海に眠るダイヤモンド 英題:The Sleeping Diamond on the Sea
テレビ局-TBS プロデューサー-新井順子、松本明子 企画-中井芳彦、後藤大希
演出-塚原あゆ子、福田亮介、林啓史、府川亮介
脚本-野木亜紀子 音楽-佐藤直紀
出演-神木隆之介、宮本信子、土屋太鳳、国村準、斎藤工、清水尋也、池田エライザ、杉咲花、中島朋子、沢村一樹、美保純、他
ドラマ「海に眠るダイヤモンド」のあらすじ
時は現代、ホストの玲央は、道端で知り合ったいづみという白髪の老婦人に気に入られ、半ば無理矢理長崎に旅行に連れて行かれる。
長崎で観光船に乗り、今ではもうすでに廃墟になった端島、世界遺産でもある通称軍艦島の前に来ると、いづみはなぜか泣き崩れてしまう。
一方、時代は変わり、1955年の春、大学を卒業した鉄平は、同級生の百合子と共に、生まれ故郷の端島に戻る。
鉄平は、端島で働くことを父親の一平に告げるが、激怒されてしまう。
鉄平には、端島で働きたいある理由があった。
そんな時、端島にリナという元歌手が入島し、ウェイターとして働き始めたが、端島の炭鉱会社の社長を怒らせてしまい、クビになってしまう。
それを知った鉄平はリナに、社長と闘うことを提案する。
炭鉱では、鉱夫の若者の一人が行方不明になってしまい、一平や鉄平の兄の進平達が、他の鉱夫と共に捜索を始めるのだった。
「第1話-地底の闇を切りひらく」が”物足りない☆2″理由と考察、その感想
軍艦島が舞台のヒューマンドラマ
TBSの日曜劇場、海に眠るダイヤモンドは、世界遺産にもなっている長崎の軍艦島、通称端島と呼ばれる炭鉱の町が舞台のヒューマンドラマである。
第一話を見た感想としては、物足りなく、まるで軍艦島が舞台の教育用のドラマのように感じた。
軍艦島とはなんとも不思議な小さな炭鉱の島で、その歴史の一端を知るには良い機会、なのか?
今のところ何となく知っていることばかりで、真新しさは特にないので、これからそう思わして欲しい。
なぜ物足りなかったのか考えていきたい。
それっぽいセットや冗長な音楽
高度経済成長の熱気のある時代に、軍艦島という小さな町の中で繰り広げられるドラマを描こうとしているのは好感が持てる。
この時代自体のエネルギッシュな人達、炭鉱で働く苛烈さや、距離が近い住人同士の人間ドラマ、端島が世間的には低く見られていたことへの住人の葛藤など、面白くなり得る要素は多分にある。
音楽も相まって、オールウェイズ三丁目の夕日のような、今は亡き、雑多だが味あり、玉石混交の人間味が凝縮された時代の雰囲気に思いを馳せたかったが、そこまでには至らなかった。
序盤から、端島が映る場面あたりから、壮大な良い雰囲気の音楽が頻繁にかかるのが、先走っている感じで邪魔で、うっとうしく感じた。
まるで良いものを観させられているかのような気分にさせたいのだろうが、多用し過ぎで、逆に薄く感じてしまう。
もう少し抑え気味に、要所要所で流せば良いのにもったいない。
現代のシーンで、おばあさんが家族と食卓でしゃべっている時にコミカル風な音楽がかかるが、こういうのは安っぽく感じる。
コミカルなやりとりにはコミカルな音楽を、という安易な演出は実に古臭いし、素直に冷めてしまう。
音楽を入れるタイミングが分からないないなら、無理に入れない方が良いのにと思う。
ちなみにラストでかかる曲はスタイリッシュで今風なので、全然世界観と合っておらず不自然に感じた。
そして、こういう歴史物は特にしょうがないのかもしれないが、セットは作り物感がしてしまう。
端島を上から見た俯瞰図などはまだ良いが、人がいる周りの建物や建物の中は、ほとんどがぱっと見でセットと感じてしまい、リアル感に欠ける。
ドラマ自体がしっかりしてないのに、セットだけやたらリアルでも、どこに力を入れているんだとなるから、もうこれはしょうがないのかもしれない。
演技とストーリーが合わさった、ドラマが主体で人に真実を感じさせるのが目的だから、イメージだけ何となくでも伝わればもう御の字、と言えなくもない。
理想はセットもドラマも重厚であるものを観たいが、リアルなセットはお金がかかりすぎるのか?
それこそゴジラ-1.0のように低予算で全部CGでリアルに、とか出来ないのか?
それはそれでセットを作るよりお金がかかるならしょうがない。
舞台も人間ドラマもどちらも重厚であれば、それこそ世界的にも評価されるドラマになるだろうが、まだかなり遠い印象だ。
リアルな雰囲気漂う玲央と爽やかな鉄平
主人公の玲央と鉄平を演じる神木隆之介の演技は、それぞれの役に味があり、総じてナチュラルで悪くない。
ホストの玲央は、演技をしているように見えない、セリフ感を削ぎ落としたリアルな雰囲気のしゃべり方で良い。
軽い感じで、その日暮らしをしている、他人に特に関心もないような若者風で良い。
ゴジラ-1.0での暗い演技も、このくらいストンと落としたナチュラルな演技でやって欲しかった。
一方端島の鉄平は、逆に爽やかで人懐っこく、元気な感じに嘘でない華があり、軽さはあるが好感が持てる。
父親の一平にビンタされ、怒る演技は本当に怒っている感じには見えず、コントのようにあざとく感じてしまったが。
電車の中で、父や兄は毎日体を真っ黒にして働いているのに、なぜ踏みつけられるんだ、と泣きながらしゃべる感じも大分あざとかった。
なので、削ぎ落とした玲央の感じも良いし、爽やかで元気な時は他の俳優よりも素敵な存在感を出せるが、ネガティブな感情を表現するのは極めて苦手なんだろうと思う。
きっと普段から明るく、日常でネガティブな感情を出すことはほぼないタイプの人なのかもしれない。
そういう時こそ、玲央の様にストンと落ちた感じにしてしまえば、落ち込んだ、元気がない感じに見え、落差が感じられるのに、ネガティブな気持ちを出そう出そうとするのは、間違ったアプローチなんじゃないか?
全方位的にナチュラルに演じられる俳優など、ベテラン以外に日本ではほぼいないので、しょうがないのかもしれない。
それでも、このドラマの主軸である、明るい鉄平としては良い存在感があるので、まだ見ていられる。
鷹羽鉱業の社長に理不尽にクビにされ、島を出ようとしてした歌手のリナに、鉄平が、悔しくないか?人生変えたくないか?と問いかける感じも、言い方に前向きな深さがあり悪くない。
鉄平が端島に戻るきっかけの事件がよく分からない
鉄平は大学に行き、端島という地域の存在がいかに低く扱われているかを痛感したらしく、日本中に知れ渡るくらい端島を良くしたい、と父親に宣言した。
そのポジティブな姿勢は爽やかで良いが、そのきっかけの大学での事件に違和感を感じる。
鉄平や百合子達が電車の中で泣いていたが、なぜ泣いていたのかハッキリしない。
鉄平は、他の大学生に「そんな所から来る人もいるんだ」と言われ、百合子は、「あまり炭鉱の町出身って言わないほうが良いよ」と言われたらしいが、それだけ?と思ってしまう。
それで大学生二人がポロポロと泣くというのは、中身のないうわべの演技と言わざるを得ない。
脚本に、二人すすり泣く、と書いてあるからか?
こっちは何も涙腺を揺さぶられない。
小さい子供が言われたなら泣くのは分かるが。
前述した通り、鉄平の泣く演技はあざとい。
多くを語らずとも、つらい体験をしたんだ、とこっちに思わずほどの強い演技でもない。
それくらいの被害なら、むしろぷりぷりと3人で怒っている、くらいでちょうど良い。
賢将みたいな感じで、3人で怒りあって終わるのが自然で、泣くのは無理矢理に感じる。
むしろ鉄平は一人ひょうひょうとして、内心腹は立ってるけど、表に出さず、明るくしてる方が合ってるんじゃないか?
鉄平が、泣かないで爽やかに端島に戻ることを決めたなら分かるが、なぜ踏みつけられなければいけないんだ、と言っていた原因も明かされていない。
もしそれが、「そんな所から来る人もいるんだ」と言われただけでは弱すぎる。
端島出身ということが広まって、もっと酷い言葉でなじられ差別され、実際に不当な扱いを受け、大学も見て見ぬふりをしている、くらいの描写があれば鉄平のその言葉は腑に落ちるが、そうではない。
大学で3人が何をされたのか、ただ省略してるだけで今後描くつもりだとしても、ここで描かないとこの話が面白くならない。
本当は3人は酷い扱いを受けたけど、コンプライアンスが厳しくて具体的な差別描写は出せないなら、そもそも「〜と言われた」という告白自体全くなしにして、何も明かさずに演技だけで見せれば良い。
そうした上でも、二人がすぐにすすり泣く演技はゆるいので、すごく怒るやつやそれをなだめるやつもいて、3人で激しいケンカになってしまい、その後誰かが泣き出す、くらいしないといけない。
それなら、何があったんだ?と気になり、後半への伏線にはなり得ると思う。
というか、もし本当に端島の人達が差別されていたなら、それを隠さずに伝えるのが描く側の義務なのに、それをはしょって何が伝わるのかとも思う。
差別の酷さを伝えるための例は、決してコンプライアンス違反ではない。
でもきっとそんな裏事情はなく、単純にこれで成立している、と思って作ったんじゃないかと思う。
鉄平は大学に行き、炭鉱業に関わらなくても島の外でも働けるのに、端島を良くするために戻って来た、というのはこのドラマの大事なテーマなのに、そのきっかけがハッキリせず、もったいない。
リナの歌のシーンがイマイチ
鷹羽鉱業の社長にセクハラされた上に、仕事をクビにされる、という理不尽な扱いを受けたリナが、鉄平に促されて、その社長の前で歌を披露する、というシーンが終盤にあるが、物足りなかった。
これはこの一話の紛れもない見せ場でクライマックスにも関わらず、歌自体や歌い方に迫力がない。
歌がうますぎると、そんな人がなぜここに、となってしまうので、さほど上手くなくても良いから、魂の叫び的な迫力が欲しかった。
端島音頭、という歌自体、力を込めて歌うものではないのかもしれないが、ユリがこの時代に今までに感じてきた理不尽さや鬱屈した思いなど、ユリの気持ちを存分にぶつける事のできる良い機会だろう。
歌はプロのアフレコでもいいし、ユリも楽しそうにふんわり歌うのではなく、真剣に強く、気持ちを絞り出すような表情で歌って欲しかった。
なにはともあれ、こっちを魅了するほどの歌い方ではなく、社長を圧倒して頭を下げさせるほどのことはしていない。
せっかく良いシーンなのに、痛快ではなかった。
リナの通常の演じ方は、特にあざとくもないけど魅力的でもなく普通なので、このシーンが良ければ跳ね上がったが、そうはならなかった。
すこし謎めいたキレイな歌手というだけで、しゃべり方にも、立ち振る舞いにも、存在感はさほどない。
鉄平に直接、人生変えたくないか?と言われた人物で、リナは現代のいづみの若かりし頃かもしれず、重要なキーパーソンなのかもしれないが、人物描写が物足りなかった。
物足りない炭鉱ドラマ、暴力的な進平
端島での採掘作業は、気温35度、湿度80%という異常な環境下で行なわれ、粉塵で肺を患うものも多く、荒々しい男達の怒号も飛び交う、過酷な肉体労働だというのはよく分かった。
しかし、特に感動するドラマではなかった。
鉄平の父の一平が炭鉱のリーダー的存在であり、その振る舞いには重厚感があって良い。
一方、鉄平の兄の進平はどんな人間か分からず、良いスパイスにはなっていない。
というか、むしろ浮いているので、いなくても良いんじゃないか?
採掘が始まる前、荒くれ者の新人二人が一平に突っかかり、それを進平が止めて、みんなで歌を歌いだすシーンは、それっぽいだけでよく分からない変なシーンだった。
よくわからないけど魅力的でもなく、何を表現したいのか不明だった。
まず、一平が若者二人に、「お前ら山は初めてか?威勢の良いこった」と言っただけなのに、若者達が「なんやこら、やるのか」といきなり激昂する意味が分からない。
一平は特に嫌味な言い方をした訳でもないのに、これでつかみかかるのは無茶苦茶だ。
むしろ褒めているように捉えることも出来るので、こんな奴らはいないと思う。
若者が「威勢が取り柄やからな」と返して、一平が「その威勢が続くと良いが」と吐き捨てるように言った、とかなら分かるが。
それを止めに入った進平が、歌の一節を歌い出すが、誰に言っているのかよく分からず、格好つけている感じもして、訳が分からなかった。
止めに入った後、その若者二人に面と向かって怒りながらしゃべる感じで、その歌の歌詞を言い続け、周りも一緒になって大合宿とかなら面白かったが。
それならきっと、この歌の意味はなんだろう、下らない争いなんてしてる場合じゃない、とか、深い意味があるのかな?などと想像も駆り立てられた。
誰かが歌い始めたらみんなで大合唱になる、という、どこかで見たような、一致団結感を見せたかったのかもしれないが、唐突で上手く出来ていない。
みんな疲れていて、雰囲気が悪いのを鼓舞するため、進平が音頭を取って歌わせ、最初はみんなしょうがなく歌っているが、歌っている内に元気になった、とかなら分かる。
進平はムードメーカーで、みんなを元気にしてしまう華があり、ついついみんな歌わされてしまった、という訳でもない。
ただ歌を歌ったらみんなも歌った、というだけで中身がなく、特に感動もない。
感情をちゃんと出さない進平の立ち振る舞いも相まって、このシーンをより不可解にしている。
なのでこのシーンは、この若者二人と同様、ポカンとしてしまった。
後半でこの若者の片割れが行方不明になり、捜索するためのミーティングで、進平がその若者の連れに苦言を呈する場面も変だった。
進平が、もう死んでるかもしれない、などと言い、その連れが、なんやと、と言っただけなのに、進平は、おーいと声を上げて肘を若者の首に押し付け、お前をいつでも殺せる、的な脅しをするのは怖すぎる。
連れが死んでるかもしれない、と言われたら、なんだと、と言うのは特におかしなことではなく、暴力を振るうのが早すぎる。
進平はサイコパスか?全然格好良くはない。
なんやと、と言われ、進平が、なぜすぐに俺たちに言わなかったんだ、と返して、それでも、お前らのせいだ、などといちゃもんをつけてくるならまだ分かるが。
進平は他の鉱夫がトロッコから降りたのに、なぜか最後まで座っていてゆっくり降りる感じとかもよく分からない。
余裕があって格好良い、とかじゃなく、何を考えているのか分からず、格好つけている様にも見える。
助ける気ないのか?
最後に降りて、他の鉱夫が若者を探し出せないのを、進平が知恵を働かせてあっという間に見つけてしまう、とかならさすがだともなるが、そういう訳でもない。
若者の片割れには、脅しのような怖いことを言っていたが、いざとなると率先して助けようとするなら人間味もあるが。
結局、他の鉱夫が倒れている若者を見つけ、進平が水を飲ませたりして、助かったのを満面の笑みで喜んでいたが、助ける素振りがなかったのにそれは嬉しいのか、とよく分からなかった。
せめて、進平だけほくそ笑んでるとか、真顔のままくらいの方が合ってるんじゃないのか?
進平は普通の鉱夫と違っていつもひょうひょうとしている感じだが、それがいまひとつドラマに合っておらず、このキャラクター設定は失敗なんじゃないかと思う。
もしくは、鈴木亮平のような、素直に男臭い人間を演じられる役者の方が、兄貴感もあり良いんじゃないかと思う。
ひょうひょうとした奴を入れたいなら、キムタクとかの方が良い。
キムタクはしゃべり方は棒読みっぽいけど、兄貴感や熱い感じは進平よりある。
進平は統一感がなく、よく分からない。
そもそもセリフや台本に書いてある振る舞い自体がおかしいなら、それは俳優にとって不憫この上ないが、それを受け入れてしまっているので、セリフや台本だけが悪いとも言えない。
若者が助かった後、一平が若者の連れに静かに説教をしていたが、その説教が終わると、進平がその若者の尻を蹴ったシーンも浮いている。
確かに、怒られているやつをおちょくって、場を和ますパターンはある。
しかし、それは生死に関わらないミスの時、もしくは仲が良いというお互いの関係性が完全に出来ている時に限った遊びだと思う。
昨日今日入ってきた新人に、しかも相棒が死ぬかもしれない怖い思いをして、すいませんとちゃんと謝ってるやつに、蹴る振りではなく、普通に蹴りをいれるのは、ありそうでないし、どうかしている。
この新人は進平にキレても良いと思う。
進平は暴力は合ってないから、もうやらない方が良い。
この若者は、威勢が良いだけでとんでもなくムカつく悪いやつでもないのに、逆に進平が出すぎておかしいやつになっている。
そんなこんなで、一平の重厚感は良いのに、進平が絡んだシーンも不自然で、炭鉱夫達のドラマもいまいち面白くは感じれなかった。
進平抜きで、一平と鉱夫達だけの物語の方がまだ面白くなったんじゃないかと思う。
突き抜けない1話、2話の予告編は面白そうだった
一話を見て感じたのは、やりたいことは何となく分かるが、ほとんどそれっぽい止まりだということだ。
鉄平の明るさは主役として悪くないが、個々のドラマにガツンとくるものがなく、魂のやりとり的な、目を見張る描写もほぼない。
それっぽい、こんな人間ドラマきっとあるでしょ?的な、中身のない机上の空論のような描写が多かった。
昔見た映画やドラマの良かったシーンを真似したいのであれば、ちゃんと中身も伴った上で真似した方が良いんじゃないかと思う。
そもそも根本の脚本がうわべで、それを変えてはいけないんだとしたら、もうどう頑張っても面白くならない気もする。
頑張って現場で修正してこれなのか?
音楽やセットなどはもう安っぽくてもハリボテでも何でもいいから、せめて人間ドラマだけは重厚にして欲しい。
鉄平の明るさのおかげでまだ見ていられるが、全体としては物足りない。
鉄平といづみが今後どう関係してくるのか、気になるようで気にならない、気にならないようで気になるという感じで、何でもいいや、とも思う。
予告編の凝縮された感じは面白そうだったから、これから面白くなるのかも。
「第2話-スクエアダンス」が“物足りない☆2”理由と考察、その感想
少し味が出てきた人間ドラマ
第2話は人間ドラマ自体はちょっと面白かった。
主要キャラクターに大方魅力があり、ドラマが一話より深く感じられた。
この先の人間関係が少し気になり始めてしまった。
相変わらず舞台にセット感があり、演劇臭がして、頻繁に流れる音楽が少し耳障りだが、ドラマ自体は悪くない。
5角関係とも言うべき交錯する恋愛事情、水を券で毎日買わなきゃいけない端島の生活環境、命の危機すら感じる暴風雨にてんやわんやになる住人の様子、無料の映画に観客が熱狂する終盤のシーンなど、興味を惹かれるシーンがいくつかあった。
めちゃくちゃ面白い訳ではないが、味は少し出てき始めたので、この調子で端島のドラマを爽やかに展開していって欲しいと思う。
嫌な女の百合子が良い
人間ドラマが良かった理由として、主役キャラクターに魅力があった、というのは大きいと思う。
ホストの玲央は、いづみとソファに座ってしゃべっている時、三角関係とか?などと、イタズラっ気を出して言う感じなど、かわいらしく、相変わらず愛嬌があって良い。
鉄平、賢将、百合子、朝子、リナの入り組んだ恋愛の5角関係は、複雑だが、それぞれナチュラルな立ち振る舞いで、今後どうなるのか興味を惹かれた。
賢将は、昭和の男前という雰囲気の好青年で好感が持てるし、食堂の看板娘の朝子は、いつもナチュラルな振る舞いで、演技しているように見えなくて良い。
リナは、1話ではあまり魅力を感じなかったが、笑顔や仕草など、ナチュラルな感情表現が出ていて、それなりに魅力を感じられた。
端島で生きることを決意し、ここでの生活も少しは慣れてきた、ということか。
百合子と接する時に、急に歌を歌いだす感じなど、楽しそうな感じが伝わって来て、自然で悪くない。
主要メンバーの中で、特に2話の主役とも言える、百合子のキャラクターが良かった。
百合子はきっと普通の清純派のヒロインなんだろう、つまらないな、と勝手に決めつけていたが、自分で子供が嫌い、とか、私性格悪いの、などと言う感じが百合子に合っていて良かった。
美人で天真爛漫で、闇もなく清純である、というヒロイン的なキャラクターは、圧倒的なマンパワーがなければ嘘くさく、物足りなくなると思う。
しかし、百合子はそうではなく、腹黒く、家庭の事情で闇も抱えている、というのが良い。
自分で、性格が悪い、と言っている感じが、逆に魅力的に見える。
大学時代には、鉄平が自分を好きなことを知っていたから、自分を好きでない賢将と付き合った、というのも、百合子なりの恋愛哲学が感じられて良い。
賢将は朝子のことが明らかに好きだが、鉄平のことを好きだと知っているから、お土産をあげたり、外側の態度で示すことしか出来ない、もどかしい感じも良い。
ダンスの練習の時、朝子は鉄平と踊ることになり、朝子が、リナと踊れなくて残念だったね、と鉄平に裏腹なことを言う感じも、やきもきさせられる。
百合子は、賢将は好きな人には手も触れられないと言っていたから、賢将は、最初のダンスパートナーには朝子ではなくリナを選んだんだろう。
この5角関係、いや、リナを波から守った進平も加わった、6角関係がどうなっていくのか少し気になってしまった。
悪女の百合子に、かき乱しまくって欲しい。
振り切れない進平のキャラクター
若い鉱夫からすでに兄貴と慕われていた進平は、これと言って魅力を感じれなかった。
自分の部屋に来た鉄平を追い返す感じや、リナにゴミ捨て場で、海に幽霊が出る、という話をする時も、格好つけている感じで、薄く感じてしまった。
鉄平が進平の結婚写真を見た後、お願いがあると言い出すと、進平は眠くなったから帰れと鉄平に言ったが、自分に都合が悪い雰囲気を察知して先回りして言っている感じが弱く感じた。
鉄平にかぶせて、部屋なら譲らん、あいつは生きとる、と怒るとかならまだ分かるが、すねる子供のようだった。
リナに海の幽霊の話をする感じも、自作のポエムを聞かせて、悦に入っている様にも見える。
この一連の進平の感じは、奥さんに思いを馳せたり、普通の人には分からない苦しみを感じている、という深さは特に感じない。
闇を抱えているというより、単純に薄く見える。
いつもみんなの前では明るく振る舞っているけど、ゴミ捨て場では神妙な面持ちで海を見つめる、とかならギャップに魅力も感じるが。
明るくない雰囲気もあるが、ほとんどしゃべらない訳ではなく、寡黙な様で饒舌な時もあり、どんな人間かよく分からない。
特にしゃべらずとも、背中で語る感じが出来ないなら、この俳優の爽やかさを素直にもっと出した方が、むしろ奥さんを失ったという設定も相まって味が出ると思う。
暗くなく爽やかで魅力的な青年で、島の女性からモテモテで引く手あまただけど、一切誰とも付き合おうとしない、夜になったらゴミ捨て場で遠くを見ている、とかの方が演じやすいし、面白くなったと思う。
あんなに素敵なのに独り身なんてもったいない、まだ奥さんのことを引きづっているんだね、誰が彼の心を開くんだろう、などと島で噂されている、くらいの、アイドル的な描写があっても良い。
そんな進平の心をついにリナがこじあけるのかいなか、という展開だったら面白かったが、そうではない。
顔は格好良いけど、今のところ島の女性みんながとりこになるほどの素敵な人物ではないし、若い鉱夫達には兄貴と言われていたが、兄貴感もない。
この中途半端な状態で仮にリナと、もしくは他の誰かと恋に落ちようが、ヌルっとしていてあまり感動がなさそうだ。
これから進平はどうなっていくのか?
物足りない嵐のシーン
嵐が端島にやってきて、住民がてんやわんやになるシーンは、アクション的に迫力が足らず、物足りなかった。
送電線は次々と切断されて停電になり、トイレの水が逆流したり、水の配給もなくなり、一階の住居は浸水し、長屋は波で流される前に住民が映画館に避難する、という一大事だが、そこまで緊迫感は感じなかった。
住人の誰かが命の危機にさらされる、という明確な映像描写は特にない。
映画館の館長の大森くらいか?
長屋が丸ごと流された、というのは説明だけだし、鉄平が長屋の住人を避難させて、そのすぐ後に長屋が波でなくなった、という一連の映像があっても良かったんじゃないか?
長屋ってどこのことか分からないけど、映画館にいた人達は結構多かったから、比較的大きな住居なんだろう。
食堂の朝子は、店主に、道が川になっとる、と言っていたが、地面は浸水している訳ではなく、大雨で少し水たまりが出来ているだけだった。
その後も道が浸水したわけでもなく、詰所の前の地面はただ濡れているだけだったのに、食堂内はなぜか激しく浸水し、みんなでパン焼き機を外に運び出していた。
食堂は坂の一番下にあるから、水が貯まるのか?
でも朝子が助けを呼びに行こうと店の外に出ると、道はただ濡れているだけだった。
そのくらいなら、積んでいた土のうで防げそうだし、もしそれでもダメなら、別に嵐じゃなくても普通の雨で浸水するはずだ。
あの大量の水は一体どっから来たんだろう?
20センチくらいでもいいから、本当に道を浸水させてしまえば分かりやすいのに、それは単純にお金がかかりすぎるのか?
食堂から流れ出た缶を、食堂の店主の子供が外まで追いかけ、それをリナが見つけて保護するが、外は風は少し強いが特に洪水でもないので、何が危ないのかもいまいちよく分からず、良かった、ともなりづらい。
もう少しヒヤヒヤさせて欲しかった。
子供が海岸のゴミ捨て場に突っ込んでいくなら怖いけど、そうではない。
そして、食堂が坂の下の地面よりさらに一段低い場所にあるとしたら、その食堂の中の水に浮いていた缶が、一体どうやって食堂よりも上の位置にある、あの濡れた地面の上に流れ着いたのか?
水が上に登るのは物理法則を無視しているし、勝手に外に出るなら水をかき出す必要もなく放っとけば良い。
どっかの穴から奇跡的に缶だけ水に押されて外に出て、後は風で転がったとかか?
もし、つじつまが合う構造が仮にあったとしても、これだけ分かりづらく描いてはダメだと思う。
さらに、リナは海岸沿いのゴミ捨て場に近づき、大きな波が壁を超えて襲ってきた所を、進平が身を挺して守ったが、これも何が危なかったんだ?
進平が行かなくても、リナは波を浴びただけだろう。
地面が完全に洪水になっており、ゴミ捨て場のドアも波で外れていて、大きな引き波によってリナが連れて行かれる所を進平が何とか抑えた、とかなら格好良かったのに。
武蔵のフィルムは小さい隙間らしき所に吸い込まれ、また戻ってきたが、その隙間にリナは吸い込まれる所だったのか?
リナと隙間とは少し距離があったし、地面は浸水してないので、そこまで危なくもないんじゃないのか?
それ以上行ったら危ないぞ、とリナに警告する必要はあるし、映画館の館長の大森は、放っといたら隙間に入って行きそうだから、大森を止めるのは分かるが。
波は高さはあったけど、大した量が入ってくるわけでもなく、フェイクの波だった。
二人して波をかぶっただけで、それを進平が身を挺して守った風になり、進平とリナが見つめ合う、というのは何ともこっ恥ずかしい。
二人共、何かと理由をつけて恋に落ちようとしている根っからの恋愛体質なのかもしれない。
嵐と言っても、土砂降りに加え風は少しあっても、詰所前の地面は濡れているだけ、長屋が流されたのは描かれていないし、店主の子供もリナも、危ない大分手前で保護されていて、ハラハラ感がちょっとしか煽られないで終わってしまった。
アクション的に描くなら、CGを使っても良いからしっかり描いて欲しいし、予算がない中でこれが限界なら、もう少し工夫は出来たんじゃないのか?
リナが行方不明になり、水浸しになったリナを進平が抱えて戻り、ゴミ捨て場で流される所だった、と言葉で説明するだけなら、あの中途半端な大波を見せる必要もなかっただろう。
長屋のシーンは省いたのに、このゴミ捨て場のシーンはどうしても水を使って描きたかったのか?
せっかくここまで描くなら、もう少し頑張って欲しかった。
嵐ってきっとこんな感じなんだろう、といううわべの感じがして、少しゆるかった。
これら一連のアクションシーンが見応えのあるものならば、2話は大分面白くなったと思う。
興味深い端島の生活環境
端島では水が配給制で、住む場所も時々入れ替えるが、場所が限られているので振り分けがパズルのように難しく、一人部屋より二人部屋、低い部屋より高い部屋が人気である、などという、端島独特の生活環境の描写は面白い。
長い水道管を作って水を送る計画があったが技術的に先送りせざるを得なかったり、嵐で送電線が切れて、長屋も流され、てんやわんやになる感じなどもドラマチックでいい。
前述した通り、アクションは物足りなかったが、軍艦島という存在は何となくは知っていても、知らなかった詳細がちょこちょこ出てきて興味深い。
この端島という小さな世界に愛着が湧いてきているのは否めない。
なので、実際に勉強するよりも分かりやすいドラマという形式で、文化的な歴史を伝えつつ、人間ドラマも頑張って欲しい。
ちなみに、一平が寝坊し、水の配給をもらい忘れた所を奥さんに見つかり、逃げ出した一平を奥さんが追いかけて人の家の中で鬼ごっこになる、というコミカルな描写があるが、あまり面白くなかった。
まず奥さんが一平を見るなり、水をもらえなかったことを見抜いて、お父さん、お水は?といきなり怒鳴る感じがもうよく分からない。
同じ様な前科が何回もあったのか?
ずっと寝っぱなしの一平の前に来て同じことを言うなら分かるが。
お父さんお水ありがとね、とか言って奥さんは一平に近づき、いやいや別にいいんだ、などと言いながら、一平は桶を見られないように後ろに隠すとかの方が良かった。
奥さんはその挙動不審さに気づき、お父さんお水もらえたよね?と言って桶を覗こうとしたら一平は桶を隠し、なんで隠すの、と言って一平の体を動かそうとしたら、一平が、こぼれるこぼれる、と怒って言うとか、いくらでも出来たと思う。
奥さんが一平をいきなり怒鳴り、一平は違うんだ、と言いながら逃げ出して奥さんと追いかけっこになる、というのは、ありそうでない、リアルでないコミカルさだと思う。
奥さんがいつも鉄拳制裁を必ずする人なら逃げるのは分かるが。
本当にやっているとしたら、むしろ周りを笑わすためにおどけている様な行動で、自然な成り行きじゃない。
お魚くわえたどら猫を追いかけ回す、サザエさん的な昭和な描写にしたかったのか?
猫がサザエさんから逃げるのは分かるが、一平はこの島の長的な存在で、プライドもあるだろうし、いきなり逃げるのではなく、取り繕うんじゃないかと思う。
確かに人情に厚く、困った人を放っておけない親分肌の反面、飲んだくれで適当な親父、というのはあるだろうが、このシーンの一平は似合っていない行動をしていた。
一平が子供ならまだ分かるけど。
映画館の館長の、映画狂とも言える大森は味があって良い。
命よりも映画、という感じがコミカルで悪くない。
終盤の、嵐が去った後の無料映画館で住民が熱狂する感じなども、良い昭和感があって味がある。
ラストにかかる音楽はこの世界観と合っていないと言ったが、サビの後のエネルギッシュなコーラスの感じだけは、このドラマと合っている。
そこを引き伸ばして前半部分をカットして、このドラマ用に変えてしまえば良いんじゃないかと思う。
タイアップした曲を必ず全部使う、という常識にとらわれる必要もないだろう。
どうにかして面白いものを頑張って作ってほしい。
「第3話-孤島の花」が“物足りない☆2”理由と考察、その感想
時間も短く物足りない3話
3話は物足りなかった。
端島でのドラマは、鉄平が炭鉱夫のモチベーションを上げるために新たな点数制度を提案して採用され、ついに水道管が開通し、端島が舞台の映画出演オーディションが開催され、住宅では大規模な窃盗があり、鉄平は朝子に端島にはない桜の木を見せる、など盛りだくさんだったが、その割にどれも心をつかまれるドラマは特になかった。
どのドラマも、それぞれ物語の表層に触れるだけで終わっている感があり、全体を通して薄い印象になってしまっている。
現代では、玲央が居候しているいづみの家族トラブルに巻き込まれるドラマだったが、玲央のホスト感は良いけど、特に目を見張るドラマではなかった。
朝子は自然だが、そこまでの事件ではないオーディションのドラマ
端島では今回の話は朝子が主役で、朝子の演じ方はずっとナチュラルで、演じているように見えなくて素敵だが、いま一つ面白いドラマには感じられなかった。
朝子はオーディションに合格したものの、全てプロデューサーを装った泥棒による嘘だった、と分かり落ち込むが、そこまで恥をかいたわけでも、ダメージもあまりない。
オーディションであざとかった百合子に比べ、朝子はむしろ堂々と芝居をやってのけて格好良かったし、合格で浮かれて周りに言いふらしたり、ギャラが入ると思って高いワンピースなどを買ってしまったり、それ以来態度が天狗になった、とかでもない。
近所のおばさん達にチヤホヤされて嬉しそうにしていたが、恥をかいたと言うほどではなく、家族には、映画に出たらテレビが買えるから大丈夫だ、と言ったりはしたが、それは無理してテレビを買った父親を補助した言葉だし、かわいいものだと思う。
オーディションでの演技も明らかにあざといのに合格してしまい、調子に乗って高いテレビを勝手に買って支払いが出来なくなった、浮かれて羽振りが良くなった、とかならやっちゃった感があり、面白かったと思うが、そうではない。
事件としては大分物足りない。
オーディションをしたプロデューサーの夏八木も、登場シーンから薄くずっとうさんくさいので、泥棒だったと分かったところで、あまりショックでもない。
もし夏八木にそれなりの存在感があり、さらにこの後の撮影スケジュールを具体的に提示して、朝子にも仮の台本を渡して覚えておくよう指示するとか、もう少し用意周到だった方が面白い。
実際に朝子の時間を大きく削ったり、朝子は才能があるから女優として仕事をするためとそそのかし、朝子に食堂を辞めさせるなど、朝子へのダメージがもっと強くなければいけない。
そうさせるほどプロデューサーに説得力がなければいけないが。
このプロデューサー役の俳優は、秋元康脚本のドラマで刑事役だったのを見たことがあるが、演技っぽくなく、削ぎ落とした演じ方の強面刑事で、とても味があり魅力的だった。
しかし、この役では、そういった深さはなく、頑張って演技している感じで軽く、あまり味がない。
あの怖いリアルな雰囲気をこの役にも適用すれば、大分見ていられるものになったし、見ているこっちもだまされ、実は泥棒だったと分かってからムカついたと思う。
このプロデューサーは軽く饒舌な感じで、この役者に合っていないし、この役者も対応出来ていない。
オーディションのシーン自体も百合子と朝子ともう一人くらい、ちょっと描かれているだけなので、もっとガッツリ描いても良かったと思う。
本当に見る目のあるプロデューサーの様にこっちを信じ込ませ、こっちの時間も奪ええれば、より腹が立ったかもしれない。
しかし、そうではないので、そうだったんだ、くらいに感じる。
ただの軽い詐欺師で、これは一本取られた、という深みは特にない。
なので、夏八木にだまされたこの話は弱いので、ドラマとして完結させるようにきちんと見せて欲しかった。
朝子が、自分は騙されただけで、女優の才能はないんだ、と落ち込んでいるが、オーディションの様子を見た映画館の大森が、あなたが合格したのは嘘じゃない、本当に演技が良かったからよ、などと言ってなぐさめ、朝子が女優になれなくもないという選択肢に希望を持ち、やっぱりオーディションは受けて良かった、と前向きになる、などというシーンがあっても良かった。
朝子が実際に女優になる、ならないは別にして。
朝子が背伸びした夢を見て頑張ったが報われず、周りからもバカにされ、身も心もボロボロになった、でもこれはこれで楽しかった、などという起伏のあるドラマではない。
鉄平が朝子に桜の木を見せる動機が足りない
終盤では、鉄平が傷付いた朝子に桜の木を見せるが、これもつながっているようでつながっていない。
鉄平が良かれと思って積極的に夏八木のオーディションをサポートし、チラシを配って回り、嫌がる朝子を説得してオーディションを受けさせた、などであれば、謝罪の意味で桜の木を見せる理由は十分だが、そうではない。
鉄平は、夏八木のオーディションを許可した島の運営の一員だっただけで、特に何もしていない。
鉄平が、運営の反対を押し切って夏八木のオーディションを開催したわけでもない。
なので、幼い朝子の心に寄り添った鞍馬天狗が鉄平だった、という事実も効果的に働いていない。
鉄平のせいで恥をかいたけど、鞍馬天狗のこともあるからやっぱり好き、という、朝子の思いの強さを表す要素にはなり得ていない。
恥をかいたのは、夏八木が泥棒だったからで、鉄平のせいではない。
だから、鉄平が朝子に謝る動機も薄く、朝子が見たがっていた桜の木を特別に見せる、というのは少しはみ出た行為だ。
前述した通り、朝子はボロボロになった訳でもないから、朝子を元気づけなきゃ、という気持ちにも素直になりずらいと思う。
朝子が鉄平に怒るのもちょっと無理やりだ。
なので、鉄平をもっと全面的にこの話に関わらせるべきだった。
あざとい百合子のオーディション演技とエキストラ
オーディションでは、百合子が舞台上であざとい演技を披露して、夏八木に、芝居が臭い、と言われるシーンがあるが、この百合子のあざとい演技があざとく見えた。
緊張で上がってしまって固くなっていたり、良く見せようとして大げさになったり、声がやたらと大きくなったり、もっとリアルに情けない姿を演じてくれたら面白かった。
特に緊張している感じでもなく、ただ単に棒読みで、変に振る舞っている感じなので物足りない。
そして、泥棒が島にいると発覚したシーンでは、鉄平が不審者がいるというアナウンスをしたが、まだ不審者と鉄平が言い切ってないのに、アナウンスが始まってすぐに鉱夫達が騒ぎ出す感じがあざとく感じた。
事情を知らない人もいるんだから、少しざわついてから騒ぎ出すなら分かるが、いきなり騒いでみんなで外に走り出すのは短絡的だ。
きっと、台本に、アナウンスを聞いて騒ぎ、外に走り出す、と書いてあるんだろう。
鉱夫たちの間で、窃盗が話題になっていて、みんな怒っている、という描写もないので、雑に感じる。
こういうエキストラの人達の演技も、ちゃんと不自然でなく見せて欲しい。
食堂がなぜ貧乏なのか不明
端島は景気が良く、普通の世間のテレビ普及率が10%なのに、端島では60%もある、にも関わらず、なぜ鉱夫達の台所である朝子の食堂が貧乏なのかよく分からなかった。
朝子の食堂はまだパン焼き機の月賦も残っていてテレビなんか買えない、とすったもんだしていて、朝子は映画に出ればテレビが買える、と言っていた。
鉱夫達の給料はどんどん上がっていき、ほとんどの客がその鉱夫達や炭鉱の関係者で、彼らが朝から晩まで入れ代わり立ち代わり来てお金を落とす食堂も、それなりに好景気の煽りを受けて儲かってるんじゃないのか?
人が少ない街の寂れた町中華とは訳が違うのに、無理矢理貧乏にしている感じがする。
鉱夫達や炭鉱関係者は羽振りが良いけど、それ以外の仕事の人達はあまり景気が良くない、本土の生活レベルと同じであるなら、説明が必要だと思う。
そこをありきにして、食堂の人達がテレビも買えないのはよく分からないし、きっと食堂って景気の良い場所で経営しても儲からなくて生活に余裕はないんだな、と勝手に思いたくもない。
この貧乏であるという設定がなければ、テレビを買うために女優になる、という朝子の口実や、弟が人の部屋に入って勝手にテレビを見ていた、という話もなくなるので、3話にとってはどうしても必要だったのかもしれない。
しかしそれは、食堂で働く人は貧乏だが、そこの看板娘は魅力的だ、というステレオタイプな設定な気がして、モヤモヤする。
もっと言えば、これもどこかで見たようなありがちなドラマの設定を表面的に真似していて浅い、とも言える。
飽きてきた鉄平の演技
玲央は、階段で同僚のホストとしゃべっている感じは、演技に見えなくてリアルで良い。
いづみの孫を見つけ、ポケットに手を突っ込みながら、あれ?医学部?と孫に近づいていく感じは、ホストにしか見えない。
全体的には所々演技っぽいところもあるけど、どちらかというとホスト役の方がこの役者に合っている気もする。
鉄平は爽やかでかわいらしく、前向きな華やかさがあるが、その幅のない演じ方に少し飽きてしまった。
鉄平は、楽しい雰囲気を持ちつつ、落ち着いてハッキリとしゃべっている時は、ナチュラルな前向きなパワーがあるが、そうでない、テンションが上がっている時は、コント演技のようで軽く、全部同じ感じになる。
序盤で、賢将に鉱夫達の点数制導入について興奮気味にしゃべっている時、百合子が破局したことを知って賢将と言い争う時、夏八木と朝子の追いかけっこを止めている時、カメラを覗いている夏八木の前で必死にしゃべる感じも、全部同じ様なわちゃわちゃした軽い振る舞いになる。
一話で見た、一平に殴られ怒る感じもそうだった。
鉄平の振る舞いは、爽やかで前向きな態度、おどけている様な態度以外は、演技っぽくなる感じなので、もう底が見えてしまった寂しさがある。
ラストシーンで、鉄平が食堂で朝子に鞍馬天狗の話をされ、思い返し、朝子を2回見る感じとかも、本当に思い返して2回見た感じではなく、そういうパターンの演技だからやっている、テクニックとしてやっているだけで、自然な振る舞いのコミカルさはない。
朝子はせっかくナチュラルにハニカム感じが良いのに。
きっと素ではこんなことはしないだろう。
素でやらないことも役者はやる必要があるから、そこら辺がごっちゃになり、何が自然か訳が分からなくなる事はあるかもしれないが。
そういう、役になりきった自然な振る舞いではない、テクニック的な演技が、この役者にはチラホラ見えるので、それをいくら見せられても心には響かない。
というか、ドラマが面白くなっていかないし、演じる意味があるのか、とすら思ってしまう。
演技テクニックを見たいのではなく、実際に人間の心が動いている様、自然現象を見たいのに、真逆のことを見せられてもしょうがない。
以前も触れたが、この役者は、ポジティブ以外や、ネガティブな感情を表現するのが極めて苦手なんだろう。
もっと言えば、ポジティブしか出来ず、それ以外はわちゃわちゃした感じか、テクニック演技、あざといネガティブ演技になる。
ホスト役が全体的に違和感がないのは、そもそも素が近いし、ホストはネガティブなことを言う時も明るいからじゃないかなと思う。
玲央がこの仕事は好きじゃない、と2話で吐露する場面も、この話で、なんかあの家族イラッとすんだよね、と愚痴を言う時も、ネガティブなことを言っているけど、特に弱い言い方じゃない。
鉄平がポジティブ以外の時は、玲央の自然な時の感じが欲しいが、そうはなっておらず、物足りない。
これからも端島では色々なトラブルが起きて、賢将の父親ともひと悶着ありそうだし、鉄平は傷ついたり、苦悩や葛藤もするだろう。
その度に、味のないネガティブな演技がまた出るんじゃないか、と思うと自然と興味がなくなる。
今回の話でポジティブな鉄平の良かったシーンは、終盤に朝子に桜を見せ、
咲いて良かったーというシーンくらいか?
それももっと楽しそうでも良かった。
でも、朝子に桜を見せる動機も弱いので、気持ちの入れようがない、というのはあるかもしれないが。
あまりきれいでない端島、ムカつく百合子
桜の木を見せた後、外からの端島の風景を朝子に見せるシーンは、特に感動するほどキレイでもないので、もう少し何とかならなかったのか?
朝子は、キラキラ、と言っていたが、本当にその程度の感想しかない、だから何だ、というくらいの景色だった。
まだ明るいので、もう少し日が落ちてから、少し遠目から見せるとか、なんとかキレイに見せれなかったのか?
外から見た端島ってこんなものなのか?
桜の木を見せる時も、夕日をバックにとか、ドラマチックに見せれたんじゃないか?
ドラマのクライマックスで、良いシーンの割にあまりグッと来ず、ふーん、という感じになってしまった。
桜自体はキレイだけど。
でもそれまでのドラマで面白く見せれてないので、この画だけ秀逸でもしょうがない気もする。
なぐさめるほど、朝子も激しく傷ついてはいなさそうだし。
嫌な女の百合子に関しては、私性格悪いの、と自分で言っていただけでは補えないくらい、本当に嫌な感じがナチュラルに出ていて良い。
朝子に花びん買ったら?という感じとか、その嫌味な言い方が板についていて、とってもムカついて良い。
賢将と鉄平が言い争いをしている時、映画の台本を読んで二人にマウントを取りながら踊る感じも自然で、ムカつくコミカルさがあって良い。
早々にヒロインから辞退した感じが潔い。
これから百合子の立ち位置がどうなっていくのかは分からないが。
この嫌な感じから自分を見つめ、成長してヒロインに返り咲くのか?
現代のドラマはいづみに魅力がなく、見るのがおっくう
現代のドラマは、玲央の感じは悪くないけど、特にまだ興味惹かれるドラマではない。
いづみの家族のドラマは、いづみも含め、執事も娘も息子も孫も、特に魅力的な人間ではなく、見ているのがきつい。
いづみの感じは、強い感じではなく、どちらかというと疲れているおばあさんという感じで、この人は一体誰だったんだろう、と思わず興味を持って考えてしまうほどの魅力はない。
端島の事件を引きずっていても、基本的にもっと強くてパワフルであれば、家族が魅力がないことと対比が出ただろう。
いづみが、会社経営や財産、家族の理想のあり方などに関して、いくら強く説教しても、家族は聞く耳を持たず、疎ましく思っている描写などがあれば、いづみが家族の中で孤立している感じなどがハッキリしてメリハリが出たと思う。
ホストに多額の売掛を作った孫を甘やかす家族を叱り、お母さんだってホストを家に入れてる、これは意味が違う、などというケンカがある訳でもない。
今のところ、かつての恋人(多分)に似たホストを助ける、時たま感傷に浸る、疲れたおばあさんだ。
せめて、孫の一人くらいは、いづみと心が通う子であり、いづみの希望の星である、くらいの味方がいても良かったと思う。
もしくは、執事だけはいづみの気持ちを理解し、他の家族に対して良く思っておらず、いづみを守ろうとするような深い描写があれば面白いが、そういう執事でもない。
なので、いづみを含め、家族の中で魅力的な人間が一人もいないので、一体どこに気持ちを持ってって良いのか分からず、ただ玲央の成り行きを見守るだけになってしまう。
玲央の言う通り、イラッとする家族だと思うが、せめていづみにもっと魅力か欲しい。
いづみは、朝子なのか、リナなのか、それともまさかの百合子なのか、はたまた他の誰かなのか、まだ全然分からないが、今の時点ではもう誰でも良いし、正体を聞いても、そうだったんだ、という感じになってしまう。
まだ端島のドラマの方が、なんだかんだ興味は引かれるので、この現代のドラマは見るのが非常におっくうである。
「第4話-沈黙」が“物足りない☆2”理由と考察、その感想
感動出来そうだった4話
第四話は、途中までは面白く、これからどうなるんだ、という期待感が煽られていったものの、特に何も起きないまま終わってしまった。
戦争の悲劇が百合子や鉄平の家族を通して語られていく感じは悪くなく、包み込むような音楽も相まって感動出来そうだったが、そうはならなかった。
せっかく感動出来そうな感じがさわさわしたのに、なんでそのまま突き抜けないんだろう。
百合子を始め役者の演技も悪くなかったし、端島という場所や戦争という時代など、それなりに舞台は整っているはずなのに、あまりにもったいない。
期待させられた序盤
なぜ百合子が朝子に意地悪をするのか、という真相や、戦争で亡くした鉄平の家族の逸話が、鉄平のナレーションで語られていく序盤の様子は、百合子や朝子、一平の演技も相まって、惹きつけられた。
いつまでも神にすがる母に嫌気が差していた百合子も、母が死ぬ時には素直になって謝る演技も自然で、涙腺が揺さぶられるし、いつも適当な一平も実は息子を戦争に送り出したことを悔やんでいて、死なせないために鉄平を大学に行かせた、などということを和尚と語り合う場面も深くて良い。
百合子に嫌な態度を取られている朝子を気遣い、鉄平が話を聞く感じも、優しい鉄平らしくて好感が持てる。
精霊流しという儀式は、やっている人達はどういう思いでいるのか、ということの一端が、人間ドラマを通して語られるのは興味深い。
何となくその儀式は知っていても、人を使ったドラマを通すことでより身近に感じられる。
しかし、あくまで戦争を体験した端島の人達の悲しみの一端に触れたに過ぎず、もっと掘り下げて欲しかった。
百合子が朝子に意地悪をしていた理由がよく分からない
この話はほぼ百合子が主役のようなもので、百合子と朝子の確執が話の肝になっている。
しかし、なぜ百合子が朝子に意地悪をするのか、という肝心の理由がいまいちよく分からなかった。
キリスト教の集会に行きたくなかった百合子は、朝子が百合子の母に居場所を知らせたことで仕方なく集会に行く羽目になり、行った先で3人は原爆の被害にあったから、というのが理由の様だが、そんなこと思うかな?と思ってしまった。
百合子が今日こそは集会に行かないように、用意周到に母からはぐれ、自分を探しているうちに船が出港し行けなくなる、ということを計画していたが、それを見た朝子が、百合子の気持ちを知っているのに意地悪で母にチクった、とかなら恨むのはまだ分かる。
しかし、百合子は何となく行きたくなかっただけで、だから朝子も軽くふざけて母に教えた訳で、いつもの子供同士の遊びだ。
それなのに、朝子のせいで、自分を含め家族3人が被爆し、姉は死んで、母は白血病で寝たきりになった、だから根に持っている、というのは浅い。
もし、百合子が身を隠し通し、百合子を探すために母達も船に乗れず、奇跡的に長崎での原爆被害をまぬがれた、としても、それは結果論のタラレバがはなはだしい。
さすがの百合子だって、原爆が朝子のせいでないことは分かっているだろう。
もしこれが原因で朝子に意地悪をしているとしたら、百合子は性格が悪いというより、狂っているか、精神的な病気である。
この状況で、人はそんなことは思わない。
子供のままならまだしも、百合子はもう大人だろう。
朝子が百合子に日頃から悪意を持って嫌ないたずらをしていて、当時のいたずらもその一環であるなら分かるが、それは性格が悪いんだから、嫌われて当然だ。
しかし、朝子はそんな人でもない。
なので、この二人の間にどんな事件があったのだろう、と期待してしまったが、スッと入ってこなかった。
百合子は性格が悪い人に徹した方が良い
むしろ逆で、百合子は朝子のせいだとは全く思ってなく、朝子が、自分のせいで百合子は被爆した、と自分を責めている方が自然だと思う。
百合子の意地悪は自分のせいだ、と朝子は思っているが、鉄平が百合子に話を聞いてみたら、単純に朝子の性格が生理的に無理なだけ、被爆は関係ない、と言う方が、悪に徹した粋さがあって面白い。
そういう朝子の自分のせいにする考え方も嫌い、などと言っている方が、百合子らしくて良い。
しかし、そんな話ではなく、百合子が朝子に意地悪をするのは、本当にその事件が原因とされていて、鉄平も賢将も、周りの人達も触れちゃいけない、と思っている感じも浅い。
仮に周りがそう思っていても、百合子が、そんな訳ないじゃない、バカじゃないの?などと言ったりして、周りが思っているマイナスの思い込みを壊す良い機会だったのに、そうはならなかった。
周りはなぜ朝子のせいだと思ってるんだ?
ずいぶん冷たい人達で、逆に朝子が不憫に見えてしまう。
朝子本人が自分を責めるならまだ分かるが。
せめて鉄平だけは百合子に腹が立っていて、百合子に、なぜ意地悪するんだ、朝子は何も悪くない、と詰めて、百合子が、あの出来事は関係ない、と怒り返す、というシーンがあれば良かった。
そうではなく、百合子の意地悪は朝子のせい、しかし百合子は母も亡くなり、時間も経って朝子を許すことが出来た、それを直接はっきりと朝子に伝えることはしなかったが、謝罪の意味も込めて浴衣を朝子に着せてあげた、
という、浅い描かれ方になってしまっている。
お互いを傷つけないための沈黙が二人を包み込んだ、とでも言いたかったんだろうが、そんな深さはなく、モヤモヤする。
沈黙という行為が、口より雄弁に物語る訳ではなく、都合の良いすり替えになってしまっているので、これなら徹底的に気持ちをぶつけ合った方が気持ちが良い。
そもそも、朝子のせいじゃないんだから、百合子は朝子を許す必要も謝罪する必要もない。
単純に朝子とは馬が合わない、と貫き通せば良いだけだ。
もし朝子が謝罪してきたら、朝子に、あの事件のせいだと思ってたの?私はあなたの八方美人な感じが嫌いなだけよ、私性格悪いの、などと、百合子独特の言い回しで朝子の誤解を解き、どうせ着物持ってないんでしょ、貸してあげる、と、上から目線で良い着物を着せてあげる、とかだったら面白かった。
百合子の味である性格の悪さが、百合子本来の気質ではなく、それが今回の百合子と朝子の和解で今後なくなってしまうとしたら、なんともつまらないし、上述した通り不自然に感じる。
沈黙という形をとって語ることが上手くいってないんだから、朝子と百合子、鉄平も絡めて、しっかりと言葉にしてぶつかり合い、分かり合う描写を描くべきだった。
帰ってきたネックレスは何が奇跡なのか?
百合子が嵐の日に母と喧嘩して、母からもらったネックレスを外に投げ捨て、それを偶然見つけた賢将が百合子に返し、百合子は奇跡と捉えて泣き崩れるシーンがあったが、何が奇跡なのか分からなかった。
外が洪水で、ネックレスが海に流され、何日も経ってから海岸に流れ着いていたのを賢将が発見した、それが母が死んだ日だった、とかなら奇跡だが、全然そうではない。
ただ外に捨て、すぐ前の階段の所に落ちいたのを、捨ててからあまり時間も経たずに賢将が見つけただけだろう?
それを、母の力、神の力が働いている、と泣き崩れるのは、あまりにゆるい。
泣いている演技自体はあざとくはなかったが、状況がゆるいので、泣く動機を探していた様にも見え、感動するところまでは行かない。
沈黙する端島の人達、物足りない進平、光るリナ
沈黙というタイトルで描かれた今回の話で、テーマと合っていて良かったシーンは、一平が百合子と和尚の話を縁側で特に口を出さずにこっそり聞いている感じや、福岡で空襲があり、家族が亡くなった日には、鉄平の家族はみんなでご飯を一緒に食べる感じくらいかもしれない。
戦争に対して思うことがあり、和尚には本音を語るが、家族の前では戦争に関してあまり語らない一平の雰囲気は、役者の年の功もあるだろうが、深い味があって良い。
鉄平の仕事に小言を言う感じも昭和の親父っぽい感じで良い。
鉄平の兄の進平は戦争から生還したが、どうやって生き延びたのかは全く語らない、と鉄平は言っていたが、進平にはもう少し深みが欲しい。
進平は、今まで魅力的な振る舞いを見たことがなく、どんな人間かよく分からない。
兄貴感があるようでない、味があるようで今ひとつ薄い。
影があるようだが爽やかさもあり、かといってずっと爽やかでもない。
リナの持っていた拳銃からすぐに弾倉を取ってしまう感じとか、ただセリフを言っているだけで、軍隊にいたから銃に精通していたんだという凄みも感じない。
この俳優は格好良く、基本特にあざとい訳では無いが、自然体に特化したわけでもなく、特にしゃべりにあまり魅力がない。
ずっと、ちょっとだけ棒読みという感じで、どう思ってるのかが分かりづらい。
強いて言えば、進平の魅力は、時折見せるかわいい笑顔くらいだ。
なので、進平は、もっとセリフを極力減らして無口にして、いつもニコニコさせておいたほうが、よほど魅力的だと思う。
理想は、寡黙な感じもあり、憧れる様な格好良い兄貴であって欲しいが、そうは見えずに物足りない。
戦争体験や妻が行方不明になったなど、闇を抱えているからこういう演技になっている、と言われても、それは別にそういう描写を設ければ良い訳で、普段の振る舞いの物足りなさとは関係ない。
精霊流しが終わり、流したお供え物を取りに進平が海に飛び込むシーンでは、もっと格好良く飛び込んで欲しかった。
頭から飛び込む感じは勇気があると思うが、角度が浅く、腹を打っている感じでもあるので、ちょっとダサかった。
飛び込み慣れしてないのに無理してオジサンが飛び込んだ感じというか。
もっと斜めに、きれいに頭から飛び込む感じだったら格好もついたのに。
それを見ていた女子達も、進平兄ちゃん大丈夫?腹打ったんじゃね?ダサっ、とか言ってくれたら面白かった。
格好良いキャラなんだから、ちゃんと格好つけて欲しい。
その後、取ったお供え物を女子達に配りに行き、進平から食べ物をもらったリナが、何か言いたげに自分を見る百合子を見て、なぁに?と笑いながら言う感じは、全く演技に見えず、めちゃくちゃ自然で良かった。
これはアドリブなのかもしれないが、全ての役者の全てのシーンの演技がこの自然さなら、ドラマは必ず見なければいけないものになるだろう。
エンディング曲は良いのにもったいない
ちなみに、終盤のシーンで、着物を着た百合子と朝子が階段で佇んでいる時に、エンディング曲が流れている感じは、百合子の何か思っている感じも相まって、とても絵になっていて素敵に感じた。
ドラマは足りなくても、絵になっているので、音楽の力はすごい。
この曲自体はとても素敵で、この曲が聴けることを楽しみにしている自分がいる。
今回は、ピアノのスタイリッシュな感じもまだ合っているように感じ、曲は良くてもその使い方で見え方は変わるので、もったいないと思う。
もしドラマがガツンとくるもので、クライマックスなどで登場人物の感情が激しく動いた時に、このピアノの旋律が流れたら、めちゃくちゃ良いドラマに感じるだろう。
クライマックスじゃなくても、せっかくこんな良い曲があるんだから、エンディングに固定せずに、合っている場面で流せば良いのに。
理想はドラマがしっかりしている上で、ドラマの盛り上がりをラストに持ってきて、役者の演技に合わせて絶妙なタイミングで流すことだが、それは至難の業で、今のところ出来ていない。
そうしているつもりなのかもしれないが。
なので、もっと柔軟に、この曲の部分部分でも合っている場面に使っていけば良い。
そうじゃなく、エンディング固定なので、今回は合っている、合っていない、というのが運任せになってしまっている。
「第5話-一島一家」が“見て損はない☆3”理由と考察、その感想
今までで一番面白い話だった
5話は今までの物語では一番面白いんじゃないかと思った。
鷹羽鉱業と炭鉱夫のストライキの闘いからはじまり、板挟みになる賢将は演じ方が味わい深く、賢将を気遣う仲間たちの描写も悪くないし、現代では玲央と仲良くなった孫たち3人で端島の鉄平について真相を調べていく感じも期待感があり、ついにいづみの正体が明かされるという物語の大きな動きもあった。
終盤の進平とヤクザの戦い、リナとの恋に関しては今ひとつだったが、演技とストーリーがリンクした、見応えのあるドラマ部分があり、全体としてプラスである。
賢将に心つかまれる
今回の話で良かった原因は、なんといっても賢将の感情表現が抜群に良かったということに尽きる。
鷹羽鉱業と労働者の仲が険悪になるにつれ、労働者の中で育ち、労働者の気持ちも分かる賢将が、鷹羽鉱業の所長の父と労働者の板挟みになり、どうしていいか分からなくなっていく感じが、その自然な演技で見事に表現出来ている。
父には労働者と馴れ合うなと言われ、労働者からは、目の敵にされ、徐々に孤立していく寂しさが体から醸し出ていて、これはどうなっていくんだ、と目を見張ってしまう。
鉱夫達に嫌味を言われて、何かを思うが、無視してうつむく感じなど、何か言いたいことがあるけど言葉にならない、という演技が、この俳優は非常に長けている。
一回は無視しようと思ったが、瓶を投げられ、ヘタレと言われ、殴り合いのケンカをする感じも自然だし、その後に落ち込んでいる感じも、演技ではなく、本当にトーンが下がっている様に見えて良い。
家で寝転がりながら父に悪態をつき、徐々に感情が高ぶり、あんたみたいになりたくない、というシーンもリアルだ。
この時の父の演技も良く、なんだその口の利き方は?と強く言ってねじ伏せようとしたが、より強いことを言われ、ハッとしてちょっと呆然とする感じの顔の表情が良い。
父は、時に冷徹な感じがあるが、完全におかしいわけではなく、優しい感じもなくはない感じが、賢将が葛藤する動機を与えていて、絶妙なバランスになっている。
もし父があまりに厳しすぎて冷徹だとそもそも従う動機がないし、逆に必要以上に優しいと、賢将のこの父への暴言は上滑りしてしまうので、ちょうど良い塩梅の演技だと思う。
嫌な女の百合子が、賢将を気遣い、友人として寄り添う感じは、付き合ってくれたから自分も付き合う、という筋の通った優しさで、百合子の強い演じ方、それを感じて耐えるように泣く賢将の演技もあり、涙腺を刺激された。
泣こうとしている感じでもないので、自然で良い。
一番良かったシーンは、鉱夫達に陰口を言われていた賢将に、一平があえてみんなの前で、いつカレー食いに来るんだ?こいつは俺の息子なんだ、と優しく笑いながら賢将に言うシーンだ。
無償の優しさに触れた賢将が、こみ上げてくるものを堪えている感じに涙腺を刺激される。
鉱夫達が敵対視する相手に、鉱夫達の前で、普通に優しく親しく接するこの行為は、ただ仲が良いから、というだけでない、文句があるなら言って来い、嫌われようが構わない、という強さを含んだ優しさなので、非常に深い。
ただ声をかけた、というより自分の身を切る優しさなので、賢将の立場なら、こんなことをされたらたまらない。
一見普通だが普通じゃない、強い普通だ。
一平の演技も、それを分かって演じている感じなので良い。
鉱夫達の長である一平がやっているから、何も言えない、ということだが、本来リーダーの権威はこういう使い方をすべきなんだろう。
賢将の父のように、一方的に言うことを聞かすために使うものではなく。
このドラマの中では、今まで見たシーンの中で、一番面白い、ストーリーと役者の演技が掛け合わさって、現実を超えた強いリアルが表現出来ているシーンだと思う。
ただ、一平が鉱夫達の長でもあるんだから、鉱夫達が賢将に対して酷い態度を取っていることを、もう少しなんとかしてあげてもいいんじゃないかと思わなくもない。
でも、それは昔ながらの親父だから、賢将が悪くないことは知っていても、自分でなんとかしろ、というスパルタ的精神で見守っているのかもしれない。
実際、声をかけて助けてくれてはいるので、頑張れよ、という一平なりのエールなのかもしれない。
ちなみに、鉄平の演技は、端島を良くしたい、という前向きな演じ方が多く悪くない。
変にわちゃわちゃした感じや、あざといネガティブ演技もなく、こういう感じでこれからも演じていって欲しい。
賢将に優しさを示した一平や百合子に比べて、鉄平は直接的には賢将に優しくすることはしなかった。
鉄平は賢将に、朝子や賢将、島民への愛情を語り、島の環境は良くなる、良くする、と告げ、それを聞いた賢将は、わがままだなお前は、と言って鉄平の鼻をつまみ、殴るふりをしておどけてて見せた。
その賢将の言い方や振る舞い自体は自然で、落ち込んでいた賢将は、いつものように元気を取り戻した感じに見えて、前向きで良いシーンだった。
しかし、何が「わがまま」なのかよく分からず、何となく鉄平が元気づけた様なボンヤリしたシーンにも見えた。
鉄平のセリフがもっと具体的で、賢将に食い込む様なものだったら、このやり取りは成立したように思う。
例えば、きっと賢将と鉱夫達の関係は良くなる、俺がやって見せるから、もうちょっと待ってくれ、などと、自分が全て背負っているような感じを出して言えば、賢将がイラッとして元気が出るこのやり取りは自然に見えたと思う。
なので、このシーンは鉄平のセリフが足らずにもったいないと思った。
進平がリナの命を守り、恋に落ちるシーンは物足りない
進平がヤクザに腹を撃たれ重傷風に見えたが、進平は、かすり傷たい、と言っていて、大丈夫そうな感じに振る舞っていたが、翌日は普通に歩いていたので、本当にかすり傷だったのか、となって少し萎えた。
この描き方であれば、進平はそこそこの重傷を負っているか、死んでいてもおかしくないくらいだと思う。
もし腹をまともに撃たれていたら、普通には歩けないだろう。
手術も必要だろうし。
進平が軍で撃たれた時の応急処置を知っていて、弾は貫通して自分で縫合して終わらせた、としたら、すごすぎて話が変わってしまうので、多分本当に腹をかすっただけなんだろう。
確かにリナの命を救ったけど、特に大丈夫なかすり傷を負って、リナと恋に落ちる感じがすごく物足りない。
死んだと思わす方に強く振り切っていて、実は生きていた、訳でもなく、全然大丈夫に見えて重傷だった、もしくは死んだ、のどっちでもない。
重傷なのか大丈夫なのか、どっちか分からない描き方をして、ピンピンしてました、というのは、落差もなくつまらない。
あの大きなシャツの血はフェイクだったのか。
本当にかすり傷なら、もう少し血は少なくて良かったんじゃないか?
でもそれだと危険を乗り越えた感じを出せないから、大きめにしたのか?
どちらかというと、死んだと思わせた方がよほどロマンチックで、リナと恋に落ちる状況になり得るのに。
自分はかすり傷で、ヤクザの命を奪い、リナと結ばれるって、これは何だ?
かすり傷とはいえ、確かにヤクザに殺されそうになった、というリスクをすでに負っているし、進平だけなぜ普通に恋に落ちてはいけないのか、とも言えるので、別に構わないと思うが、単純に面白くなっていない。
進平は明らかに重傷で、口からも血を吐いているのに、大丈夫たい、と言っていて、リナが泣きながら口づけし、やっぱり愛した人は死ぬんだ、と言いながら、そのシーンが終わる、とかだったら、涙腺も揺さぶられたし、進平が生還したら、それはそれで感動があっただろう。
でもそのためには、島の人を呼んで助けてもらわなければならず、リナがヤクザの金を持って逃げた、もしくはヤクザとつながりがあることもバレてしまい、リナは島にいられなくなるかもしれない。
だからこそ進平は、ヤクザが死んだことを鉄平には言わずに、リナとの二人の秘密にした訳で、リナを島にいさせるためには、拳銃で撃たれて重傷である、というバレる状況はドラマ的には不都合だったんじゃないかと思う。
本当は全然不都合じゃなく、むしろ新たなドラマが生まれた可能性もあった。
リナは島にいられないことを覚悟してでも、進平を助けたいに決まってるので、洗いざらい話し、追放されるかと思いきや、そのリナの真摯な姿勢に打たれた島の人達がリナをかくまう、という方向になっても面白い。
一平が、その金を持って、俺が話しつけてくる、とヤクザのもとに向かい、おさめてしまう、とかだったらめちゃくちゃ格好良い。
それはそれで、一話割かなきゃいけなくなるかもしれないが、面白いんだったら別に良いだろう。
なにはともあれ、このシーンは今ひとつ振り切れない。
ヤクザに追われて逃げる、緊迫感があるリナの演技は非常に良いし、進平に口づけした後に心配そうな、悲しいような、何とも言えない顔で進平を見る感じなども、嘘でない感情が入っていてリアルで良い。
小柄なヤクザ役の役者も、かわいい顔をしてる割に、怖い感じがちゃんと出ていて、味があって良い。
進平に後ろから抱きつかれているのに、動じずに銃を持ち直す感じとかも怖い。
なので、進平の演技や展開が良ければ、かなり面白くなったんじゃないかと思う。
そもそも進平がどんな人間か分からないので、リナを助けても跳ね上がる感じがない。
投票に参加せず、朝子になぜ行かないのか?と言われ、炭を掘るのが仕事だから、と答える感じも、格好つけている変なやつの感じで、深みはない。
進平の答えを聞いて、ふ~んと言っていた朝子のリアクションは、まさにそのままこっちが思うことと同じだ。
これが高倉健みたいな、そういう場が苦手で、という朴訥で味のある不器用さがにじみ出ていたら分かるが、そんな雰囲気もない。
格好つける感じではなく、もっと素直にかわいらしい感じを出していけば良いのに。
しゃべるのが苦手でほとんど何も言わないが、いつもニコニコしている進平が、リナを体を張って助けた、とかなら感動もあったが、そういうキャラクターでもない。
アクションとしてもいまひとつな進平VSヒットマン
アクションとしても今ひとつだった。
進平が拳銃を持ったヤクザを後ろからチョークスリーパーしながら銃を奪おうとする感じはグズグズで、もっとリアルに格闘を描いて欲しかった。
いくら軍隊の経験があっても、テンパったら人はこんなものかもしれないが、普通はチョークスリーパーしたならそのままねじ伏せるとか、もしくはチョークスリーパーなどせずに体当りする、とかなんじゃないのか?
そして殴り殴られ、相手がナイフを出し、それをさばいて、など、もう少し格闘して欲しかった。
最終的に進平はヤクザを撃ち殺すが、銃を打つ時の顔が、真顔みたいな冷徹な感じで怖い。
これから恋に落ちる人間の顔じゃない。
せめて苦々しい、撃ちたくないって感じで撃って欲しかった。
完全に殺しに行った顔だった。
そもそも殺さなければ危ないほど追い詰められていないので、下半身を撃ったりして殺さずに捕まえられるんじゃないのか?
でもそうするとリナのことが島民にバレるから、だとしても、あんな躊躇のない冷徹な撃ち方は、不必要な描写だと思う。
彼の中ではまだ戦争が終わっていない、戦争シンドローム的な意味合いも込められているのか?
一話でも触れたが、進平が暴力を振るう感じは、格好良いんじゃなく、怖く感じる。
なので、勝ったは良いけど、特にすっきりもしなかった。
リナが追い詰められている時は、進平助けてくれ、とは思ったけど。
そんなこんなで、進平とリナが再び口づけして、そこでエンディングテーマが流れても、なんだかなぁという感じだった。
いづみの正体が明かされた現代
現代の話では、いづみの息子や娘とは対照的に、孫2人が玲央の味方になり、一緒に端島や荒木鉄平について調べる、という感じの展開はポジティブで悪くない。
そしてついに、この話でいづみが朝子であることが明かされた。
主要キャラクターの女性陣の中では一番裕福ではない、という描かれ方をされている朝子が、大きな会社の社長に成り上がる、というのは、一体何があったのか、今後描かれるのか?
端島を見たいづみが泣き崩れていた、ということは、鉄平と結ばれるが死別した、もしくは結ばれる前に別れてしまった、ということなのか?
いずれにせよ、現代のいづみの振る舞いとつながるような展開にして欲しい。
鉄平のことが幼い時から好きだった朝子が、老人になってからも玲央にその面影を見いだして引きずる、ということは、よほどの悲劇があっただろうから、そこは見ものかもしれない。
「第6話-希望の種」が“見て損はない☆3”理由と考察、その感想
幸せラッシュの6話
6話は、主要メンバーの幸せラッシュが微笑ましく、アパートの屋上を島民総出で緑化する計画も興味深く、今では廃墟になった軍艦島に当時住んでいた人達の活気やエネルギーが感じられて、好感が持てる回だった。
進平とリナの赤ちゃんが生まれる様子や、賢将の百合子へのプロポーズ、鉄平の朝子への告白シーンも、それぞれ役者の演技が良く、涙腺が揺さぶられてしまった。
ドラマがもっとしっかりしていれば、もっと面白くなったんじゃないかとは思う。
進平とリナに赤ちゃんが生まれた
お互いに、最愛の人を過去に亡くしている者同士恋仲になり、新しい命が生まれる感じは感動的で良い。
進平が生まれた赤ちゃんを見て、涙ぐみながら、ありがとうと言う感じは自然で、涙腺が揺さぶられる。
進平が家族に赤ちゃんが出来たことを報告した後、リナとしゃべっている感じや、赤ちゃんが生まれるから走って駆けつける感じなど、その振る舞いは普通で、特に暗く影がある感じでも、格好つけている感じでもないので、好感が持てる。
今までの進平の感じも、こういう感じで、普通に爽やかな人間としてずっと描いてくれた方が、よほど良かったんじゃないか?
進平のキャラクターがいまいち振り切れていなかったので、今までの進平の人物描写が濃ければ、この赤ちゃんが生まれるシーンは、もっと感動できたと思う。
過去の回で、進平が過去を乗り越えた感じも曖昧だし、進平がリナを守ったシーンも物足りなかったので、幸せを手に入れた時の跳ね返りが少なくなっていてもったいない。
進平は、奥さんが海に流されても生きていると言っていたが、ついに死んでいることを認め、リナと恋仲になったが、なぜ死んでいることを受け入れたのか、それはいつなのかが描かれていない。
頑なに二人部屋に住み、部屋を明け渡してもらう鉄平のお願いも、先に察して話を拒んだくらいなのに。
何となく時間が経ったから妻の死を受け入れられた、とすれば大分物足りない。
リナには、口では奥さんは死んだ、と言っていたが、そこに至る進平の気持ちの揺れ動きがほぼ描かれていないので、リナと出会い、何となく受け入れた感じに見えてしまう。
過去の恋人がみんな命を落とすという話をしたリナを勇気づけるために、意を決して過去を語り、俺も同じ境遇だ、一人じゃない、と笑いかけるとかなら、目の前の人に優しくするという目的があるので良かったが、そんな感じでもなかった。
例えそれが本心でなくても粋だし、あえて口に出したことで本当に受け入れられる様になったかもしれない。
もしそうしたつもりだとしたら、演技も含め足りていない。
過去の回で述べた通り、進平が命をかけてリナを助ける描写も物足りなく、ヤクザを残酷な殺し方もしていたし、不運な境遇の2人が障害を乗り越えてようやく宝を授かった感はあまり感じなかった。
リナも身分を隠しているし、まだヤクザとの因縁も解決したわけじゃない。
またヤクザが来たらどうするんだ?
同じように殺すのか?
端島という小さく特殊な島で、そこの炭鉱夫と外から来た女性が結ばれ、赤ちゃんが生まれるということ自体は、ロマンチックで素敵で、かつての端島の生き生きとした姿を描く一端にはなり得ていると思う。
それだけに進平の立ち振る舞いが良ければもっと面白くなったはずなので、もったいない。
まさかの賢将と百合子の結婚
賢将がまさか百合子にプロポーズするとは思っていなかったので、ビックリすると同時に、二人の演技が自然で良かったので、涙腺を刺激された。
指輪をはめられ抱きしめられた百合子は最初戸惑い、拒む感じも良い。
そんな百合子の反応を見た賢将が、一緒に座って優しく語りかけていくうち、百合子が驚きながらも徐々に受け入れていく様子がナチュラルで感動的だ。
被爆していて、もしかしたら母親の様に白血病で長生き出来ないかもしれない、と心配している百合子を、感傷的にならずに解きほぐしていく賢将は素敵である。
百合子が、私の人生は手強いわよ、などと試すような強がりを言うのも味があって良い。
素朴だが、二人の過去の関係や百合子の心配事なども相まって、マイナスがプラスに転換された感じが、ポジティブで好感が持てるプロポーズだった。
二人の結婚式のシーンも、おでこにキスをしようとしている賢将を百合子が下から覗き込む感じなど、いたずら気だが嬉しそうな表情で、その後の花のシャワーの中を歩く二人も、幸せそうな感じが伝わってきて微笑ましい。
この一連のシーンは、賢将も、それを受ける百合子の演技も良かった。
しかし、賢将に関しては、結婚する前に、鉱夫達との関係性が進展し、前向きになれた様子などを描いて欲しかった。
賢将が父親と鉱夫達の板挟み事件で、百合子や一平、鉄平の助けもあり、元気を取り戻した後、鉱夫達と意思疎通を図ろうと頑張る姿が見たかった。
その時、賢将に寄り添った百合子の行動は、結婚の理由の一つにもなっているわけで、ただ百合子に慰められただけでなく、おかげで成長出来た、ということでプロポーズしてくれたら、より面白かったと思う。
賢将が鉱夫達と意見交換し、それを見た父親とも毅然とやり合い、父を認めさせてしまう、などという描写があれば格好良かった。
そうでなければ、賢将はただみんなに助けられただけになってしまい、せっかく言葉に出来ない味のある落ち込む演技をしていたのに、そこから盛り返す、もう一展開ないのはもったいない。
百合子に関しては、もうすっかり良い人に戻ってしまったので、もったいない。
それでもまだ、たまに意地悪な感じになる片鱗というか、風味は残っているから悪くはないが、性格が悪いよりの方がこの役者に合っているし、何かとギャップが出て面白くなると思う。
朝子に告白した鉄平
進平とリナに子供が出来、賢将と百合子が結婚し、さらに鉄平も朝子に告白し、二人は結ばれた。
鉄平はモジモジしながらも何とか好きだと言い、もう一度好きと言って、それを聞いた朝子が泣いた瞬間にエンディング曲が流れるタイミングは絶妙で、涙腺を揺さぶられてしまった。
音楽が合っている合っていないなど何もよぎらずに、その雰囲気に心を持っていかれた。
鉄平がもじもじしてる時も、朝子の対応は自然で、鉄平が気合いを入れた時に、うんうんとうなずいて、頑張れ、と言わんばかりの仕草がかわいらしい。
告白した後、朝子が涙を拭いながら、うんと返事をする感じや、顔を海の方に背ける仕草、笑いながら柵をいじる感じなど、朝子だけ見ていたら、まるで告白シーンのドキュメントを見ているかのようなリアルさで、より涙腺を揺さぶられた。
鉄平の感じは、モジモジしてる感じは悪くないものの、告白の言い方に演技っぽさがあった。
しかし、それを受ける朝子が自然なので、良いシーンにはなっている。
最初の、朝子が好きだ、という言い方は、誰に言っているのかよく分からない言い方で、良い声にして言っているので、もったいない。
せっかくモジモジしたのに、そのモジモジが爆発して言ってしまった感じではない。
気持ちを切り替えたが、切り替えたというより今までのモジモジをなしにして、違う人格でセリフを言っている感じなので、物足りない。
青臭いけど、好きだーと叫ぶくらいの方がまだ良い。
なので、これはモジモジしている演技で、本当に心からモジモジしてしまっている訳ではないんだろう。
それにしては上手い方だと思うが。
こんな感じで好きだとスッと言うなら、最初のモジモジする感じも一切なく、いきなり言ってしまった方が感動できたと思う。
一言目よりもむしろ、二言目の、好きっとさらっと言う方が鉄平らしくて自然で良い。
その後の、ずっと一緒にいる、などという説明の感じも悪くない。
告白した後に鉄平が、本当?本当?良かったーという感じは軽くてちょっと嘘くさいが、この軽さは鉄平の良さなんだろう。
軽い若者の良さというか。
告白が終わり、朝子に種を渡され、鉄平が、どういう意味ー?とイタズラ気にゆっくり聞く感じは、鉄平の無邪気な良さが出ている言い方で良い。
告白する時にも、こういう良さを出しつつ言えないものなのか?
なので、この告白のシーンは、鉄平がもう少しリアルであれば、より面白かったと思うが、朝子のナチュラルな反応のおかげもあり、良いシーンになっている。
ちなみに、水漏れの後始末をして帰ろうとした朝子に、鉄平は何かを言おうとしたがそれが出来ずに、ははっと軽く笑う感じは少しあざとかった。
その後頭をかきむしる感じは、やり切れない気持ちが出ていて良かったので、かきむしるだけの方が良かった。
炭鉱長と話す一平が深くて良い
一平が正月に賢将の父、炭鉱長の家を訪ね、二人で語り合う感じは、一平のしゃべり方に深みがあって良かった。
一平は、最初は反発したことや新しい重機を入れてくれて感謝していることなど、気持ちを素直に語り、俺たちはバカだ、ふうけもんだ、と自分達と炭鉱長も同じ人間なんだ、と相手を怒らせないしゃべり方で伝える感じが、とても味があって良い。
賢将がお世話になりました、と炭鉱長から言われ、一平が、世話なんかしてない、鉄平と一緒にゴロゴロさせてただけだ、と言って笑う感じなど粋だ。
賢将はこの島で育てられなければ、あんなに良い子に育たなかった、私はふうけ者です、と炭鉱長が言うと、一平は、でもあんたの息子は生きてる、良いじゃねえか、と笑いかける言い方が深くて良い。
自分の子供を3人も亡くしている一平が言うからこそ、生きてればいくらでもやり直せる、と言わんばかりの、このセリフには深みがある。
息子と関係がうまくいかなくても、生きてるんだから、という究極の慰めである。
荒い言い方ではなく、静かだが強く、相手を包み込みながらしゃべれる、この一平のような人が上司にいたら頼りになるし、大分働きやすくなると思う。
前の炭鉱長は優しくて従業員思いだったから、一平は特に炭鉱長に言う事などもなく、酒ばかり飲んで遊んでいたのかもしれない。
でも炭鉱長が変わって、問題が起きると、賢将に気を使ったり、炭鉱長と話をしたりと、それなりに解決に動く感じは格好良い。
普段は適当だけど、いざとなると頼りになるギャップが良い。
というか、それがなければ、ただのお局的な飲んだくれなので、一平もそれは分かってるのかもしれない。
今後の具体的な炭鉱夫との接し方や炭鉱長への要望などを話し合った訳では無いが(描かれてないだけであったのかもしれない)、この一平の行動は、炭鉱夫の代表として、炭鉱長とうまくやっていきたい、という気持ちは十分に伝わっていると思う。
一平に、丸餅食え、うまいだろ?と言われ、炭鉱長は口に餅を入れ、はい、と言って微笑んだが、作り笑顔の様で、これは一平の言葉に涙が込み上げて来ていたのかもしれない。
炭鉱長が本当に反省したか不明
しかし、炭鉱長がなぜ、自分はふうけ者だ、バカだ、と認められたのか、それは何に対してなのか、ハッキリしない。
炭鉱長は、セクハラされたリナに全く同情しないどころか、むしろ肯定していた。
賢将が鉄平と連携して点数性を導入した時も、賢将が鉱夫とケンカした時も、散々、馴れ合うな、甘えるな、と突き放し、鉱夫達にも厳しい態度をとってきた。
一人息子の賢将に、あんたみたいになりたくない、と強く言われたことで、自問自答して答えを出したのか?
賢将は馴れ合っているわけでも甘えているわけでもなく、優しいだけで、自分の鉱夫達や賢将に対する態度は、筋のある厳しさではなく、ただのパワハラだったと気付いたのか?
そこは、厳しくする理由が炭鉱長なりにあったからやっていた訳じゃなかったのか?
理由があったけど、全然伝わっていない、言葉足らずで誤解されても当然だ、伝える努力をしなかった俺が悪い、と気付いたのか?
自分はふうけ者です、と自分の愚かさを認めたのは、賢将との関係性においてだけ言っているのであれば、本当に改心した、とは言えずに浅く、リナに対してどう思っているのかも分からない。
賢将は息子だから、嫌われるのは嫌だとしても、リナにあんな冷酷な態度をとった人間が、その自分の酷さに本当に気づけるかは疑問だ。
なので、何に対して反省してるのか、一平が炭鉱長にちゃんと聞いて欲しかった。
謝ることが一個だけでない謝罪会見で、自分が愚かでした、すみません、とだけ言われても、見ているこっちはモヤモヤが残るのと同じだろう。
賢将に言われて落ち込み、自問自答したなら、それも炭鉱長の口からちゃんと一平に説明すべきだった。
賢将に言われて気づいた、良かれと思ってやっていたが、誤解されていた、もっと意図を説明しながら炭鉱夫と接するべきだった、などと、簡単でも良いから言って欲しかった。
でもそれを聞いたら、じゃあリナの件は何?あれも誤解?などと疑問が湧くので、それも説明する必要がある。
というか、その一連の説明は、本当は一平に訪ねて来られる前に、賢将とぶつかり合って、吐き出しておくべきだった。
俺は冷徹じゃない、理由がある、とリナの件や鉱夫達への態度の説明を激しく質疑応答し、それでも賢将に、あんたみたいになりたくない、と突き放され、今に至るなら良かったんじゃないか?
そういう細かさもなく、自分はバカでした、というのはあまりにザックリした反省だし、本当に分かってるのか?ともなってしまうので、せっかく一平の感じが味があるのに、もったいないシーンだった。
なので、炭鉱長が鉄平達に協力する感じや、島民の園芸作業現場を恐る恐る見に来る感じは、人格が徐々に変わり始めた、変わろうとしている感じの演技自体は悪くないが、急な感じもする。
今まで主人公たちに対立していた人物が味方になってくれる、という展開は面白くなり得るのに、物足りなさを感じた。
クライマックス手前の大事な話だった
いづみの正体がついに判明してから、現代とリンクしながら物語が展開していく感じは悪くない。
今まではつながっているようでつながっていない感じだったので、現代のドラマは以前より退屈ではなかった。
玲央が鉄平の種を庭に植え、出た芽をいづみが愛おしげに触るシーンも、時を超えたロマンチックさがあり、悪くない。
ちなみに、いづみと玲央が園芸の新しい技術を見に行った時、屋上でいづみ達を案内した女性が、すぐ次のシーンで、いづみに驚いた様子で、ご無沙汰してます、と挨拶をしていたので、これは時系列を逆にしてしまった編集ミスだと思う。
本当は挨拶をして、色々室内で見学してから屋上に行ったのかもしれない。
だからなんだ、ということで、特に物語に影響する訳じゃないが。
DVDにする時とかは直すのかな?
なにはともあれ、今回の話は、端島のポジティブなエネルギーが感じられ、所々感動させられる回ではあった。
音楽と映像も今回は大分マッチしていて、役者の演技を盛り立てていたと思う。
しかし、上述した通り、役者の演技はおおむね良くても、ドラマに詰めの甘さがあり、幸せが訪れる前や今話前に描いて欲しい描写が多かった。
このドラマは、端島の主要人物の人生のみならず、現代の描写もあるので、描くことか多すぎて、撮影時間も放送時間も根本的に足りてないのかもしれない。
それなら、どこかの時間をはしょってでも、それぞれの話を深くしていって欲しい。
今後、いづみが言っていた様に、事故か何かで鉄平が行方不明になるのが描かれるのか?
ここまでの話は、このドラマのクライマックスに向けた大事な前提の描写で、これから悲劇が起きるとしたら、それが跳ね上がるか否かが決まリ得る。
そういう意味では、ここまでにもっと力を注ぎ、もっと面白くリアルに出来たはずだと思う。
そうであれば、のちの悲劇がよりドラマチックに感じられる。
その悲劇自体にもまた、物足りなさがあるならしょうがないが。
描かれなかったことはもう取り戻せないけど、このドラマのポジティブさは悪くない。
なので、今後の新しいドラマには、もっと深く掘り下げたドラマを期待したい。
「第7話-消えない火」が“物足りない☆2”理由と考察、その感想
炭鉱火災でてんやわんやの端島
今回は、前半では進平やリナの夫婦の幸せな様子、鉄平と朝子が隠れて交際する微笑ましい様子などが描かれ、後半では、炭鉱火災で鉱夫達やその家族、炭鉱関係者達がてんやわんやになる様子が描かれた。
前半部の人間ドラマは良かったものの、後半の炭鉱が閉山か否かにつながるドラマは大分物足りなかった。
炭鉱長の閉山の判断も早いし、それに対する炭鉱夫たちも大して反対せずに受け入れる感じが不自然だった。
微笑ましい赤ちゃんの誕生祝いや食堂での会話
進平とリナの子供の1歳の誕生祝で、お寺で荒木家が赤ちゃんとお祝いをするシーンは、微笑ましくて良かった。
赤ちゃんが何をするか、いつ機嫌が悪くなるかも分からないので、どことなく緊張感がある感じが面白い。
それがゆえに、笑ったり、いきなり両手をかかげだしたりすると、緊張がほぐれ、自然と笑いが起きてしまう感じは紛れもなく作り物では無い。
赤ちゃんを歩かせ、戻って来たり、和尚のもとへ行ったりも、全てアドリブと思われる赤ちゃんの仕草は、もちろん自然だ。
作ることなどを知らない、ほぼ自然現象そのものなので、そのパワーに大人は巻き込まれてしまう。
強いて言えば、進平だけ少し固かったように感じるが。
一平の奥さんが、この年になってこんな幸せがあるなんて、と泣き出し、一平を見るが、一平は特に泣きもせず、そうだな、確かにな、などと静かに言う感じが味があって良い。
食堂の前で、リナと赤ちゃん、百合子と朝子が他愛もないことを言い合っている感じも、自然で微笑ましい。
こういうシーンは些細だが、端島がまだ生き生きしていた頃の、ポジティブな雰囲気に思いを馳せられる。
端島の実際がどうであったかは知らないが。
食堂の中で、百合子が鉄平に、プロポーズしないの?と圧をかけ、すぐ後ろにいた朝子が、聞いてた?と鉄平に言われ、完全に聞いてた感じなのに、何も聞いとらん、と言うのがナチュラルにコミカルで良い。
本当に聞いてなかったのかもしれないが、聞いちゃいけないことを聞いた感じの表情が実にリアルだ。
わざと聞こえよがしに言う百合子の意地悪さも光った。
鉄平が隠れていつも花を朝子に渡す感じは、微笑ましいが、イラッとする。
絶対に両親や他の客にもバレているが、本人達は「バレてないと思った」と言うであろう、無意識の匂わせ行為で、それも含めて、若くてかわいいな、とは思うが。
本当にバレたくないなら、そもそもやらなければいいが、バレたい気持ちもあるという、本人達も気づいていない幸せアピールなんじゃないかと思う。
百合子が、麻薬の闇取引してるの?とダイレクトに突っ込む感じも、百合子らしい味があって良い。
朝子が手ぶらで入り口に行って、毎回鉄平の時だけ花を持って帰ってくるので、親としては分からない訳が無い。
完全にちゃんと隠してもいないし。
親としては分かった上で何も言わず、微笑ましいやら心配やら、という感じなのかもしれないが。
この序盤の一連のシーンが良かったので、序盤は期待感を持って後半を迎えられる、と思ったが、全体を見たらそうではなかった。
端島の炭鉱の仕組みは興味深い
海の下で掘られている端島の炭鉱の仕組み自体や、火災が起きた時のリスクや対処法が語られること自体は興味深くて良い。
炭鉱は海の下なので、しみ出てくる海の水をポンプで24時間排出しているというのは面白い。
炭鉱内で火災があり、一酸化炭素が発生すると、中毒ですぐに意識を失い、そのまま死ぬ可能性があるのも怖い。
ドラマ内でも触れられていたが、昭和38年(1963年)に福岡県の有明海海底にある三井三池炭鉱では、空中に浮遊する炭の粉末が引火して爆発し、1400人の労働者の内、一酸化炭素中毒者が839人、一酸化炭素中毒による死者400人以上という、戦後最大で最悪と言われる炭鉱事故が起きている。
火災や爆発の火傷も怖いが、一酸化炭素による被害の方がはるかに多くの人の命を奪ってしまう。
端島の事件とは少し違うが、一酸化炭素による危険にさらされていたのは同じことだろう。
炭の粉末は、常に炭鉱内に浮遊していて、それに引火する可能性は常にあるらしく、火災があればなおのこと、通常時も命がけの仕事であることがよく分かる。
そりゃ給料が良くなかったらやってられないだろう。
そんな炭鉱の危険性や、三井三池炭鉱の件もあり、一平は、いつでも覚悟は出来てる、と言っていたのかもしれないし、炭鉱長は早々に閉山を決めたのかもしれない。
そして、通常の消化でダメなら、密閉して壁を作り、酸素をなくして消化する、というのも興味深い。
このドラマがなければ知り得なかったことなので、そういう意味では良い。
素人考えだが、通常の消化で無理なら、排水ポンプを止めて、その火事の区画を水没させてしまえば良いんじゃないか?
一回水没させたら、復帰までにどれほどかかるのかなどは知らないが、命がけで壁を作っていくよりも、はるかに安全に簡単に出来る気がするが、ダメなのか?
進平は怒らない方が良い
炭鉱内で火災が起き、怒号が飛び交いてんやわんやになっている感じは悪くないが、進平が怒る感じはやはり良いスパイスにはなり得ていないので、もっと優しい、怒らない人間を演じた方が良いと思う。
有資格者しか炭鉱内に入れない、と上からお達しが来て、俺たちも入れろ、と資格のない炭鉱夫達と鉄平が入り口で押し問答になったが、進平が、お前らも資格取れば良いだろう、と言い放つのはなんとも冷たい。
今からすぐに取れるはずないし、良かれと思って手伝おうとしている連中を逆撫でしてるだけで、よく言われた方が怒らないなと思う。
全くいらない仲裁で、進平は、お前らには外でやって欲しいことがあるけん、力のあるお前らにしか出来ん、やってくれるか?などと、包みこんでケンカせずに人を動かしてしまう方が似合っているし、格好良い。
何かケンカみたいになると、似合ってもないのに強いことを無理して言っている感じが浅く、邪魔だな、と思う。
進平は、このシーンに限らず、過去に闇を抱えているがいつもニコニコしているやさ男、の方がよほど魅力的なのに、このドラマにおける進平の演じ方は、良さがあまり発揮されずにもったいない。
気性は荒いが、いざとなると頼りになる一平の息子としては、その懐の深さがもっと欲しい。
火災が起きた炭鉱内では頑張っていて、こういうシーン自体は悪くない。
炭鉱夫達に指示を出しているのは、特に普通だが、普通を積み重ねて深くも出来るので、変に格好つける感じなど無くて良い。
いつも怒らない、どんなアクシデントが起きても怒らず騒がず、冷静に対処し続ける人間は、間違いなく深いだろう。
普通怒るだろう場所で怒ることが、必ずしも深いとは限らない。
そんな進平だったら魅力的なのにな、などと思ってしまった。
一方鉄平が、声を張り上げて、水です、水!などと懸命に鉱夫達を助けようとする感じは、必死さが伝わってくる演技で悪くない。
閉山に至るのが急すぎる
今回の炭鉱のドラマで一番気になったのは、閉山が急すぎるということだ。
上記で述べた通り、三井三池炭鉱の二の舞で、何百人も死者を出すなど、炭鉱長としては絶対に避けなければいけなく、安全を考慮するのは分かるが、たった3日対処しただけで決めるのはあまりに判断が早い。
そして一平を始め、炭鉱夫達も比較的素直に受け入れるのが非常に不自然だ。
これが1ヶ月ほど続き、次々に中毒者が出て、火事も徐々に広がっていき、端島全体にまで火事の煙が出てきて洗濯物も干せなくなり、島民の健康的にも害がある、とかならまだ分かる。
火を消そうする炭鉱夫達の目が狂気じみてきて、次々に死んでいくのもいとわず、突っ込んでいく狂気の沙汰が起こり、炭鉱長が耐えかねて、とかでもない。
進平が言っていた通り、爆発が起こっても、また壁を作れば良い。
酸素ボンベがあるなら、それで一酸化炭素を吸わないようにしてやるしかない。
というか、なんとしても消さなければ、ここでの島民の生活は全てまた一からになる訳で、特に一平を始め、この島で人生の大半を過ごしている炭鉱夫達が簡単に引き下がるとは全く思えない。
引き下がるには引き下がるだけの理由がなければいけないが、10人が爆発で打撲と重傷度2度のやけどを負った、他何人かが一酸化炭素で意識を失いかけた、だけでは大分弱い。
もちろん被害としては軽くはないが、そんなことを言っている場合ではない。
仮に、一番後から出ようとしていた進平が死んだ、もしくは助けに行った鉄平が死んだとしても、島民がここでの生活を捨てることをすぐに決断するとは考えづらい。
それで決断するとしても、反発する人もいるのが普通だから、すったもんだの議論が連日あり、その結果として閉山を決めたならまだしも、そんな描写もない。
そこでもまた熱いドラマが生まれたはずだ。
なので、閉山を決めた炭鉱長が、これ以上危険にさらせない、と一平に怒鳴ったが、一平がそれで引き下がったのは大分物足りないし、一平が騒ぐ鉱夫達を静かにさせたとしても、その後特に騒がず、受け入れる他の炭鉱夫達も不自然極まりない。
もっと長期にわたり、炭鉱夫も炭鉱長も、それを支える島民も満身創痍になって仕方なく、とかでなければ。
炭鉱長は安全のためと言うが、島民の生活はどうなるんだ?
端島を捨てても、他の炭鉱で同じ様な生活を全島民に保証することを前提で閉山を決めたのか?
そんなことは何も決まっていないし、話し合いも行われていない。
現実であれば、そこへの怒号が飛び交い続けてしかるべきで、それがないのは全くリアルからかけ離れている。
あったとしても風味程度がチョロっとあっただけだ。
なので炭鉱長と一平の怒鳴り合いは迫力こそあれ、中身がない。
それなのに、炭鉱長は涙ぐみながら閉山をアナウンスし、それを聞いている一平も涙ぐんで受け入れている感じがなんとも白けてしまう。
一平は火災に対するノウハウはゼロなのか?
一平が危険な案を提案して、それでもダメで、などやれるだけやった感もない。
炭鉱長は、ほぼ一方的に閉山を早々に決めた上に(一平がなぜか押し切られた)、アナウンスで、本当の財産は島民の皆さんです、全ての人に敬意を評します、皆さんが生きていればこの島の灯火は消えない、などと、格好つけた名言の様なことを言っていて、こいつは何を言ってるんだと思った。
自分が島民なら、そんな言葉は良いから、これからどうなるか言ってくれ、というか、たった3日で撤退するのか?何してんだ、ふざけんな、もっと粘れ、などと思うだろう。
そして、そのアナウンスを聞いた鉄平が、排水ポンプの作業員に、涙ぐみながらポツリポツリと閉山を伝える演技はあざとい。
泣こうとしているというか、閉山を聞いてショックを受けた人に、頑張ってなろうとしているうわべの演技だ。
この状況でアナウンスを聞いての素直な感想としては、なんで?どういうこと?ちょっと待ってくれ、というのが自然なはずなのに、受け入れてショックを受けること自体に無理がある。
まだやれる、早くないか?端島を出なければいけないのか?せっかく良くなってきたのに、と様々な思いが交錯し、この短時間で受け入れるのは不可能だ。
もし受け入れられたとしたら、もうずっと前から辞めたかった、端島を出たいと思っていた、だからちょうどいい、以外にない。
だけど鉄平はそんな人ではない。
無理があることを演じるのが役者で、思えないことを思うのが役者だと言われても、自然な気持ちの流れに沿っていなければ、唐突な一発芸みたいなもので浮いてしまうので、そこに感動などない。
そういう脚本で監督の指示であれば、ある程度しょうがないかもしれないが、演じることの妨げになるのであれば、頑張って主張して欲しい。
なので、排水ポンプを止めると同時にエンディングテーマが流れるのは絶妙なタイミングなのに、なんだかなぁという感じだった。
「第8話-ダイヤモンド」が“物足りない☆2”理由と考察、その感想
閉山から一転復活した端島や、玲央の成長はポジティブで良かった
閉山が決まって多くの島民が島を出て行く様子や、進平が命を落とし、一平も息絶え絶えの感じなどに淋しさを感じたが、残った炭鉱夫たちが新たな炭を見つけたシーンはポジティブな感動があり、現代では悪徳ホストを告発し、自分も逮捕してくれと訴え、殻を破ろうとしている玲央にも好感が持てた。
端島の復活に玲央が影響を受けたり、いづみのお家騒動も息子の助けもあって良い方向に向かい、いづみの結婚相手も判明して、賢将と百合子の息子らしき人と玲央が接触するなど、現代のドラマは端島と大きくリンクし始め、物語がついに佳境にさしかかった。
鉄平が朝子の前から姿を消した理由や、今は何をしているのか、賢将達のその後など、次回への期待感があおられる話ではあったが、物足りなく、もっと面白くなったんじゃないかと思う。
なぜ物足りかったのか、考えていきたい。
進平の死に際を描くべきだった
冒頭から、前回の騒動はもう落ち着いている感じで、端島の島民たちが島を離れていく描写から始まり、進平はどうなったんだ、と思っていたが、一酸化炭素中毒で死んだ、とさらっと触れられているのが拍子抜けだった。
あそこまでアクション的にもあおっておいて、実は死んでました、という説明だけなのはあまりにも寂しい。
前回の続きを期待していたのに、こういうハシゴ外しは萎えるだけで、マイナスにしかならないと思う。
主人公が窮地に立たされ、必殺技を繰り出した場面で話が終わり、次回の話ではその場面は描かれないアクション漫画の様なものだ。
あえて描かない、というやり方もあるかもしれないが、この話しに関しては、単に重要な描写を省いただけで、描くことから逃げたんだと思う。
進平が帰ってきていない、気付いたのは鉄平だけ、どうする鉄平!?という良い終わり方だったのに。
気付いた鉄平が助けに行こうとし、それを見た鉱夫達に止められてケンカになる、とか、鉄平が酸素ボンベをつけて助けに行き、自分はマスクを取って息を止めて進平に酸素を吸わせるが、それでもダメで、とか、いくらでもドラマチック要素を盛り込めたのに。
むしろ、そこをちゃんと描いた方が確実に視聴率も取れるだろうに、あおるだけあおって、その後どう描いたら良いか分からない、もしくはこれで十分だろう、ということか?
登場人物のリタイアの仕方としても、この進平の消え方は、かなり不憫に感じる。
せめて、進平は意識を失って病院に運ばれたが、一瞬目を覚まし、リナと子供に声をかけ、鉄平に後を託して死ぬとか、ベタかもしれないが、それくらいの描写はあっても良かったんじゃないかと思う。
リナは恋人を全て亡くしているので、自分も死んでしまうことに対して、進平が申し訳なさを吐露するとか、名台詞も生まれたんじゃないか?
婚姻届も出生届も出してない、秘密を抱える自分と子供を守るべき進平が死んだら、残された私達はどうなるの?いや、そんなことどうでもいいから生きてほしい、などとリナが思いをぶつけても、良いシーンになっただろう。
そもそもバッサリ描かない、というのは、進平とリナのドラマの終焉としても、あまりに素っ気なく、冷たい描き方にも感じる。
制作時間が足りないのか、予算がカツカツなのか、そもそもこれがベストだと勘違いしているのか分からないが、この省き方は、なんだかなぁ、という感じだった。
今後の展開で、進平の急死は、鉄平がリナと姿を消した要因にもなり得るので、進平は死ななければいけなかったのかもしれないが、もう少し華を持たせてやっても良かったんじゃないかと思う。
説明不足な回、一平の急な衰え、急な新たな炭の採掘
前話ではまだ元気だった一平も、この4ヶ月で肺炎で調子が大分悪くなっていて、炭が再び採掘された半年後には、もうほとんど虫の息になっていた。
奥さんも白髪が増えたせいか、老けて元気もなく、見ていて寂しさがある。
そして、炭鉱長はまだ炭が出てないのに東京に戻ることが決まったらしく、姿も現さなかった。
進平の死も含めて、この回は、前回の閉山の話からガラッと変わり、大分時間の針を進めすぎたんじゃないかと思う。
物語に展開があるのは当たり前だが、巻いて終わらせようとしている感じもする。
この回の前にもう一話はさんで、進平の死や、一平の変化、島民たちの葛藤、新しい炭を採掘する事を提案する前向きな鉄平など、色々描いた方が自然な流れで良かったんじゃないか?
そして、閉山した様に見せかけて、実は閉山してなかった、というのも非常に分かりづらい。
前回の火災で深部区域を水没放棄し、炭鉱長は、今までありがとうございました、端島は終わりました、みたいなことをアナウンスして、鉱夫達や島民、一平や鉄平も涙ぐんでいたが、実はまだ炭が採れる可能性があった、というのは何なんだ?
その可能性はいつ分かったんだ?
その時点ではもう閉山だと思っていたけど、調べたらまだ行けるかも、と後になってから分かったのか?
鷹羽鉱業の本社は、その可能性を知っていたから火災を楽観視していたのか?
もし最初から炭鉱長がそれを知っていたとしたら、あんな感じでアナウンスする理由がよく分からない。
知っていたけど、きっと新しい炭は出ないだろう、ほぼ閉山だと思って、島民に感謝を告げたのか?
新しい炭が出るまでにはきっと時間がかかるから、それまでは皆さんを養えない、という意味だったのか?
それならそう言わないとミスリードにもほどがある。
島民に対しても、視聴者に対しても。
メインの炭鉱は閉めます、新しい炭を探します、いつちゃんと稼働するかは分かりません、この島以外の仕事は斡旋します、島に残るか出るかはもちろん自分で選択してください、と言わなければ。
格好つけた、名言めいたことを言っている場合ではない。
犠牲者をこれ以上出したくないから、やむを得ずに閉山にする、というドラマだったはずなのに、新しい炭が出る可能性があるなら、話しが微妙に変わって来ている。
炭鉱を掘っている会社なら、さすがに、この炭鉱には炭の鉱脈がどれくらいあって、今掘っているのはこれで、その近くのまだ掘ってないのはあれで、などという情報を知っているはずだから、炭鉱長が全く何も知らなかった、というのは不自然に感じる。
じゃあ、やはりあのアナウンスはただの説明不足、もしくは炭鉱長が閉山と思い込んで先走っただけなのか、ともなってしまう。
あんまり深く考えずに、その時は閉山と思ったけど後から鉱脈が見つかった、と解釈すれば良いのか?
それならそれで、閉山と思っていたが、新たに炭が出るかもしれない、復活出来るんじゃないか?という、鉱夫達や島民の驚きのような描写を入れて欲しかった。
それもなくしれっと普通に、新たな炭の採掘を試みている、と言われても、こっちの知らないところで勝手に話しが進んでいる感じがして、自然と興味が薄れてしまう。
最初からずっとその可能性はあった、と言われても説明不足だ。
前回の話で、もう閉山になった、端島は終わった、と思わせたかったから、そういう情報はあえて出さなかったとしても、スッと分かるものではないので、モヤモヤしてしまう。
結局、半年経って新しい炭は出てきたが、そこに炭鉱長の姿はなく、4月に東京に戻った、というのは、ずいぶん薄情だな、とも思う。
賢将に突き放され、一平に説教され、改心して鉄平達を助け、島民や鉱夫達にも歩み寄り、炭鉱を閉める時には感動的なスピーチもしたはずなのに、炭が再び出るまで見届けない、というのは、本当に前の炭鉱長が言っていた通り、彼はこの島が好きじゃないんだろう。
最後の最後まで、見届けるのが炭鉱長で、例え炭が出なくても、島を全てたたむまで、監督する責任があるんじゃないのか?
仮に本社に帰ってこい、と言われても、改心したなら、端島を見届けさせてください、と反対すべきだったんじゃないのか?
でもそうではないので、あのスピーチもうわべだったと思ってしまう。
というか、炭鉱長がいないなら、今は炭鉱長は空席ということか?
炭が出ないから?
まだ鉱夫達は頑張っているのに、無責任な会社だ。
現代〜成長した玲央、なぜか協力してくれるいづみの息子
現代では、端島の鉄平のノートを読み込んでいる玲央が、鉄平に影響を受け、ミカエルに貢ぐために風俗で働くキャバクラ嬢を助けるため、ホスト達の悪行を警察に告発した。
警察に成り行きを説明し、俺も逮捕して下さい、と言う玲央を心配そうに見るキャバクラ嬢に、玲央が楽しそうに笑う感じが味があって良い。
誰かを守るため、という格好つける感じではなく、自分が自分らしくいるための、楽しさも伴ったウィンウィンの振る舞いなので、自然でとても爽やかで良い。
玲央は笑っているけど、こっちは少し涙腺が刺激される、格好良いシーンだと思う。
玲央は特に深い人物像ではないけど、この成長ぶりも含めて、可愛げがあって良い。
いづみの社長業継承のお家騒動は、土壇場になって息子が協力してくれて、何とか会社を奪われずに済んだ。
この息子は、今まで玲央といづみの関係を不思議に見ていて、呆れている感じで特に協力的ではなかったけど、悪い人間ではなかったたんだろう。
玲央となんだかんだ会話も増えてきて、影響されたせいもあるのかもしれない。
今まで立場的に敵だった人間が、味方になって物語がポジティブな方向に進んでいく様子は、爽快さがあって良い。
しかし、なぜ息子がいづみ側に協力する気になったのか、という理由が今ひとつよく分からないので、そこまでの跳ね上がりはない。
沢田と玲央に問い詰められたから、玲央に日頃端島の鉄平と朝子の話しを聞かされているから、姉さんの言いなりになっていただけだから、だとしても、ハッキリと描かれておらず物足りない。
玲央が話す鉄平の話しがついつい気になってしまい、自分もノートを読み、母親の若い頃の話や園芸に携わった経緯などを知って感動し、玲央とも議論して、母親に対する見方が変わった、などという、描写があれば良かった。
今のところ、何となく味方になってくれた、というだけだ。
この息子に限らず、比較的序盤から協力してくれている孫たちもしかり、玲央の人柄と鉄平の濃い日記の影響で、徐々にいづみ側の仲間が増えていく、という描写がはっきり描かれていれば、大分面白かったと思う。
孫達二人は、玲央と年齢が近いから、玲央のとっつきやすさもあり、一緒にいるだけで仲良くなり得る要素はあるのは分かるが、この孫二人がどんな人間で、なぜ玲央に心を開いているのか、という描写が足りず、物足りない。
なので、どんどん味方が増えていく展開自体は悪くないのに、中身は少し薄いので、もったいない。
炭が出たのは嬉しいが、主要人物はあまり絡んでいない
炭が取れなくなってから半年、端島ではついに炭が出て、鉱夫達は歓声を上げ、鉄平は黒板を消し、喜びを爆発させた。
鉄平の喜び方は自然でさわやかで、こっちも嬉しくなり、涙腺を刺激された。
しかし、現代で玲央が自らのリスクを冒してまで、同僚ホスト達を告発したのに対し、炭が出たことに対して、特に主要人物たちは直接関わっていないので、感動も今ひとつではある。
鉄平が新しい炭の採掘を提案した訳でもないし、炭が取れないなら、と島を離れる島民達を、鉄平が、きっと炭は出ますから、もう少し待って下さい、と説得して何とかつなぎ止めて、いよいよ島民達の我慢も限界に達した時に、やっと炭が出た、という訳でもない。
一平は病院から見守っていたが、鉄平は外勤で鉱夫達を積極的に支援した感じもないし、進平は死に、炭鉱長も不在のままだ。
主要人物たちとは関係ない人達(もしかしたら鷹羽鉱業の上層部)の意志で採掘を試み、炭が再び出て、端島復活!と言われても、鷹羽鉱業とその鉱夫達が偉いので、ガツンとはあまり来ない。
そして、上述した通り、この新しい場所から炭が出る可能性がある、という事実は急にこの回でしれっと出てきたので、島民たちはいつ知ったのか、そもそも知っているのか?などが不明でモヤモヤしてしまい、スッと入ってこない。
理想は、前回の時点で、炭が出る他の鉱脈を掘ってはみるが、仕事の補償は出来ない、島に残るも離れるのも自己判断で、と島民達に伝えて、落胆する島民達に、鉄平が炭は絶対出ます、と豪語して励まし、鉱夫達をサポートし、ついに新しい炭が出た、ということだろう。
鉄平は、鉄平を信じて島に残った人達に感謝され、島民や鉱夫達と抱き合って喜び合う、とかであれば、鉄平らしいポジティブな展開で、涙腺もかなり揺さぶられたかもしれない。
そのためには、鉄平に対して心無いことを言う人達もたくさんいて、ケンカになったり、落ち込んだりして、それを今度は賢将が慰めたりなど、ハードなドラマがなければいけない。
ハードな分、炭が出た時には跳ね上がり、見ている人達の涙腺は崩壊するだろう。
鉄平は、炭が出てこないことにいらだち、お酒を飲んでいる人達に、飲みすぎないように、と助言をしたり、いらだつ鉱夫達が朝子の食堂でケンカになったりもしていたけど、鬱屈した端島の雰囲気が、これくらいではかなりゆるい。
もっと荒れに荒れて、鉄平が抑えて、時には鉄平も殴られて、それでも議論して、などという、描写もなければ。
鉄平が酒を飲んでいる人に声をかけるのは、いつものことだろう。
しかし、そうではなく、鉱夫達が何とか時間をかけて頑張りました、炭が出ました、という感じで中間のドラマがかなり少ないので、感動は薄い。
鉄平は朝子とデートをし、賢将は百合子と仲睦まじいやり取りをしていただけだ。
それはそれで素敵だが、炭が出ることには特に貢献していない。
進平も生きていて、中毒になった体を動かして採掘を手伝っても良いし、一平は病床からそこを掘れ、そこの掘り方はこうだ、などと長老の知恵を貸してサポートして関わることだって出来た。
そういう主要人物達のチーム感があり、やっと炭が出た、というドラマだったら面白かったのに、もったいない。
「第9話(最終話前編)-あの夜」が“物足りない☆2”理由と考察、その感想
鉄平の失踪の日が描かれる
この話では、ついに鉄平が朝子の前から姿を消した日のことが描かれ、いづみの執事の沢田は、実は進平とリナの息子であることが判明し、いづみの秘密を知ったいづみの家族は、一時の団らんを取り戻すことができた。
鉄平がリナと誠を守るために、自分が殺人の罪を被ったのは格好良いし、朝子は鉄平を諦め虎次郎と結婚する経緯も切なく、ドラマチックなストーリーで悪くない。
しかし、普通であり、ガツンとくる感じは今ひとつなく、物足りなかった。
なぜ物足りないのか考えていきたい。
格好良い鉄平、少しグズグズなアクション
鉄平はヤクザに狙われたリナと誠を守るために、自分がヤクザを殺したことにして島を逃げたのは格好良い。
進平はつくづく何をしてくれたんだ、と思う。
リナが、自分が出ていく、殺されても良い、と言ったとき、鉄平はリナを止め、死んだらどう誠はどうなる?進平兄ちゃんもいないんだぞ、と言う感じは、本当に怒っているように見えて良かった。
今まで鉄平を見てきて、初めて強く、ちゃんと怒っていて、怖さも感じる怒り方だった。
人の命を守るためという、ちゃんとした理由がある怒りなので良い。
この怒り方に比べたら、いかにいつも鉄平が怒っている感じが軽いのかがよく分かる。
軽いのは鉄平の味だし、ここまで怒る状況が普段はない、ということなんだろうが、こんなに怒れるなら、もう少し普段もリアルに怒って欲しい。
鉄平がヤクザと対峙した場面でも、誠の父親について会話する感じや、俺が殺した、悔しかったら来てみろ、という感じも、真剣さが伝わってくるしゃべり方で悪くない。
いつものふんわりした感じではない、リアルな真剣さがあって良い。
この役者は、ポジティブな演技以外は苦手なんだろう、と言っていたが、この回を見る限り、真剣な感じ、怒る感じは出来ている。
こういう真剣な感じが出来るなら、今までのネガティブ的な表現、泣く感じなども、もっとリアルに出来たんじやないかと思う。
今回のシチュエーションが、ちょうど気持ちが入る状況だったからなのかは分からないが。
鉄平は何とか誠を救い出し、逃げることに成功したが、アクション的にはちょっとグズグズだった。
鉄平はとっさにヤクザに砂をかけ、ヤクザがひるんだ隙に箱を開けて誠を抱えたが、よく周りのヤクザたちは待ってくれたなと思う。
ヤクザ達が驚くほどの意表を突く行動も鉄平は特にしていない。
鉄平が砂をかける時、わざと弱々しいふりをして、ヤクザに命乞いをし、演技で引きつけて、その隙に砂をかけるくらいの巧みさがあったら格好良かった。
しかし、意表をつかなくてもなぜか砂はめちゃくちゃ効果的で、軽く押されて倒されたヤクザもすぐには立てず、鉄平が箱を開けて誠を抱えるのをみんなで待ってくれていた。
その後もヤクザの追及はゆっくりで、なんとなくハシゴを登れてしまったので、よくやった、という爽快感は特になかった。
ヤクザ達はなぜか拳銃でも全く撃たずに見守ってくれていた。
ちなみに、鉄平がヤクザと会話している時、ヤクザが誠が寝ている箱にキリをさし、抜いたキリから血がしたたり落ちる、というシーンがあったが、これは逆に不必要なんじゃないかと思う。
ここだけやたらリアルな残虐描写で、確かにリアルだが、箱にキリを刺して誠が泣き出すので十分だろう。
血を描かないと役者が入り込めない訳じゃないだろうし、ここをリアルにするくらいなら、他のアクションシーンをもっとリアルにして欲しかった。
いつの間にか亡くなっていた一平
進平と同様、一平もまた気付いたら亡くなっていた。
これも進平のあっけない退場劇と同様、物足りなさは感じる。
でも、もう何も言うまい。
前回病床で涙を流していた時は、もうなくなる寸前だったのかもしれない。
寂しすぎるいなくなり方だ。
切ない朝子の待ちぼうけ、早い区切り
鉄平が失踪し、約束をすっぽかされた朝子が、鉄平の来るのを楽しげに待っている様子がなんとも切なく、涙腺が刺激される。
その後、鉄平はリナと舟で逃げたという目撃情報も耳に入り、朝子は鉄平を諦めようとはするが、虎次郎が買ってきたカステラで鉄平を思い出したり、鉄平との思い出が頭を駆け巡ってへたり込んでしまう感じは、こっちもいたたまれなくなる。
鉄平に約束をすっぽかされた経緯を鉄平の母に語り、母が真剣な面持ちで話を聞き、最後には、ごめんね、と朝子を労るシーンも切ない。
ちなみに、この母親の、進平や一平に続き、鉄平までもいなくなった状況に引いている感じや、まるで自分が責められているかのような真剣な顔が、非常にリアルで良い。
まだ一平が健在だった、今より少し若かった時よりも、今の少し老けた感じの方が、寂しさはあるが、より味があって深くて良い。
進平の殺人を告白したリナを責める感じも、この母親らしい、自然な怒り方だ。
そして、朝子は、フラッシュバックする鉄平との思い出と向き合い、鉄平の母親から謝られ、鉄平からもらった瓶も捨て、帰ってこない鉄平に区切りをつけたが、ちょっと早い気がしてしまった。
幼い頃から鉄平が好きで、親から勧められる結婚話も断り続け、言ってみれば他の人は考えられない運命の人だった訳で、もう少し諦めるための何かしらの行動をして欲しかった。
例えば、朝子が連日鉄平を長崎に探し行き、独自に聞き込みをして、奇跡的に居場所を見つけることが出来て、リナの息子の誠を楽しそうにあやしていている鉄平と、横で笑っているリナを目撃した、などという、シーンがあっても良かったんじゃないか?
ヤクザが見つけられない鉄平の居場所をなぜ見つけられたのか、というのは、朝子の執念、ということで。
そこで鉄平と話をしようとして、鉄平と押し問答になり、帰れ、もう好きじゃないんだと、冷たくあしらわれ、傷付いた朝子を虎次郎がいつも気づかい、寄り添った、などの描写があって欲しかった。
あの鉄平が約束をすっぽかしていなくなるなんて、きっと何かあったんだ、と、自分の目で確認しようとする行動をして欲しかった。
仮に鉄平は見つからなくても、区切りをつけるための行動を起こすことは出来たはずだが、特に何もしていない。
そして、区切りをつけたからと言って、虎次郎との結婚も早い。
虎次郎には、鉄平は別にして、今までの結婚相手候補とは違う、これならしょうがない、と思わせられる人間味を感じさせて欲しかった。
そうでなければ、誰でも良かった、とまでは言わないが、朝子は理想が鉄平だっただけで、結婚出来ることが優先なのか、と思ってしまう。
あれだけ両親の勧めに反対してきたのに。
なので、鉄平を諦めたから打算的に虎次郎を選んだ、のではなく、虎次郎は鉄平とは違うが、彼は彼で魅力的で良い人間であり、朝子の心を動かした、という描写が欲しかった。
カステラを朝子に買ってきたり、特に普通に長崎にデートに行ったくらいで、決め手になる要素は描かれていない。
虎次郎が傷付いた朝子にしつこく、誠実に寄り添い続けた、などのシーンがあったら、それはそれで感動出来たと思う。
そうであれば、沢田の話を聞いた後に、いづみの娘が、やっぱりお父さん格好良かった、というセリフにもつながるが、そうはなっていない。
結婚するまでに、どれくらいの時間が経っているのかは分からないが、朝子の諦めも、虎次郎との結婚も早い。
小説じゃないので、そこは色々あったから想像して欲しい、と言うならば、それはドラマとしては物足りない。
当時は、結婚しろ、結婚するのが当前だ、という周りからの圧が今より相当強かったことは、想像に難しくないが、当時だからしょうがない、とも思いたくない。
家族の団らんが嘘くさい
進平とリナの子供である、誠=沢田から鉄平の失踪した日の詳細を知ったいづみ家の家族は、いづみの息子が作るチャンポンをみんなで囲んで和気あいあいとしていたが、良さは感じれなかった。
いづみの息子はまだしも、娘とその旦那は、いづみを認知症に仕立て上げて会社を乗っ取ろうとした悪なわけで、本当に改心したようにも見えず、モヤモヤする。
ちゃんと謝って和解した訳でもなく、何をなかったことのように普通に参加してるんだ、と思う。
それを受け入れるいづみも甘い。
自分だったら、そもそも家には入れささない。
いづみが、沢田に、あなたのおかげでこの家族が手に入った、と沢田を慰める様に感謝するが、人様に誇るような家族じゃない。
こんな家族ならいない方がマシだ、とは言いすぎか?
特にいづみの娘は、ずっと薄い嫌な人間で、腹が立つ。
演じ方が棒読みっぽい、ちょっとあざとい感じも含めて、リアルといえばリアルで、本当にこんな嫌なおばさんはいる。
沢田の話を聞いて、アルバムを見ながら、やっぱり父さん格好良かった、と泣きながら言う感じもうさんくさい。
何が格好良かったんだろう?
その旦那もいつも無表情で嫁にくっついており、何を考えているのか分からず気持ち悪い。
みんな沢田の話を聞いて、アルバムをめくり、色んな意味でショックを受けたであろう、いづみを励ますためか、みんなでチャンポンを作って和気あいあいとしたが、それぞれどう思ったのかちゃんと描いて欲しかった。
出来れば、その話を受けて、みんなで議論して欲しかった。
いづみの娘は、鉄平を目の敵にしていたが、その話を聞いてもなおまだそう思っているのか、それとも間違っていたと気付いたのか。
その旦那やいづみの息子、孫達も、それぞれどう思ったのか、感動したのか、いづみに同情したのか、見直したのか否か、教えて欲しかった。
そこが一番面白いというか、過去の話が現代の人間にも影響を与えている印でもあるので、必要な描写だったと思う。
過去にそんな壮絶な体験をして、沢田の話を聞いて今なおショックを受けている人に、認知症のレッテルを貼って、会社を追い出そうとしていた自分たちはなんだ?母親をあまり理解していなかった、軽んじていた、とは思わないのか?
そんな冷徹な母や父に対して、孫達は本当はどう思っているのか?
みんなで母の話を聞いて、自分達の家族のあり方を見つめ直す良い機会になり、自分達の反省にもつながったなら面白かったが、そうではなく、何となく長崎、端島を思い出したからチャンポン食べよう、という感じに見えて、気持ち悪い。
いづみにチャンポンを振る舞ったことが、語らずとも行動で示した謝罪や感謝の思いだと言われても、大事な部分が抜けている。
いづみの娘と息子が、お父さんの結婚は棚からぼた餅、ぼた餅でも良い、などという会話だけでは全然足りない。
それで和気あいあいとされても、中身のない家族団らん、仮面家族に見えるので、何も良いと思わなかった。
「第10話(最終話後編)-記憶は眠る」が“物足りない☆2”理由と考察、その感想
鉄平の疾走劇、朝子と時間を超えた再会
この話では、鉄平の疾走劇の内幕が描かれ、現代ではいづみと玲央が鉄平を探しに軍艦島に向かい、最終的には、鉄平が寄贈した施設を見つけて、間接的にだが鉄平との再会を果たすことが出来た。
朝子、リナや誠、端島の人達を守るための鉄平の行動は格好良い反面、切ないこの上なく、端島をバックにした満開のコスモスを玲央といづみが見つめ、鉄平が軍艦島に置いてきた朝子へのギヤマンが写り終わるラストは、感動的で悪くない。
しかし、鉄平や鉄平を取り巻く人達の行動に物足りなさもあるので、全体としては今ひとつだった。
全て背負い込む鉄平、助けない賢将
鉄平はリナと誠を守るため、ひいては朝子や端島の人達を守るために、自分が進平の代わりにヤクザを殺したことにして、ヤクザを引きつける、というのは格好良い。
朝子に二度と会えないのも、連絡を取れないのも、全て朝子を守るためだった訳だ。
端島を出た後も、全国各地を転々としながら、働いては職を変え、を繰り返し、晩年近くまでヤクザから逃げ続けた、というのはすごい。
そして長崎に施設まで寄贈し、端島をバックに、朝子と鉄平にゆかりのあるコスモスをたくさん咲かせる、というのは、粋な演出だ。
しかし、そこまでする必要があるのか?と思ってしまった。
誠とリナを守るために一時的に罪を被ったのは分かるが、なぜこの未来ある青年が、自分の人生を犠牲にしてまで、一人で全て背負い込まなければいけないのか、と思う。
一見格好良い感じもするが、格好良くはなく、ただの悲劇である。
何も悪いことはしていないのに、逃げることを当たり前にしてしまう、というのは、ヤクザに負けた、とも言える。
生真面目な人間だから、自分がやるしかないと思ったのかもしれないが、生真面目=まとも、とは限らず、この鉄平の行動は狂気の沙汰とも言える。
こんなことやっちゃいけないし、周りもやらせちゃいけない。
これが自己満足で好きでやってる、朝子も実は好きじゃなかった、外勤を辞めて旅する口実を探してたなら分かるが、全くそうじゃない。
なので、もし自分が朝子だったらヤクザにも、黙っていた鉄平にも腹が立ち、むしろ一緒に闘いたい、とすら思う。
賢将も、格好つけるな、俺が何とかしてやる、くらい言って欲しかった。
賢将は久々に会った鉄平に怒り、掴みかかったが、そこから鉄平に対して何も行動を起こさないのは、賢将らしくない。
賢将が怒る理由が、連絡をよこさないだけでは浅く、話を聞いた上で、自分が全て背負い込む、と鉄平が決めつけている感じにも怒って欲しかった。
友達じゃないのか?と詰め寄って欲しかった。
鉄平が全国各地で集めてきた端島の人用の就職情報なんて床に叩きつけ、こんなことしてる場合じゃないだろ、なぜもっと早く相談してくれなかった、と言って欲しかった。
賢将が、少しでも良いから端島に帰ってこないか?島民は減った、と言い、鉄平から、でも朝子はいる、と強く言い返されて、賢将がつらそうに顔をしかめる感じはあざとかった。
というか、最初に鉄平に詰め寄った怒りの感じも少しあざとく、怒ろう怒ろうとしている感じに見える。
2回目に鉄平に会った別れ際で、賢将が踏切越しに手紙の送り先を伝え、テッケン団は解散しないからな、鉄平!と叫んで泣く感じもあざとい。
なぜなら、賢将がやっていることは言葉と裏腹で、鉄平を助ける気がないからだ。
そんな薄っぺらい行動に、役者はどうやって気持ちを込めれば良いんだろう?
それにも関わらず、これでも何とかうまく演じている方だと思うが。
賢将は、テッケン団は解散しない、と言っているくせに、鉄平に次はどこ行くんだ?いつまで続けるんだ?などと聞くだけか?
ずいぶん冷たい。
名前を叫びながら泣く感じとか、一応表面上は友達思いの感じを出している分たちが悪い。
どうにも出来ない、みたいな顔をしていたけど、何もしてないだけだろう。
なぜ鉄平の行動を止めようとしない?
ヤクザと闘う気ゼロの白旗宣言か?
鉄平が犠牲になってヤクザから俺たちを守ってくれているんだから、しょうがないってことか?
鷹羽鉱業は大きい会社なんだから、賢将の父のつてを辿れば、警察関係者の知り合いなど、必ずいるはずだろう。
その人に事情を説明して、協力してもらうことも出来なくはないんじゃないか?
事情を知っている者の中では賢将にしか出来ないことだろう。
もし、賢将が鉄平の言いつけを守らず、端島の人に真相を話したら、みんなで鉄平を守ろう、となるかもしれない。
朝子の耳に入ってしまうが、仕方ない。
外勤の鉄平にお世話になった、顔見知りの人もたくさんいるし、気の荒い炭鉱夫達なんか、ヤクザがなんだ、返り討ちにしてやる、と盛り上がって鉄平を助けてくれるだろう。
警察関係者にも来てもらって、ヤクザと交渉して真相を理解してもらい、鉄平は守ることは出来るんじゃないか?
みんなに迷惑をかけてしまう、と心配する鉄平に、何を言ってるんだ、一島一家だろ、などと島民が背中を叩いても面白い。
問題のリナだが、ヤクザの金を持って逃げているとしたら、それも詳しいいきさつをリナから教えてもらい、みんなでカンパした金で大きく利息をつけて示談にするとか、ほぐれた糸を一つ一つ解きほぐしていかねばならない。
反社会勢力に金を渡す、というのが描けないなら、それこそ鉄平が外勤の交渉力を活かして、何とか誠実に解決しようとヤクザの親分と交渉を重ね、その男気を認められて許しを請うなど、金以外でも解決出来るかもしれない。
鉄平は人の懐に入るのは得意だろう。
もしくは、外勤の調査力を生かしてそのヤクザの悪行を洗い出し、端島のみんなの協力を得てその組織を壊滅に追い込んでしまうとか、ずいぶん大きな話になってくるが、そういう展開だったらめちゃくちゃ面白かった。
一般市民が力を合わせて悪を負かすなんて、こんな痛快なことはない。
もう10話くらい割かなきゃいけないかもしれないが、シリーズ物として2シーズンは行けたんじゃないか?
というか、今までの話も大分省かれて、描かれていない描写が多いんだから、それらも含めたら3シーズンは行けたと思う。
鉄平は、全国を転々とするのも良いもんだぜ、と強がっているが、手紙を朝子に書こうとして躊躇したり、ヤクザから逃げ回る日々は、嫌に決まっている。
一人で背負い込もうとしているのは鉄平らしいが、それを誰も助けてくれない展開になるくらいなら、弱さをもっと出してしまった方が面白かった。
むしろ、逃げている途中で感情が爆発し、なぜ俺がこんな目にと泣きじゃくり、賢将に連絡して助けを求めてしまう方がまだ良い。
訳が分からなくなって、目に涙をためながら、端島に戻ってきてしまった、とかの方が可愛げがある。
しかし、それでは鉄平の失踪自体が途中でなくなり、鉄平と朝子が再会し、全く別の話になってしまうので、鉄平をみんなで助ける、という展開はこのドラマでは使えない。
現代の話が全く存在しなければ出来ただろうが。
いや、でも鉄平と朝子は結婚して幸せに暮らしたが、鉄平は虎次郎のようにもう亡くなっていて、いづみが昔話を玲央にしていく、という形なら出来なくもないか。
それもそれで別の話だけど。
とにもかくにも、独りよがりの鉄平に対しても、それを知ってて放ったらかしにした周りにも腹が立つので、この話は孤独な鉄平の悲劇に対しては涙腺が刺激されるが、なんだかぁと思う。
鉄平はきっとある意味で強かったんだろうが、あの人は強いから大丈夫だろう、というのは、何もしない口実であり、冷たいと思う。
鉄平はそういう奴だから、で済ましてはいけない。
そういう意味で、鉄平のことを本当に理解している人は誰もおらず、孤独な生き方をさせてしまったんだと思う。
直接いづみに謝罪出来た誠はともかく、リナは強い罪悪感を胸に抱えたまま死んだ訳で、賢将だってきっと、何も出来なかった、しなかった引け目を感じたまま生涯を終えたんだろう。
それは、鉄平に貧乏くじを引かせて、自分たちは何もしなかったことの代償なので、甘んじて受け入れるべきことではあるが。
母親はリナと誠をかくまうなど、それなりにリスクを冒して助けてはいるのに。
ヤクザをやっつけるなんて、だいそれたことが仮に出来なくても、鉄平とケンカになりながらでも、賢将は何とか鉄平を助けようともがいて欲しかった。
そういう描写は一切ないので、物足りない。
ただ会って、むしろ鉄平から記録用に参照するノートや鉱夫達のための就職情報をもらい、賢将の方が助けられている。
端島で一島一家という言葉を広めようとしていた鉄平が、誰からも助けられなかった、というのは皮肉であり、不憫にもほどがある。
娘夫婦に腹が立つ、いづみの朝子感のなさ
冒頭から、いづみの娘とその旦那が、しれっといづみへの態度を変えている感じが腹が立つ。
前話の件でも述べたが、認知症に仕立て上げようとした一連の振舞いをちゃんと謝れ、と思う。
理系で院卒夫婦の本領発揮よ、などと冗談めいたことを言っていたが、それも含めてイラッとする。
わざとこんなにイラッとさせる夫婦を狙って演じさせていたらすごいが、きっとそうではないだろう。
いづみと玲央が軍艦島に行き、鉄平がダイヤモンドを置いた、と分かったいづみは、いてもたってもいられず走り出した。
いづみの演技は、確かに朝子であるという設定でこの役者なりにやってはいるが、まるで面影がないので、気持ちを込めづらい。
流暢な長崎弁が出るわけでもなく基本キレイな標準語だし、朝子のような感情豊かで華やかな雰囲気もなく、まったくの別人である。
朝子の良さである、物腰が柔らかくナチュラルだが、芯が強い感じもない。
以前にも言及したが、疲れたおばあさんなので、もう少し朝子風味を入れることは出来なかったのか?
入れすぎると序盤でネタバレするから難しいのかもしれないが、今さらだが、もう少し朝子に寄せて欲しかった。
最後に、朝子といづみがイスで語り合う感じは素敵だったが。
ちなみに、いづみと玲央を乗せたタクシー運転手と、鉄平が通ったガラス工房のおじさんは、演じようと言う雰囲気がゼロだったので、エキストラではなく、本物なのかもしれない。
ドラマ「海に眠るダイヤモンド」を見終えて
第一話から、セットがリアルじゃない、音楽や主題歌が合っていない、演技が、展開が、などと色々言ってきたが、全体としては全く楽しめなかった訳ではない。
感動させられる良いシーンもいくつかあったし、全く見ないより、見て良かった。
軍艦島として知られる島の、活気ある時代の一端に触れることも出来たので、プラス要素もある。
ただ、やはりドラマ部分に物足りない感は否めなく、もっと面白くなったはずだ、というのは強く感じる。
何回か述べたことだが、小説なら読者か勝手に頭の中で補完するので、多少省いたり、飛ぶシーンがあっても成立するかもしれないが、これはドラマなので、面倒でも絶対に描かなければいけないシーンがいくつもあり、それを描いていない場面が多々あるので、全体を通して厚みが出ていない。
泣く泣く省いた、とかではなく、そもそも描く必要性を感じてなさそうだし、もしくは描けるほど細部まで設定されてないんじゃないかと思う。
後は想像におまかせします、と言って丸投げしてしまえば、そもそも設定されてなくてもバレずに済むので、都合の良いやり口の一つだ。
見ているほとんどの人にはバレない。
一つ一つのドラマの掘り下げも、深いところまでリアルに行って完結してから次に行くのではなく、こんなドラマきっとあったでしょ的な、表層をなぞっただけで終わっていくことが多く、突き抜けていない。
なので、ところどころ良いシーンはあっても、それが次々に連鎖して、雪だるま式に分厚くなっていく感じはない。
予算も時間もないのかもしれないが、そうであれば、大分要素を絞って、少ない話に厚みを出していった方が、よほど濃くなったんじゃないかと思う。
今まで述べた通り、役者の演技自体は概ね良く、良い役者がたくさん出ているのに、活かしきれていない。
役者の演技は、鉄平しかり、エキストラ達も、後半の話の方が浮いた感じが少なくなってきているので、役者自身が慣れてくればその分ナチュラルさが増してくるんだと感じた。
朝子は最初からずっと自然なので、あんまり関係ない役者の人達もいるんだろうが。
BGMに関しては、端島の熱気を感じさせる、同じメロディーが繰り返されるテンポの良い曲や、壮大さを感じさせる笛の曲、爽やかで明るいハープの曲、ほろ苦くエモーショナルなギターサウンドなど、特徴的で耳に残る音楽達は、最初は大げさで少しうっとうしく感じたが、物語にハマる部分も少なからずあり、このドラマが終わる頃にはこの作品の象徴的な音楽として、少し愛着が湧いた。
ただ、場面によっては、やはり大げさに感じたり、音が大きくうるさかったりする時もそこそこあり、使い方一つなんだと思う。
エンディング曲しかり。
このドラマが、端島のドラマをリアルに描いた、歴史に残る秀逸な作品かと問われれば、そうではない。
かといって、全くの創作だが、リアルを超えた面白いフィクションでもない。
部分的に良い箇所はあっても。
なので、リアルではないが、たまに良いシーンのある、ドラマ風の壮大な演劇、という感じかもしれない。
ただ、上述した通り、軍艦島がまだ生き生きとしていた頃の、端島という特異な炭鉱の町を舞台に、昔の時代の熱気やエネルギーの一端を垣間見ることは出来た。
これが端島のプロモーションビデオだと思えば、溜飲も下がる。
実際に、軍艦島へのツアーが、このドラマのおかげでかなり増えているらしいから、長崎にとってはこれでもありがたいんだろう。
面白くリアルで、秀逸なドラマなら、それが自然と最高のプロモーションになるだろうが、そこにはまだ遠い印象だ。
何度も言うが、ポテンシャルの高い、良い役者達がいるのに、描き方や展開で面白く仕上げられない、というのはもったいない。
5話の賢将や一平の演技など大分良かったのにも関わらず。
なにはともあれ、全体を通してみると、端島自体は興味深く、朝子のナチュラルな存在感が、端島の象徴的な良いイメージとして頭に残ったので、甘めではあるが、見て損はない、という評価にしたい。
朝子の切なさと、ほろ苦いギターサウンドは合っていると思う。
物語自体をあんまり深く考えてはならず、何となく見て、良いシーンだけ見ていけば良いんじゃないかと思う。
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