映画「パンズラビリンス(2006)」が“物足りない”理由と考察、その感想

④物足りない☆2

パンズラビリンス 英題:Pan’s Labyrinth

監督-ギレルモ・デルトロ 2006年 119分

脚本-ギレルモ・デルトロ

出演-イバナ・バケーロ、セルジ・ロペス、アリアドナ・ヒル、他

映画「パンズラビリンス」の簡単なあらすじ

舞台は独裁政権と抵抗軍が内戦状態にあるスペイン。

主人公の少女オフェリアは、母が冷徹な独裁政権軍の大尉と再婚したことにより、母と一緒に田舎に移住し、政権軍と行動を共にすることになる。

大尉はとても父と呼べるような人間ではなく、気にくわない市民に冷徹な仕打ちを平気で行っていく。 

オフェリアはそんな父と距離を起きながら、森で出会った怪物達と触れあい、非日常のファンタジーの世界に没頭していく。

一方抵抗軍は、政権軍への反乱の機会を狙っていて、オフェリアも巻き込まれていく。

“物足りない☆2”理由と考察、その感想

ファンタジーとシリアスなドラマの融合

SFですが、内戦状態の厳しい社会情勢がしっかりと描かれ、それが軸になっていて、人間ドラマとしても重厚さが感じられる。

そんなドラマの中にファンタジーの部分が、気持ちの悪いリアリティを感じられる映像美と共にうまい具合に入り込んでいる。

政権側と抵抗軍のせめぎあいが進む一方、オフェリアと怪物達の関係性も進展していき、二つのストーリーが微妙に絡み合いながら並行して進んでいく。

曖昧なラストシーン

両方の展開が熱を帯びていくにつれ、これはどうなっていくんだと、期待感が膨らんでいくが、最終的な結末が悲惨な結末を迎える。

これは賛否が別れる所だろう、自分は好まない。

オフェリアは最終的にはファンタジーの世界へ行けたというのは良いとしても、果たして現実世界で命を落とす必要があったのか、現実世界で命を落とさずにファンタジーの世界へ行ったって良かったんじゃないかと思う。

実は自分の命を捨ててでも弟を守るのが最後の試練だったと言われても、なんだか怪物側の後付けにも思えるし、どこか不信感があり、なんともいけ好かない。

そういうことだったのか、と感じさせてくれる迎えられ方なら気持ち良かったのが、そこが雑な気がする。

全て妄想なのか、そうでないのか、投げかけて来る所もむずがゆい。

あえてどっちつかずにして考える選択肢を与えているつもりかもしれませんが、ただのどっちつかずだと思ってしまう。

気持ちが下がる展開の裏切りであり、もし、こんなファンタジーは他にないから、という理由でやったんだとしたら、それは安易に思える。

かわいそうな少女に見えるという要素が、短絡的な結末を招いてしまっている。

もし全て妄想だとしたら

もし全て妄想だったとした場合、たまにこういうオチはあるが、やはり嫌いである。

それがリアルな現実だと言われても、ただ厳しい現実を見せられただけでは強いメッセージにはなりえないと思う。

確かに、オフェリアにしてみたらおよそ父と呼べるはずのない冷徹な人間が父で、そんな父についていこうとして、自分のことなどあまり考えてくれていない母、そしていつどうなるか分からない社会情勢は少女にとってはとても辛すぎるものだろう。

生きていても生きている心地などせずに、妄想の方がよっぽどリアルに感じるのかもしれないのは分かる。

そんな妄想の中で生きたからと言ってオフェリアがちゃんと生を全うしたことに変わりはなく、決してオフェリアを否定しているわけではないが。

現実は悲惨でも妄想は自由である、という現実と妄想の対比で、現実は悲惨な結末で終わるというストーリーは確かにリアルかも知れないが、何が面白いのか分からない。

妄想も現実の一部であり、強い妄想は現実に多分に良い影響を及ぼすことだってあり、妄想は決して辛い現実の隠れ蓑ではないんだと思う。

それが、結局大して現実に影響せずに、最終的に現実には勝てないと言われているように感じられ、イラッとする。

あの大尉なんて、レジスタンスに最後は囲まれて銃で撃たれたが、そんなものは甘すぎるほどの酷い人間な訳で、あれでは全然足りないと思う。

ましてやこの世界は実際に存在した内戦を舞台にしている訳で、ホラーにもなり得ない。

その独裁政権を正当化しているとまでは言はないが、もっときつい罰があってもいいと思うし、メッセージが弱い。

現実は厳しいんだという、その先のもっと強いメッセージを見たい訳で、お涙ちょうだいレベルであえて止めている感じがもやもやする。

実際にこの内戦でオフェリアの様に命を落とした子供だって存在するだろうし、もし全て妄想だとして、オフェリアにとってのファンタジーの世界が、実際に命を落とした子供にとっての「パンズラビリンス」にはなり得ないと思う。

もし自分が内戦で命を失った子供だとして、幽霊になってこの「パンズラビリンス」を見た時、代弁してくれているなんて微塵も思わないと思う。

むしろ、最後まで妄想でなくファンタジーで突き通してもらった方が、心が落ち着く。

この妄想を匂わすオチを見た時に、幽霊ながらにショックを受けそうな気がする。

妄想だとするならば、妄想でも報われたと思える描き方を見たかった。

妄想でなかったら

もし妄想ではなく、怪物たちは実際に存在していて、魅力のない現実よりもファンタジーの世界に行けて嬉しいということであれば良いが、その描写も足りない。

終盤までは良いとしても、最後は現実に影響を及ぼしたはっきりとした描写が欲しい。

最後らへんのシーンに凝縮してもいい。

大尉には怪物が見えてしまってもいいし、オフェリアが命を落とさずに姿を消してファンタジーの世界に行ったっていいんじゃないか。

怪物のパンが、邪魔だからと大尉を一撃でやっつけたっていい。

映画の表現の仕方は自由だから、最後に妄想なのかそうじゃないのか曖昧にしてもかまわないとは思う。

しかし、そこ止まりであって、心を揺さぶってくるメッセージまでにはなり得ていない。

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