映画「プリズナーズ(2013)」が“物足りない”理由と考察、その感想 

④物足りない☆2

プリズナーズ 英題:Prisoners

監督-ドゥニ・ヴィルヌーヴ 2013年 153分

脚本-アーロン・グジコウスキ

出演-ヒュー・ジャックマン、ジェイク・ギレンホール、ポール・ダノ、メリッサ・レオ、他

“物足りない☆2”理由と考察、その感想

序盤は実に良い

序盤から緊張感のある映像で引き込まれ、中盤まで結構楽しめた。

しかし、長時間で終盤まで見ると結構だれてしまう。

感情の流れを大事にしているのは良いが、もっと短く凝縮することはいくらでもできたと思う。

ジェイク・ギレンホールも悪くないし、ヒュー・ジャックマンの怒りに任せて暴走する父親も見応えがあり、役者陣の演技もリアルで映像の雰囲気も緊張感があるが、話におかしな点も多く、全体として重厚風な作品にとどまっている印象を受ける。

役者は良くても、脚本や編集などでかなり変わってくるから、映画も心技体全てが一致しないとやはり良いと言えるものにはなりえず、難しい。

警察の能力が中途半端

まず序盤から警察がずさんな調べ方をしているので、なんだかなぁとなる。

最初の容疑者の家宅捜索で、もう事件は解決していたはずだ。

ずさんであれば、娘を誘拐した犯人と、ずさんな警察両方と戦わなくてはいけない、という父の孤独な闘いになるので、それはそれで父を応援できるので悪くない。

あえて腐敗したずさんな警察であれば、それはそれでドラマになる。

序盤はそんな雰囲気があったがそれは序盤だけで、決して全体を通しての筋にはなっていない。

警察は能力は高くないが悪気はなく、一応犯人を捕まえようとしているので、悪でも正義でもなくなんとも中途半端だ。

事件を担当したロキ刑事は担当してきた事件を全て解決してきたと敏腕刑事ということだが、最初の容疑者から何一つ聞き出せない、家宅捜索をちゃんとしていない、素人に拳銃を奪われて自殺を止めることも出来たのにただお見合いしていただけ、父の方が序盤であっさり核心に迫っていた、などなど、とても敏腕とは思えない。

悪寄りで徹底的に適当にやるわけでも、堅物の正義感でもなく、普通の刑事で、物語の盛り上がりにはさほど貢献していない。

わざわざジェイク・ギレンホールがやるほどの深い人物描写ではないので、なんとももったいない使い方だ。

警察がずさんを通り過ぎて悪に近ければ、父の狂気じみた行動がより際立ったはずで、これはいいのか悪いのか、警察が何もしないからしょうがない、いやしかし結局犯人でない人間を拷問してしまった、などと、見ているものをより考えさせることが出来ただろうと思う。

警察が敏腕でないけど悪気はない、というふわふわな状態で父が勝手な行動をとっても、これは父が暴走してもしょうがないと思いづらく、ただ父が行き過ぎた人間になってしまうので、見せたいところもずれてしまっている。

面白くなりそうなのに、もったいない。

報われないドーヴァー

終盤に向かっての展開も、あまりにドーヴァーが報われなくてかわいそうだ。

容疑者に拷問を加えたドーヴァーは多分刑に服することになる、と最後にロキ刑事は言っていたが、ドーヴァーだけでなく、ジョイの父も加担したし、母は知ってて見て見ぬ振りしたわけだから、ドーヴァーだけが悪いのではない。

ロキ刑事自身ももっと早く真相にたどり着けたはずだし、ミスも多いくせに、よくしらっと「恐らく刑に服する」なんて言えるな、自分がもっと早く見つけていれば、とかいう後悔もないのか?と、ロキがアホっぽく見えてしまう。

ドーヴァーの行動が、結果的には犯人の逮捕のきっかけ、娘を助けるきっかけを作ったとはいえ、あれだけ容疑者を暴行しておきながらヒントは何も得られないばかりか、最後に助かる描写も描かれず、そののち刑務所に入るんだ、という感じの描き方がなんともかわいそうだ。

むしろ、病院でジョイからの証言を聞く前からドーヴァーは真相にたどり着いて乗り込んだが返り討ちに合い監禁され、病院でジョイの証言を聞いたロキが駆けつけ紙一重で二人とも助かる、最後はホイッスルで助かる、という方が気持ちよくないか?

要素は悪くないのに、タイミングとか息のむ展開の描き方が実に下手だと思う。

ドーヴァーの事件解決への貢献はあるはずなのに、それがなぜかあまり描こうとしないから、これではドーヴァーが容疑者を拷問しなくても娘は助かっていた可能性は十分にある、ということになってしまい、ドーヴァーへの印象が悪くなるのは当然だ。

拷問するという非合法な手段を取っていたが、それが結局決め手になり、それがなければ娘は助かっていなかった、ということだからこそ、そのドーヴァーの常軌を逸した行動が強烈な物議を醸すはずなのに、そうはなっていない。

拷問されていた容疑者の叔母に、あなたの甥が見つかりましたと伝えに行った時にたまたま刑事が犯人の犯行現場を目撃した、というのはあまりに偶然過ぎる。

ドーヴァーが容疑者を監禁したという外側の事実だけが解決の糸口になるんじゃなく、実際にドーヴァーは解決になる証言を引き出していた、ドーヴァーは正しかった、ただのおかしい人間じゃなかったんだ、暴力をふるったことは確かに悪いけれども、ということでなければ、本当にドーヴァーは報われない。

ドーヴァーが独自の捜査で娘を守り、犯人はロキが逮捕する、やっつける、という展開だったら、ドーヴァーも胸を張って刑に服するという深い話になっていたんだと思う。

そこらへんのピースを掛け違っていたら良くなっていたのに、という惜しまれる感じだ。

息詰まる展開が下手

全体的な雰囲気は悪くないが、描き方が下手な所がちらほらがある。

同じ描写の繰り返しなのに、長めに回していたり、もっと良い意味で省ける所はたくさんある。

その方がより激しく展開していく感じが出るだろう。

編集が下手なのかもしれない。

ロキが容疑者に詰め寄り、拳銃を奪われるシーンでは、もっと紙一重感が欲しい。

銃を下ろせと言って、ロキも銃を構えるが、自殺しようとする感じは分かるのに、そのままみんなで見ているだけというのは、おかしい。

自殺するのが分かって足を撃つとか、体を撃ったけどそれでも無理やり自殺したとか、銃を奪って間髪入れずに自殺したとかなら、まだ分かるのに、リアルではない。

あと、終盤でドーヴァーが容疑者宅に乗り込むところも、一体どんな作戦であんな何かを考えているような暗い感じで部屋に入り、台所で数秒間不自然に背中を向けたのだろう?

あまりにも無防備だ。

そんなことをおくびにも出さずに本当に修理に来たという雰囲気を演じて、スキを見て銃を出そうとしたが容疑者の方が上手でかなわなかった、というのなら分かる。

そこらへんは役者もおかしいのは分かっているんだと思うが、監督がそう演出しているならもうお手上げなのか?

ドーヴァーが容疑者に銃を向けられ穴に入れと言われるが、「そんなところには入らない、撃ちたきゃ撃て」と言って本当に撃たれたらしぶしぶ穴に入るのでは情けない。

何発か撃たれて穴に強引に押し込まれる方がドーヴァーの抵抗も感じて良いだろう。

盛り上がっていきそうなのに、余計に長い描写や、不自然な描写、心地よくない話の展開などで、うーんとなってしまう。

いくら役者はそろっていても、話の展開や細かい描き方でいくらでも変わってしまうんだと、改めて感じさせられた。

怒りに震えるヒュー・ジャックマンの全てをしょいこんだ雰囲気は実に良かったがゆえに、もったいないと感じてしまう。

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