127時間 英題:127Hours
監督-ダニー・ボイル 94分 2010年
脚本-ダニー・ボイル、サイモン・ボーファイ
出演-ジェームズ・フランコ、ケイト・マーラ、アンバー・タンブリン、他
映画「127時間」のあらすじ
27歳の青年アーロンは週末の仕事終わり、ユタ州の国立公園に出かける準備を始める。
妹から連絡してほしいという電話に返事もせずに、早速自転車を車に積み公園に向かう。
公園といっても、ロッククライミングやトレッキングもできる、グランドキャニオンの様な岩場である。
そこでの一人でのロッククライミングは彼にとって日常を忘れられる楽しみであり、音楽をかけ、心躍りながら車を走らせる。
途中で車の中で眠り、翌朝マウンテンバイクにまたがり、一人ビデオを片手に撮影しながら、自分の時間を満喫するアーロン。
途中、道に迷った若い女性二人に出会い、道を教え、ついでに天然のプールまで案内してやる。
ここはアーロンの庭も同様で、別れ際に明日のパーティーに誘われ快諾し、二人と別れる。
アーロンは再び目的地を目指して歩き始める。
やはり楽しい、そんな感触を確かめながら足が弾むアーロンに、災難がふりかかる。
踏んだ岩が崩れ足を滑らし、岩と岩の狭い溝に落ちてしまう。
そのとき落ちてきた大きな岩が、アーロンの右腕を上から挟み、身動きが取れなくなってしまう。
自分の体重の何倍もあり、押しても引いても動くことのない巨石。
最初は軽い気持ちで考えていたが、自分の置かれている酷い状況に青ざめ、しだいに追い詰められていく。
大声で呼んでも、ナイフで岩を削っても、何も変わらない、水もなくなってしまう。
やがて少しづつ体も衰弱し、幻覚を見るまでになり、そんな自分をビデオで録画し、撮ったビデオを見返したりしている。
頭を駆け巡る自分の今までの行動や人生。
今の状況をすべて受け入れ、このままではダメだと、憔悴しきったアーロンはある決断をする。
“今すぐ見るべき!☆5”理由と考察、その感想
シンプルだが深いドラマ
非常なシンプルな設定だが、主人公の思いや生き様が凝縮されていて、飽きずに見られた。
前半でとても楽しそうに一人の時間を満喫するアーロンに可愛げがあり、見ているこっちも楽しくなる。
自分を楽しくさせるのは人に依存するのではなく、自分で見つけるという感じ。
アーロンは決して悪い人間ではなく、ましてや社会に害があるような人間ではない。
それでも、こんなアクシデントに直面すると、自分が今まで気にしなかったささいなミスや、自分の人生を振り返らずにはいられない。
ああすれば助かった、から始まって、恋人と別れたのは自分が悪かったからだと頭を巡る。
人は誰しも問題を先送りにするが、アーロンにはそれを今考える機会が与えられている。
そしてアーロンの取った行動がとても生々しい。
見ているこっちが頭をかきむしりたくなる感じ。
痛さのマックスだ。
映画祭の上映では、失神した人もいるらしい。
しかし、このシーンをフィーチャーしているわけではなく、今までの流れがある結果としてここにたどり着くので、痛々しいのが苦手な人もなんとか見れるのかなとは思う。
失うものもあるが、127時間でアーロンは成長する。
アーロンは良くも悪くも突出したものがある人間ではなく、今時の良い青年、という感じの主人公だが、リアルなドキュメンタリー風で迫ってくるものがあり、楽しめた。
事故の怖さを教えてもらう 追記:2023/05/13
アーロンは事故に巻き込まれたわけだが、大方誰が悪い訳でもない。
他人のミスや悪意で起きた事故ではなく、強いて言えば自分が不注意だった、ということだろう。
死ぬ可能性がある場所に行くことが当たり前になって麻痺し、誰にも連絡していなかった、という自分を過信していたことは確かに不注意だ。
連絡していたら、もしかしたら手を失わずに済んだ可能性もある。
もしくは、山登りをした、ということ自体がミスとも言えるが。
しかし、ロッククライミングなど、自然を相手にした遊びは確かに怖いが、仲間とバカ騒ぎして怪我したり、酔っ払ってふざけて危険な行為をして、などでは全然ないので、不憫ではある。
そういう人間ならば、ざまあみろ、ほら見た事か、バカだわ、などとも思えるが、アーロンはそうではない好青年なので、見ているこっちも気持ちのやり場がなくなり、アーロンのとった行動がよりきつく感じられる。
なぜこんな良いやつがこんな目に合わなくちゃいけないんだ、神様は理不尽だ、と思う。
だけど、自分が進んで山登りをし、誰にも連絡していなかったんだから、本人としては自分が悪い、と思わざるを得ない。
その過信が、手を失うという代償を払うことになった訳だ。
そういう意味で、悪気があってやっていることではなくても、自分に厳しさがなければとんでもない事態に陥る可能性があることを、この作品は教えてくれている。
過信は命を脅かしかねない。
そして、そうなってしまった時にどうすればいいのかも。
きっと、この状況で、自分の腕を激痛に耐えながらちぎり切って生き延びれる人はどれくらいいるのだろうと思う。
もし自分がそうなったら、そりゃやるしかない。
だけど、本当にやれるのか?とこちらに問いかけて来る。
そこまでして生きようという気力と体力が続くかどうか。
アーロンは、諦めずによく頑張ったと思う。
手を失ってでも、人は生きなければならない、生きていればなんとかなる。
もし自分の家族が同じ目に合って生還したら、偉い、よくやった、と思う。
何バカやってるんだ、などという気持ちはなく、その人が手を失ったことに対する悲しみと、生還した嬉しさで、変な涙が出る。
ただの突飛なパニックもの、災害ものなどではなく、究極の選択を迫られる事故をリアルに描いた作品で、色々考えさせられ、身につまされる。
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