映画「インビクタス/負けざる者たち(Invictus)」(2009)のあらすじと感想

④物足りない

監督-クリント・イーストウッド 2009年 132分

脚本-アンソニー・ペッカム

出演-モーガン・フリーマン、マット・デイモン、トニー・ギゴロギ、パトリック・モフォケン、他

「インビクタス/負けざる者たち」のあらすじ

南アフリカで、テロリストとして刑務所に27年間投獄されていた民主活動家のネルソン・マンデラは、解放を求める世界の世論の後押しもあり、1990年2月11日についに釈放される。

その後マンデラの働きかけで、人種隔離政策アパルトヘイトは廃止、マンデラは大統領に選出され、次々と身近な場所から改革を行うも、白人や黒人、民族間の対立は未だ残っており、その融和に頭を悩ませていた。

そこで、自国での第三回ラグビーワールドカップ開催に目を付けたマンデラは、当時弱小と言われていた南アフリカ代表を人種の融和の象徴にするため、政府をあげて応援することを決める。

南アフリカ代表のキャプテン、フランソワは大統領官邸に呼ばれ、その大役を任されることになるのだった。

「インビクタス/負けざる者たち」の感想

スプリングボクスはどうやって強くなったのか?

刑務所から出てきたネルソン・マンデラが大統領になった南アフリカが、ラグビーワールドカップで優勝するまでの軌跡を描いたドラマ。

クリント・イーストウッドの、実話を元にして作られているシリーズの一つである。

イーストウッドもマンデラも好きだし、まだ見ていなかったので見てみたが、かなり期待外れだった。

マンデラが南アフリカ代表に、自国開催のワールドカップで優勝するように働きかけをしていくのは分かるが、なぜ代表チームが優勝できるほどに強くなっていったのかが、ほとんど描かれていない。

マンデラがアパルトヘイト時代の代表チーム名をそのままにしたり、キャプテンを激励してインビクタスという名の詩を送り、選手たちに黒人の子供たちなどにラグビーを教えるボランティアをさせたり、選手たちの士気は高まったことは確かだが、それだけで弱小チームが優勝できるとは思えない。

ウィリアム・アーネスト・ヘンリーの書いた詩、インビクタスは素晴らしいけれども。

少なからず選手の中にもあった差別意識が消え、自分のチームに誇りを持てるようになり、練習に臨む姿勢が変わって、練習時間が増えたり、実際に選手たちの行動も変わっていく所を、なぜもっと描かなかったのか分からない。

そのどうやって強くなっていったかのプロセスが面白いし、そこが一番見たい所だったのに、そこがばっさりとない。

実の所、マンデラが大統領になる前から、南アフリカ代表はワールドカップでは優勝候補である、と言われるほどチームは強かったようだから、無理に弱い設定にして劇的なドラマにしようとしたが、中身を描く時間はなかった、という感じなのかもしれない。

せっかく良い話であるが中身はなく、ハッピーエンドになっている、しかも歴史に照らした作品ということで、学校で見せられる教育的映画の様な、心地の悪さを感じる。

モーガン・フリーマンやマット・デイモンなど、役者は揃っているけどいまいち、

面白げだけど振り切れていない、というなんとももったいない作品である。

モーガン・フリーマンが制作したらしいが、何をやってるんだろうと思う。

イースト・ウッドも、この脚本のままなぜ監督を引き受けたのか分からない。

単純に、チームが成長していくスポーツものとしても、マンデラという深い人物のドラマとしてもどちらも中途半端で、薄い作品になってしまっている。

きっと、マンデラの事をあまり知らない人が見たら、より心に残りにくい作品になってしまっているんじゃないかと思う。

もし心に残ったとしても、ちゃんと描いていればもっと残ったはずだと思う。

マンデラとアパルトヘイトについてもっと詳しく描いて欲しかった

マンデラは民主化の運動をしていたにもかかわらず、テロリストとして刑務所に約30年入れられ、それでもめげずに刑務所内で法の学士号を取ったり、将来白人と共存するために、白人に人気であるラグビーを学んだり、白人の言語であるアフリカーンス語を学んだり、看守に対してずっと紳士的な態度であったり、生ける伝説、スーパーマンであり、そのマンデラの強烈さというものも、この映画ではあまり表現されていない。

結構言う事は言うなあ、くらいの、やり手社長くらいの感じにしか描かれていないと思う。

マンデラが刑務所で過ごしたその壮絶な歳月の成果の一つとして、ラグビーワールドカップがある訳で、それがあまり表現されていないし、このワールドカップでの南アフリカ代表の活躍がいかに大事か、なども見ていてあまりよく分からない。

アパルトヘイト、というとんでもなく非道な差別の法律が存在していて、それをマンデラがぶち壊し、差別していた人も、差別されていた人も一体化させるための道具として、象徴として、国民をあげてのワールドカップ優勝を目指す、という話なのに、その凄さがあまり伝わってこない。

こんな表層をさらった作り方にするくらいなら、ワールドカップの描写は少し省いてでも、ちゃんとマンデラの刑務所時代の途中から描いて、マンデラがどういう人間か、というのをもっとはっきり分からせてから、その後のワールドカップまでの振る舞いを見せた方が、深みが出る作品になったんじゃないかと思う。

アパルトヘイト時代の酷さがあまり描かれていないのも引っかかる。

冒頭でさらっと触れられるくらいで、それ以降は人々の差別的な言動行動というものは一切出てこないのは、世界の白人層に配慮してあまり多く描かなかった気もして、いささかもやもやが残る。

映画に出来るくらい歳月がたっているのに、まだそこはタブー視しているとしたら、なんとも恐れを知らぬイースト・ウッドらしくない。

差別して来た人、されてきた人、がお互いに歩み寄っていく、直接的な描写も見たかった。

ただみんなで応援している様を見せるだけでなく。

せっかくのマンデラを題材の映画を、マンデラに最適のモーガン・フリーマンが、そして南アフリカ代表のキャプテンらしいマット・デイモンが出演し、作品に深みを出せるイースト・ウッドが監督する、というこの上ないキャスティングなのに、もったいなさすぎる。

これで面白くならないことがあるのか?

きっと、この題材をもうこのメンツでは二度と撮れないし、せっかくお金かけて作ったのに、本当に本当にもったいない。

マンデラ、ワールドカップ優勝、アパルトヘイト、など描くべき対象が多すぎて、どれもちゃんと手に付かなかった感じなのかもしれない。

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