映画「プラダを着た悪魔(2006)」が“オススメ”の理由と考察、その感想

②オススメ☆4

プラダを着た悪魔 英題:The Devil Wears Prada

監督-デビッド・フランケル 2006年 110分

脚本-アライン・ブロッシュ・マッケンナ

出演-メリル・ストリープ、アン・ハサウェイ、スタンリー・トゥッチ、他

映画「プラダを着た悪魔」の簡単なあらすじ

名門大学を卒業したアンディは、ジャーナリストへの足掛かりとして、世界的なファッション誌「ランウェイ」に就職することに成功する。

ファッションに興味もなく、軽い気持ちで入社したアンディだったが、編集長ミランダの助主としての仕事は過酷を極めるものだった。

鬼編集長のミランダに次から次へと用事を言いつけられ、理不尽な要求も数知れず、さらには自分のファッションまでこき下ろされてしまう。

新人アシスタントは嫌気がさしてすぐに辞めるという仕事であったが、負けん気の強いアンディは、時には傷つき、憤慨しながらもなんとか耐え続ける。

徐々に悪魔のようなミランダの要求に答えられるようにはなってきたが、私生活には支障をきたすようになって行く・・・。

“オススメ☆4”の理由と考察、その感想

厳しいファッション業界の内情が描かれている

アン・ハサウェイ演じるアンディが、鬼上司を認めさせるために、仕事を覚えてどんどん上り詰めていく様がテンポよく小気味良い。

鬼上司のミランダは、急に予定を変更したり、関係ない家の用事を頼んだり、部下への理不尽な要求も多いが、仕事へのプロ意識は誰よりも高い。

それをメリル・ストリープが、ただの理不尽だけじゃないそれなりの人格として演じていて、実にコミカルな雰囲気が出ている。

現実にあんなに家の用事を頼みまくっていては、実際にはアシスタントとしての肝心な仕事は全くできないと思うが、その誇張した所もメリル・ストリープが演じることである程度説得力を持ってしまう。

ファッションの業界の雰囲気はあんな感じなのかとちらっとでも知った気になれた。

ミランダの印象が強すぎて、実際のリアルなファッションの現場が描かれているのかというと、きっとそこまでではないのかもしれないが。

 アンディがどう成長したのかをもう少し見せて欲しかった

未熟だった若者が、世界的トップクラスのファッション誌で色々もまれて成長したのだと思うが、どこがどう成長したのか、気づきの部分など、もう少し見たいと思った。

ジャーナリスト志望ということだが、ランウェイで働く前はジャーナリストにただ憧れているだけの若者だったはずだ。

いくらジャーナリストになるための足掛かりに働くとはいえ、自分がこれから働く所は畑違いなのに何も勉強しようともせず、来る途中で買ったオニオンサンドを買って歯も磨かずに面接にのぞむ、というのはなんともなめきっていて、ジャーナリスト以前に社会人として未熟だろう。

そもそも世界的な雑誌だということも知らないというのはジャーナリスト志望としてどうなのかと思うし、こんな状態で仮に新聞社に入ったとしても、大したことにはなってないはずだ。

もしいきなり新聞社に入ったとして、ミランダのような上司がいたとしたら、そこでもきっと同じことになって仕事が嫌になっていただろうから、ミランダにもまれてよかったのかもしれない。

むしろ、ミランダにもみくちゃにされることで、社会人としてのたしなみのようなものが少なからず身についたことは確かだろう。

理不尽なことはあまりにも多かったが。

そんなアンディが、ランウェイを辞めるに至ったが、成長した上で見限ったから辞めたのだと思いたい。

どう成長したのか、というのがアンディの口からもう少し語られたり、もう少し何かしらで分かるように描いてくれたらさらに良かったなと思う。

足掛かりというだけの理由で、最初はクビになってもいいというようなアルバイト感覚で働こうとしていた最初の自分から、どう成長したのか変わったのかということを、自分の中で当たり前のこととして流さないで、こちらにも教えて欲しかった。

何のためにランウェイで働いているのか、本当にジャーナリストになりたかったのか、働くということを自分はどう思っていたのかなどだ。

ジャーナリストになりたい人間の取る行動ではないから、ジャーナリストになるというのは若者特有の憧れだけの志望動機だったとしたら、そんな未熟さに気づいた一面も入れて欲しかった。

華やかな世界に浮かれたということより大事なことだと思う。

気づいたうえで、やっぱりやりたいから、というので新聞社に応募するならなおいい。

もし、ミランダが鬼ではなかったときに、アンディはランウェイを一年で辞めていなかった可能性もあるわけで、全てに気づいたから突然辞めたんだと思いたいが、描写が少しさらっとしている気もする。

アンディは前向きで良いが、繊細だが強くて前向きというよりは、鈍感な前向きさだ。

ファッション誌のスタッフからは酷評されているが、スタイルも良いし、かなりの美人で、こんな人はあまりいないだろう。

それだけに、恵まれている人間に見えてしまうので、もう少し激しい葛藤や落ち込みなども見たかった。

 アンディの恋人の気持ちも深くしてほしかった

 アンディの恋人関係だってアンディが人間的に未熟であれば、うまくいくはずがない。

ミランダの助手として働いたから恋人関係が破たんしたのではなくて、もともと二人とも未熟だったから破たんしたわけで、きっと新聞社に最初から入っても、同じことになった可能性もある。

アンディと彼氏、両方共が未熟だった。

アンディが恋人とよりを戻すシーンで、アンディが「なぜミランダの元で働いていたのかしら」と言うと、彼氏が「靴や服が欲しかったから働いていたんだよ」と、言い返し、さもアンディが悪魔に心を売ったように虫式の部分を指摘して皮肉を言うが、これは的外れだ。

アンディは確かに自分の最初の目的を忘れ、華やかな世界に舞い上がってしまったが、ミランダの元で働き続けた理由は、決して豪華な服や靴が欲しかったからではなく、ミランダとの闘いに負けないためだった。

靴や服が欲しいというよりも、このミランダというむかつく人間に負けないというテーマで、なにくそと奮起し仕事を覚え、頑張ってきた。

ジャーナリストになるという目的が、いつしかミランダと闘うこと自体にすり替わってしまってしまったことは確かだが。

アンディが一方的に恋人関係を破たんさせたように描かれているが、男の方にも問題はある。

仕事でどうしても抜けられなく、それでも誘惑をかいくぐって遅くなりながらも彼氏の誕生日に帰ってきて、謝っているにもかかわらず、彼氏はむすっとしたままだった。

アンディだって悪気があるわけではなく、一生懸命に仕事にのぞんでいただけで、それが例えミランダとの闘いだったとしても、彼氏はもっとアンディを応援すべきだったと思う。

人間的に未熟なアンディは、どのみち成長するための厳しさが必要だったわけで、それを彼氏は分かっていたわけではなく、包み込むわけでもなく、ただ「そんなところで働くのはやめた方がいい」というだけでは、二人の関係にも何の発展性も見込めないだろう。

アンディの未熟さを包み込める人間だったら、誕生日に仕事で来れなくても、アンディのことをねぎらったりしていたはずだ。

アンディの彼氏もまた人間的に未熟で、若いということもあるのだろうが、魅力あふれる人間ではなかった。

仮にミランダの元で働かずに、この彼氏にただ優しくされていただけでは、アンディは成長できなかったはずだ。

だから、最初からずっと彼氏はアンディのことを応援していて、アンディの気持ちが変わって一方的にアンディから離れる話だったらより分かるし、そうでないのであれば、最後によりをもどすシーンで、彼氏もまた自分も未熟だったということをアンディに打ち明けても良かったんじゃないかと思う。

打ち明ける以前に、彼氏はそんなことにも全く気付いていないという人物だとしたら、アンディが悪かったという短絡的な話になってしまう。

そういう意味で、アンディの彼氏の人格も重要な要素であるのに、そこをもう少し掘り下げて描いてほしかった。

アンディの驚くべき能力

 アンディがミランダに自分の着ている服の価値をみんなの前でこき下ろされ、そこから劇的に服のセンスが良くなるが、そのブランド服はどこから調達したのか?

きっとかなり高い服ばかりだとだと思うのだが。

給料が良くて自分で買ったのか、それともランウェイからもらったのか、いずれにせよ洋服を手にしただけでファッションセンスまで良くなるというのは、どういうことなのか?

もともとファッションセンスは抜群に良かったということか。

ファッションに興味がないだけで、もともとファッションセンスは良かったうえに、陰でめちゃくちゃファッションについて勉強したということか?

いざ勉強してみたら、あっという間に吸収できたとしたら、それは天才的だ。

そこらへんの能力がアンディがジャーナリストになりたいという自信のゆえんか。

パーティーで来賓の名前を急きょ覚えることが出来たということから見ても、記憶力や情報処理能力も含め、もともと相当な頭脳の持ち主ということと解釈しよう。

 若者の社会体験

単に上司との対立を描いている訳ではなく、未熟な若者の成長物語でもあり、ミランダとアンディの対照的なキャラクターがコミカルで分かりやすい。

主要人物の心理がもっと深ければより面白くなったと思うが、自分は何をしたいのかなどがぶれてしまう若者の心理など、よく描かれていると思う。

メリル・ストリープとアン・ハサウェイのコンビネーションがいい。

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