映画「マイ・ライフ、マイ・ファミリー(The Savages)」(2007)のあらすじと感想

③見て損はない

監督-タマラ・ジェンキンス 2007年 113分

脚本-タマラ・ジェンキンス

出演-フィリップ・シーモア・ホフマン、ローラ・リニー、フィリップ・ボスコ、ピーター・フリードマン、他

「マイ・ライフ、マイ・ファミリー」のあらすじ

派遣会社で働きながら、劇作家を目指す妹のウェンディと、大学教授をしている兄のジョンは、かつて家庭を顧みなかった父親と疎遠になっていたが、父と一緒に暮らしていたパートナーの女性が亡くなったため、急遽高齢の父を二人で引き取ることになってしまう。

父は認知症になっており、一緒に暮らすことが困難だと察した二人は、父を老人ホームに入れることを考える。

しかし、兄は大学の仕事で忙しく、ビザのせいで恋人と別れざるを得なかったり、妹はまだ作家として成功しておらず、妻帯者の年上男性と不倫をしていたり、それぞれ仕事でもプライベートでも問題を抱えている。

さらに父親の面倒まで見ることになった二人は、ことあるごとに言い争いになってしまうのだった。

「マイ・ライフ、マイ・ファミリー」の感想

ホフマンとリニーの軽妙なやり取り

年老いた父の恋人が亡くなったため、認知症でもある父を引き取ることになった息子と娘が、ケンカをしながらも父と向き合っていくヒューマンドラマ。

ローラ・リニーとフィリップ・シーモア・ホフマンのやり取りが面白いが、全体としては物足りない。

兄妹それぞれに生活があり、正直父親を引き取ることに大変さを感じていて、老人ホームに入れるか入れないかなどで喧嘩になったり、ホフマンとローラの兄妹の感じは非常にリアルで良い。

ホフマンの、一見無愛想でふてぶてしいが、別に悪い人ではなく、ある程度割り切って物事を考える感じの兄の人物像が、味があって非常に良い。

こんな人はきっといるが、こういう演技は嘘くさい、もしくはただの嫌な奴になってしまいがちだと思うので、一見非常にナチュラルだが、かなり難しい演技だと思う。

ホフマン節とも言えて、こういう役者は他にいないので、この作品でもその存在感を十分示していると思う。

ローラ・リニーもヒステリックになる感じも含め、味がある人柄で良い。

父と子供たちの気持ちが見えない

こういう親の介護の問題は誰もが抱えていて、まるでドキュメントであるがごとく、それぞれの人物の説明もさほどなく、リアルにその問題の一端を見せてくれている作品ではあると思う。

しかし、ストーリーとしては物足りない。

なぜ父は子供に嫌われているのか、父が子供にしたこと、父に対する子供たちの思いや、父からの子供たちへの本音など、ほとんど語られず、かといって想像で補えるほどの強烈な描写がある訳でもないので、非常にさらっとした作品になってしまっている。

家庭内暴力や、父が家庭を顧みなかった、などがあったのだろうが、子供はそれほど父を恨んでいる訳でもなく、父も子供を嫌っている訳でもない。

このくらいの激しすぎない家庭内不和が、リアルである、といえばリアルである。

しかし、無理にドラマティックにする必要はないが、子供が思っていた父への気持ちくらいは、ぶつけても良かったと思う。

父は酷かったけど、もう高齢で認知症も発症しているし、自分達も生活があり、もう父がしたことについて大して恨んでいない、だからお互い過去のことについては言わなくてもいいか、としてしまうのは楽で簡単だが、安易な道だと思う。

実際にそうする人も多いだろうから、それがリアルである言えばそうだが、見たいリアルではない。

父が自分のしたことを悪く思っていようがいまいが、気持ちをぶつける描写があっても良かったなとは思う。

むしろアメリカ人であれば、そこら辺はきつく追求する人も多いように思うが、そうしない彼らは珍しいのかもしれない。

兄は、自分達への仕打ちを思えば、良い施設に入れることなどしなくてもいい、などとは言うが、それだけでは物足りなく感じる。

こんな外見だけ良い老人ホームは偽善だ、などと妹には強く言うのに、父には何も言わない。

無理に感動的にする必要もないので、父が反省している、という描写を入れる必要はなく、相変わらず子供に対して何も悪いと思っていなくてもいい。

むしろ、そっちの方が、相変わらず嫌な父な方が、話としては面白かったような気もする。

父は、認知症という事だが、特に最初の壁に便で落書きする以外は、聞き訳も行儀も良く、特に問題を起こさず、真人間であるのも物足りない。

どっちかというと、わーわー喧嘩している子供達の方が子供であり、父はそれをしょうがないなあと思って見ている、本来あるべき親子関係に戻っている。

それは悪くないが、だからといって、父はなんだかんだ言っても父だった、という感動も特にない。

父は特に子供たちに語ることも、深い行動を起こすわけでもない。

このストーリーで、父と子供の間で問題は何も起こらないに近い。

こんな父に育てられたから、兄も妹も変わり者である、ということだろうが、兄が彼女に付いていくことにした、妹は家族の話を演劇にしたりなど、前向きな終わり方は爽やかで良いが、父と接したことが強く関係しているのかは分からない。

父を引き取り、看取ることがきっかけになったことは確かだが、それは単に外面的な事が主であって、内面的に父と接して考え方が変わったとか、そういう事ではない気がする。

疎遠になっていた父の死、人の死を身近に感じて、生きるという事に前向きになった、ということはあるかもしれないが。

父が死んでいるか生きているかも大して興味がなかったが、いざ亡くなって初めて、父の存在が重荷になっていたり、心に引っ掛かりがあったことに気が付き、前向きになった、ということはあるだろう。

人が死ぬということは、全てが全て悪影響では決してない。

そういった影響が描かれているのは良いとしても、生前の父の存在感が薄く、子供と分かりあう訳でも、喧嘩するわけでもないので、深い話にはなっていない。

ローラ・リニーとホフマンという名役者のコンビでなんとか見ていられるが、非常にもったいなく、もっと面白くなったんじゃないかと思う。

もっと兄妹で喧嘩しっぱなしで、てんやわんやでも良かった気がする。

それをなだめる父親に、兄妹が、お前が言うなと逆に諫めるなど、いくらでも面白くは出来たと思う。

テレビの特別ドラマとして見る分にはまだ良いかもしれないが、映画として2時間近くにして公開するには、少し物足りないと思ってしまう。

撮り方や時折流れる音楽などもオシャレで見やすいが、心にグッとくるものは少なく、残念である。

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