映画「嫌われ松子の一生」が“つまらない”理由と考察、その感想

⑤つまらない☆1

嫌われ松子の一生

監督-中島哲也 2006年 130分

脚本-中島哲也

出演-中谷美紀、瑛太、柴咲コウ、香川照之、江本明、他

映画「嫌われ松子の一生」のあらすじ

面識のない叔母が殺されたことを聞かされた笙は、父から頼まれ叔母の住んでいたアパートの遺品の整理をすることに。

片づけをするうち、叔母の松子が波乱万丈の人生を送っていたことを知る。

生徒の万引きをかばったことがきっかけで教師をクビになってしまった松子は、職を転々とし、家族からは絶縁され、付き合う男付き合う男に裏切られていくという転落人生であった。

“つまらない☆1”理由と考察、その感想

良かったのは序盤だけ

下妻物語が面白かったので、同じ監督の本作を期待して見たが、かなり期待外れだった。

教師だった松子が見事に転落していく様、緊張したら変な顔をしてしまう癖も可愛げがあるし、水曜日に男に会いに行く喜びのダンスや、水商売に手を出したが一人スクワットを続けていく様などは、良かった。

どんどん転落していく松子の生き様を、外国のミュージカル風に明るく描いていく序盤こそ多少の期待感があったが、次第に話が進むにつれ、松子を好きになれなくなり、そこからはただだれるだけだった。

ゴミ屋敷の主人にも、こんな過去があったんだ、人間って深いと思いたかったが、魅力のない人間が堕落していき、そのままゴミ屋敷の主人になり、トラブルに巻き込まれて命を落としたとしても、そりゃそうなるだろうとなるし、何も感動なんてない。

松子は悪いことをしていないのに、なぜか不運に付きまとわれ、気が付いたらゴミ屋敷の主人になっていた、というのであれば意外性があり面白かったと思うが、全くそうではない。

ほぼ自分のまいた種で、そこまで男に依存しないと生きていけない、という理由も分からない。

なぜそこまで男に依存するようになってしまったのか、ということがバッサリ描かれていなく、中谷美紀の演技も、男に依存するような人間には見えない。

松子は決して孤独ではなく、自分を心から慕ってくれる妹だっていたし、父は妹ばかりをかわいがっていたが、そこまで人格が狂ってしまうほどの仕打ちはされていない。

父が妹ばかりをかわいがり、松子に冷たく当たり、妹にまで邪魔者扱いされているならまだ分からなくもないが、父もそれなりに松子を連れ出して遊んだりして可愛がっていたし、仮に父が最低の人間だったとしても、あれだけ優しく接してくれる妹がいる訳で、その時点で帰る場所があり、元々不幸でもない。

むしろ、病気の娘を気遣う父は普通ではあると思う。

松子が狂うには、あの暖かい家庭は邪魔で、もっと冷たい家庭でなければよく分からない。

そんな帰る場所のある人間が、家を飛び出しボロボロになることに美学を感じるには、かなり無理がある。

中盤、父が自分を心配していたエピソードまで出てきて、その時点で自分を見つめてまっとうに生きようと心を入れ替えることだってできたのに、松子は一切しなかった。

そんな不幸でない松子が、なぜ男に依存するようになったのかも描かれずに、手あたり次第男と付き合い、ボロボロになり、それが「ダメと分かっても女は男がいないと生きていけない生き物なのよ」と言われてもよく分からない。

ただの男好きなだけじゃないか。

毎回、この人なら自分を幸せにしてくれる、と確信して付き合うけど、毎回違うパターンのダメ男に引っかかってしまう、という訳でもなく、なぜ好きになったかも分からず次から次からへと目の前の男と付き合うだけじゃないか。

これは騙されてもしょうがない、松子可哀想だね、なんてならない。

タイトル通り、そりゃ嫌われる、ということだが、自分のせいじゃなく嫌われる話なら分かるが、自分から嫌われることをしてるのに、それを美談みたいに仕立てられてもなんだかなあと思う。

逆に、可哀想と思う要素が少なく、この人はこの人で過去に男を何人も作り、晩年は光源氏にはまっていて、最後は正義感を出して子供に注意までして亡くなったわけだから、別にそれなりに幸せな人生だったんじゃないかと思う。

可哀想、不幸だね、という落差をつけたかったのかもしれないが、実際落差などなく、それ相応の人生だと思うから、だからなんだと思ってしまう。

外国のミュージカル映画の劣化版

最初はミュージカル的な要素が興味をそそられたが、振り返ってみると、外国のミュージカル映画のうわべを真似しただけという感じで、これじゃあいつまでたっても強烈なオリジナルには到底成れないと感じた。

憧れを外国の映画に抱いているのかもしれないが、この程度。

主人公の不幸さも弱いし、ストーリーも心惹かれるものじゃないのに、ミュージカルの所だけはしっかり入れているという辺りが、子供が大人の真似をしているママゴト感が否めない。

監督は、中谷美紀に厳しく叱りつけながらこの作品を作ったらしいが、一体何を厳しくしていたんだろうか。

松子がなぜ依存するのか、依存しそうな女性の行動なども演技からにじむわけでもなく、出てくる男が魅力的なわけでもない。

自分を好きだった教え子を一回断るが、思い直して雨の中抱き合うシーンだって、なぜ受け入れてしまうのか、という感情の起伏の描写も理由もなく、無意味にためを作って抱き合うという、どこかで見たようなシーンのうわべの再現だろう。

何を指導したんだ?

結局、厳しくしようが優しくしようが、ダメなものはダメで、ポイントを押さえていなければ何も意味がないんだと、思わされた。

下妻物語はたまたま良かったのかも。

コメント