英題「It’s Only the End of World」
監督-グザヴィエ・ドラン 2016年 99分
脚本-グザヴィエ・ドラン
出演-ギャスパー・ウリエル、ナタリー・バイ、ヴァンサン・カッセル、マリオン・コティヤール、レア・セドゥ
映画「たかが世界の終わり」あらすじ
34歳の劇作家のルイは、自分の余命があまりないことを家族に告げるため、12年帰ってなかった実家に帰ることを決意する。
実家には、母、妹、兄と兄の奥さんが待っていて、久しぶりの再会の喜びに浸りながら、一緒に時間を過ごしていく。
しかし、徐々に12年会っていなかった家族との確執が現れ始め、自分の余命のことを話す雰囲気ではなくなっていく。
特に、兄とは折り合いが合わず、激しい口論に発展していってしまうのだった。
“見て損はない”理由と考察、その感想
シンプルな設定だが、先が気になる
予告編が面白そうな感じで、見てみたら色んな意味で予想を裏切られた。
久しぶりに家に帰ったのは自分の余命を知らせるため、というシンプルな設定だとわかっていても、感情たっぷりの会話劇、リアルな家族間のぎくしゃくした雰囲気などに引き込まれ、どうなっていくのか分からず、展開を簡単に予想させない。
家族のぎくしゃく感がよく描かれている
兄貴の嫌味な感じ、面白くないユーモアを周りの嫌な顔お構いなしに続けて変な空気にさせるキャラクターは、絶品だ。
演技しているように見えないし、本当に腹が立つし、この人にはいってもしょうがないと感じさせる。
ここまでの人間はそうそういないかもしれないが、誰しも家族の中で体験したことのあるであろう嫌な雰囲気を見事にこの兄貴が次々と作り出していく。
お互いを罵って喧嘩した兄と妹がいつの間にか普通にしゃべっていてケロッとしているのも、気持ちが良いというより、自分のしたことを無しにしている感じがよりたちが悪くて、こんな人が近くにいたら疲れてしょうがないと思う。
結末に拍子抜けさせられた
正直、最後のデザートの所でルイが告白することに期待していたので、そうならずに家を去ってエンドロールが流れた時には、ちょっと待ってくれ、なんだこれは、とかなり拍子抜けした。
ルイを視聴者目線の代弁者で、主人公だと思って応援していただけに、そのハシゴを見事に外された。
主人公には違いないが、いわゆる主人公ではなく、ルイもまた、家族という奇妙な構造体の一部に過ぎなかったんだと知らされる。
勝手に家を出て行った理由にもそれなりの正当な理由があり、告白することで家族の見る目が変わること、今までの本音を隠した家族間のぎくしゃく感がひっくり返ることを期待していたが、それは甘い考えだった。
中々言えない状況がうまく作れていたので、そのままなんとか告白することになってもそれなりに見応えがあったものになったと思うが、これはこれで結末の方向自体は面白い。
現実の物事はそんなにドラマのようにうまくは運ばないというリアルさを感じさせるストーリーではある。
不可解なルイの行動
ルイは最後まで自分から強くアクションを起こすことはなかった。
いくら負い目があったってあそこまでされて兄貴に反論したって良いし、待っているだけでは重大な発表など言う機会は永遠に訪れない。
そんなルイを見てると、内気とかではなく、その他力本願な性格で、家に帰ってきたのも自分が死ぬ時だけ寂しくなったから帰って来たのかとか、きっと家を出た理由も兄貴だけの問題じゃなくルイ自身のせいもあったのかとも思ってしまう。
ルイは決して見る者の代弁者でも、応援すべき人間でもなかった。
しかし、それを見せるためには言おう言おうとして言えなくて帰る、というのが一番良いと思うが、最後のデザートのシーンで、ちょっと兄貴に誘導されたらなぜかすぐに従ってしまったり、言うタイミングは結構あったのに黙ったままだったり、なぜ言わないのかというのが不自然に感じた。
ルイが優しくて内気だ、という以外にそんな場面でなぜ黙ってしまうのか、どういう人間なのか、ということは何も描かれていないので、ルイの性格をもう勝手に予想するしかなく、見て取れる画面上では、漠然とルイにも問題があった、と推測するしかなくもやもやは残る。
きっと、そこは監督の意図とは違ってしまったんだと思う。
告白できずに帰るときのシーンがなんとなく格好良い雰囲気にされているので、ルイに落ち度はない、なんだかんだで言うタイミングがなかった、という終わり方にしようとしたんだと思う。
この設定は、いくつか結末を考えられるので、中々シンプルだが興味深い設定ではある。
本当に言うタイミングがただただなくて帰るパターン、実はルイにかなり問題があったというルイの秘密が明かされて言わずに帰るパターン、普通に告白して家族の反応が一変するが、その反応が冷たいのか、あったかいのかでもだいぶ変わってくる。
ルイがどういう人間かそれまでに描かれていない分、どっちにも行ける。
本作は、本当に言うタイミングがなかったということをしたかったんだと思うが、ルイの行動が中途半端なので、微妙にルイにも問題があった、という結末寄りのどっちつかずになってしまっている。
結末は最初から決めずに、演技の出来次第でいくらでも変えてしまって良いと思う。
せめて、玄関で兄ともめて一悶着し、兄がルイを殴ろうとした時に言ってしまえば良かった。
せっかくみんなの感情が高ぶって良い振りが出来たので、言うなら最後チャンスだった。
そこでも言おうとして言えないなら分かるが、言おうともしていないルイの感じがよく分からない。
そういったルイの不可解さが、見終わった後の拍子抜け感につながっていると思う。
ルイの振る舞いがうまくいっていれば、言わずに終わっても、拍子抜けではなく、こんな終わり方があったのかという静かな衝撃になっていたんじゃないかと思う。
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