英題:A Quiet Place
監督-ジョン・クラシンスキー 2018年 98分
脚本-ジョン・クラシンスキー、ブライアン・ウッズ、スコット・ベック
出演-エミリー・ブラント、ジョン・クラシンスキー、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュープ、ケイド・ウッドワード、他
映画「クワイエットプレイス」のあらすじ
田舎に暮らすアボット一家は、しゃべる時は声を出さず、手話でしゃべり、家の周りに砂をまき、極力音を出さないで生活をすることを強いられていた。
目が見えず、音に反応して人を襲う、宇宙から飛来した謎の生物から身を守るためである。
アボット一家は一年前、街で食料や雑貨などを調達して郊外に戻る時に、娘のリーガンが息子のボーに渡したおもちゃから音が鳴ってしまい、ボーは怪物に殺されてしまっていた。
それを今も自分のせいだとせめるリーガンは、弟のマーカスよりも愛されていないと思い込み、家族との距離を感じていた。
ある日、父とマーカスが外出していた時に、臨月であった母が急に産気づき、思わず大きな音を立ててしまう。
子供が今まさに生まれそうな中、音を聞いた怪物たちが集まってきてしまい、絶体絶命のピンチに陥る。
異変を察知した家族が、助けに向かい、力を合わせて怪物を追い払おうとするが・・・。
“物足りない”理由と考察、その感想
詰め切れていない浅い設定
出演者たちが全編通してほとんどしゃべらないという珍しいSFアクション映画。
しゃべってはいけないということで全編通して緊張感があったが、つまらなくはないが、そんなに面白くもなかった、という印象だった。
どこかで聞いたような設定、どこかで知ったようなストーリーで、何が面白いのか、さほど新鮮には感じなかった。
確かにハラハラするのは悪くないが、ありきたりなハラハラが多く、音を立てずに生活し続けている中での独特の知恵みたいなものが、もっとたくさん散りばめられていても良かったのかなと思う。
家の周りに砂をまく、赤ちゃんに呼吸器をつけて箱に入れてしまう、滝の周りならしゃべっても大丈夫等、なるほど、そうかもしれないとは思うが、ちょっと考えたら思い浮かぶくらいの設定で表に出してしまった感じで、もっと詰めて考え切ってから出した方がもっと深くなったと思う。
音を立てたら化け物が襲ってくるのに、いざ化け物が来たら簡単に蹴破られるくらいのごく普通の家で、ドアを開けっ放しに生活するなんて、自分だったらそんなギャンブルは怖くて絶対に出来ない。
音が外に響かない深い地下二階かもっと深くに居住スペースを作るし、いざ襲ってきても大丈夫なように家は頑丈にしておく。
釘とかは簡単に打てないから大変かもしれないが、防音もせずに一階で普通に暮らすなんて、そんなことするだろうか?
もしそうであれば、全く音を立てなくても普通に生活できるという特殊能力を身に付けた熟練者でなければならないが、家族全員特にそんな感じもない。
階段に洗濯物が引っかかって釘があんなに飛び出すほど力づくで引っ張るなんて、やるわけがない。
もしそんなに力を入れてないなら、そんなに簡単に飛び出してしまうまで父が手入れをせずにほっておくだろうか?
命がかかっているんだから、そんな初歩的な不注意で音を立てるというのはリアリティに欠けていると思う。
相当なおバカさんならまだしも、母はそうではないし、この生活を長く続けている人達なのだから、初歩的なミスは少なくて良い。
それを排除したらハラハラさせる場面がなくなってしまうと思うからあえてそうしたのだとしたら、それは浅くて、さすがにこれは熟練者でも想像がつかない、という音の立ち方を見せて欲しかった。
おならだって、命がかかっているならほぼ我慢できるはずだ。
それが、人が小さくても音を立てることを厳しく責める厳格な父が、何かの拍子でかすかに小さくおならをしてしまい、険しい顔で家族を避難させ、銃を持って窓から外を覗いていて、結局化け物は来なかったとなった時に、子供が笑いこらえて口に布を入れだし、それを見ていた他の家族も連鎖して笑いをこらえる、など、本当に極力音を出さない熟練者たちであれば、そういった緊張感があるがゆえのこっけいな描写だって入れられる。
それか、いっそのこと、この生活をし始めたばかりの設定の方がやりやすいならそれでも良かっただろう。
裸足で移動していたが、靴下を履いた方がより音は鳴らないと思う。
もっと色々出来たはずで、もったいないと思ってしまう。
薄めの人間ドラマ
女の子の子供が父は自分を良く思っていないと、父に対して距離を感じているが、父が娘を特に邪険に扱っている描写もないし、しょっちゅう喧嘩していて険悪とかでもないから、よく分からない。
父が息子よりも娘にたくさん口うるさく注意していて、それは愛していないからではなく、息子よりどん臭いから注意せざるを得ないのに、それを勝手に娘が勘違いしているというようなギスギスした感じがあれば良かった。
例え弟が死んだ理由は自分のせいだと娘が思っていたとしても、娘が一方的に愛されていないと思っているだけのような感じに見えるので、愛されていないと思う動機が作れていなく、強いて言えば思春期なのかなあくらいなので、最後に父が死に際に「お前を変わらず愛している」と叫んだのが全然効いてこない。
確かに俺は娘に勘違いされる行動をしていたかもしれない、という気持ちがあってこそ、むしろちょっと娘を恨んだ時期もあった、くらいの気持ちがあってこそ、あのセリフは感動的になるのに、そんな描写もないから、ただ口に出す必要のない愛を叫んだ、くさいな、という印象になってしまった。
この父と娘の関係ならば、わざわざ口に出す必要は何もなく、後々、自分のために補聴器を日々必死になって改良してくれていたことなど、父の地下室を見て勝手に娘が思いをはせたくらいで十分だと思う。
こういうホラー的な作品では、設定がそこそこぐずぐずでも、人間ドラマさえしっかりしていればそれでまだ面白いものになるが、これは設定も人間ドラマも掘り下げ不足なので、もったいない。
娘も補聴器が化け物に効くことに気付くのが遅い。
子供は勘が良かったりするから車で襲われる時に気付いたって良い。
しかし、最後に娘と母が目を見合わせてうなずくシーンはなんとも強い姿勢で非常に良かった。
この作品の脚本家と監督はまだ精神的に若いんだろうと思う。
若者が思いついて、設定も掘り下げず、家族の深さもそんなに知らずにこんな感じだろうという程度で作ってしまったんじゃないかと思う。
面白くなりそうでならなかったという感じだ。
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