英題:Frances Ha
監督-ノア・バームバック 2012年 86分
脚本-ノア・バームバック、グレタ・ガーウィグ
出演-グレタ・ガーウィグ、ミッキー・サムナー、アダム・ドライバー、他
映画「フランシス・ハ」のあらすじ
ダンサーを目指すフランシスは、プロのダンスカンパニーに所属しているが、中々芽が出ない。
一方同居している親友は急遽家を出ていくことになり、新たなシェアハウスで生活を始めるが、ダンスの仕事もなくなり、家賃を支払えなくなっていく。
カンパニーからはダンサーとしてではなく、事務として働かないかと話を持ち掛けられるが断り、なんとか夢をかなえるために、友達の家に居候させてもらったり、母校のつてを頼ってアルバイトを探したり、奔走するが、中々うまくはいかないのであった・・・。
“オススメ”の理由と考察、その感想
白黒が良い味の会話劇
ダンサーを目指す女性の成長物語。
特に説明的な描写はなく、淡々と主人公の生活が描かれていく会話劇で、非常に小気味よく見やすい。
白黒だが、最初はどうなのか?と思っていたがすぐに慣れ、むしろそれが心地良くすら感じてくる。
昔は白黒しかなかった時に比べて、最近たまにある、白黒にあえてする作品、というのは、何か作為的な意思が働き、必ずしもそれが良くなるとは限らないと思っているが、この作品は見事に成功している。
ストーリーがしっかりしていて、主人公に魅力があれば、むしろ色という情報はない方がスマートでいいのかもしれないとすら思った。
大人になりきれない若者の物語
主人公のフランシスは、プロのダンサーを目指す若い女性だが、まだ子供っぽい振る舞いが抜けきらず、決して悪い人間ではないが、子供と大人を行き来していて、ごちゃ混ぜになっているような状態だ。
自分の目の前のやるべきことに集中せず、友達と一緒にいることの方が優先順位が高かったり、人によって対応を変えることが出来ずに変な空気にしてしまったり、思い付きで目的の分からない一人旅に出たり、周りから見た自分の良さに気付かず、良い仕事の話を強がって断ってしまったり・・・。
これは、若い頃に誰しもあることである未熟さであり、それを未熟だとはもちろん気付かず、自分のパーソナリティーの一つだと思っているであろう所がより根深い。
もちろん、悪いことをしている訳ではないし、いい大人になっても年寄りになっても未熟な部分がずっと治らないままの人もたくさんいるし、そういったことが当人の個性とみなされる部分もあるから何とも言えないが、上記のことは、フランシスが経験をある程度積んで振り返った時に、子供だったなあと思えることばかりだと思う。
自分のダンスの実力をちゃんと直視しようとせず、うすうすすごくないことを知ってはいるがなんとなく誤魔化していて、深刻になって猛特訓するわけでもなく余裕がある感じなど、何かを目指す若者によくありがちな心理状態だと思う。
見ているこっちからしたら、事務の仕事をしながらダンスを学ぶことも出来るのに、とか思ってしまうのに、強がって断ってしまう。
振付がうまいと先生から言われているのに、自分はそれを目指している訳ではないから、と聞き入れなかったり、傍から見えているフランシスの良い所に、フランシス自身は気付いていない。
傍から良いと言われたことを目指さなければいけないという訳では全くないが、自分は振付が人よりうまいんだ、と気付ければ、それはそれで独自の道が開ける可能性もあり、自分の武器として知っておく必要はある。
しかし、若い頃はそんなこと知ったことか、やりたいことは別だ、と見ようともしないのはありがちなことだ。
若い頃に気付けと言うのが、もしかしたら無理なことなのかもしれないから、中々難しいことかもしれないが。
そんなフランシスの、罪のない失敗とでも呼ぶべき行動の数々が、非常にリアルに描かれている。
それがまるでドキュメントを見ているかのように臨場感を持って感じられ、色々考えさせられて良い。
憎めないフランシスの性格
要するに、フランシスは、色々客観的に見えていなかったいということであるが、そんな視点を持ち合わせていない若い状態では、何が失敗の原因になっているか全く分からず、一寸先は闇に感じることが多いだろう。
そんな若い頃のもがきの感じがフランシスを通してよく描かれていて、フランシスの可愛げもあり、見ていてマイナスに感じるというよりは、むしろ微笑ましく見れるという感じで惹きつけられる。
物語の終わり方も前向きな内容になっていて、見終わると爽やかな気持ちになれて良い。
そして、なんだかんだ友達に突き放されたりして、自分の道を見つけられたフランシスは、かなり幸せなんだろうと思う。
きっと、フランシスのようにふわふわしたまま、結局全部うまくいかず、自分の道など見つけられずに自分のやりたいこととは関係ない仕事に就職する、という人がほとんどだと思うから、若くして自分のやりたいことを見つけられたフランシスは恵まれている。
フランシスはなぜダンサーを諦めたのか?
一つ気になるのが、フランシスはどういう気持ちでダンサーを諦めたのか?ということだ。
とりあえず振付の仕事で食べながらまだダンサーを目指している可能性もあるが、もしダンサーを諦めたのなら、ダンスよりも振付が好きであることに気付いたなら良いが、振付だと食べていけることが分かったからなくなくあきらめたのであれば、それはマイナスな諦め方になってしまう。
フランシスの感じからだと、全部あり得るので、はっきりとは分からない。
自分にダンスが向いてなかろうがなんだろうが、好きなら目指せば良いと思うし、正直ダンスでも振付でも、どっちでも成功すればそれで良いのであれば、それは何とも芯がない。
仮に振付に天才的な才能を発揮したとしても、ダンサーを目指すのであれば、諦める必要はない。
自分のやりたいことが出来ているから楽しいと感じる人もいるし、やりたいことでなくてもなんやかんや成功していればそれが楽しいと感じる人もいて、人によって様々だから、自分が振付して楽しそうに見えるフランシスがどっちなのかは分からない。
いずれにせよ、フランシスの人生自体が前向きに転がり出したことはプラスであることに間違いはないが、好きなことを見つけた、もしくはダンサーになるために前向きに動き出した、のどっちかであって欲しいと思った。
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