画用紙に絵を描いている。

そして、家族の計画は実行されるのだった。

“オススメ☆4”の理由と考察、その感想

心地の悪い描写がたくさんある

非常に分かりづらいが、見ているものに強く訴えかけてくる何かがある。

それが何かははっきり分からないが、プラスでないにしろ心に残る。

結末が、え?なにこれ?となった。

たんたんと作業的に計画を進める映像が多いが、非常に心地悪い。

ハネケ監督は、見せ場をあえてそういう風に見せているのだと、インタビューで言っている。

とても異様な映像で、不快にさえ感じた。

なにせラストの予兆が見ていて感じられなかったで、なおさらそう感じた。

グロテスクとか、そういうことでは決してない。

見たけど意味が分からなかった、という人もいるだろうが、それが良いんじゃないかとも思う。

伝えようとしている意味は分かるけどいまいち伝わってこない、という映画はたくさんあるが、伝えようとしている意味すら分からない、という映画はあまりないような気がする。

しかもそれまでの映像に特に作為的な空気は感じられないので、より最後のシーンが際立つ。

伏線があって、後から「なるほど、そういうことだったのか!」とスッキリはしない。

どういうことだ?と今まで見た映像をプレイバックし、なるほど、全編にわたってラストの行動をするための準備だったのか、ということは分かる。

しかし、なぜその結末を望んだ?となり、結局すっきりしない。二段階ですっきりしない。

それは監督本人すら、伝えようとしている意図を分かっていない、意図を明確に意識していないという、本人がそう言っていた。

何か全てがつながる真相があるのか?と思うとそうではない、しかし決して浅い意味ではないと感じてしまう。

だから真相などないので、感じたままが全てなんだろう。

自分もどういうことだ?と思って真相を探したが、ほとんど何も出てこなかった。

序盤からラストまでは退屈に感じるところもあるが、ラストの計画を実行するところは何かを強烈に感じるはずだ。

トイレのシーンでは、映画祭で不快になり席を立った人もいたらしい。

退屈に感じる所もあるが、ぜひ最後まで見て欲しい。

一見普通だが、普通でない異様な映画:追記2023/05/13

この家族が実行する最後の行動は、勘の良い人でないと予測できないかもしれない。

自分は最後まで分からなかった、分からなかったからこそ、強烈に頭に残っている。

というか、途中で分かったらすごい。

派手ではなく、エンターテインメントでもなく、かといってただの普通の家族の日常でもなく、普通に見えるが異様である、非常に変な映画だ。

きっと、多くの人はこの映画を借りようとも思わないかもしれない。

途中で見るのをやめるかもしれない。

卓球のラリーを延々と見せられる所など、必要以上に長く見せられるので、何だこれ、となってくる。

そういうシーンがたくさんある。

ごく普通の光景が、少し変えただけで異様に感じてしまう、やろうと思えばだれも出来るが、誰もやろうと思いつかない。

日常と非日常の境界線を超えることが出来る、些細に見えるが劇的に映像の質を変えることが出来る工夫をこの監督は知っている。

そういう意味でハネケは、デヴィッド・リンチと似た、彼とはまた違ったアプローチで、映像を使って人の目をくぎ付けにすることが出来る、世界で指折りの映像作家である。

話術に長けていて口で人を騙す人はいる、文章で人を虜にしてしまう人もいる、彼らは映像でそれを行う。

派手さや、色々詰め込んだりして映像を見させる監督は数多いが、どちらかと言えば引き算で、お金もかけずにそれを達成してしまう。

日本で言えば、初期の北野武の作品にその片鱗が少しあったんじゃないかと思う。

昨今の日本作品ではこんな映画は皆無、興行収入と無縁の映画。

おススメの映画は何?と聞かれて、真っ先にこの作品を、これおススメだよ!と軽くすすめてくる人は危ない人だから要注意だ。

そんな人はいないか。

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