オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分 英題:Locke
監督-スティーブン・ナイト 86分 2013年
脚本-スティーブン・ナイト
出演-トム・ハーディー、ルース・ウェルソン、アンドリュー・スコット、他
“見て損はない☆3”理由と考察、その感想
シンプルだが緊迫感がある
車の中で運転をしながらハンズフリーで電話をしている男の映像だけで物語が展開していく。
大丈夫なのかと思って見たが、思っていた以上に楽しめた。
男が仕事の頼みごとや妻への謝罪、役所や病院と様々な所に電話をしまくり、約1時間半の間にかなり忙しく話が展開されていく。
面と向かってではなく、電話で解決しようという所により緊張感があるのかもしれない。
最初から事情を全て説明して、さらに説得するというのは、面と向かって以上に難しい作業だと思う。
いきなり電話で難しいことを言われても、それは受け入れがたいのは当然で、失礼な話ではあるだろう。
ほぼリアルタイムで物事が進行していくせいもあり、主人公の男の心境をまるでドキュメントを見ているがごとく感じられる。
映像自体はどこを切り取っても変わり映えはしないが、ずっと会話劇であり、さほど飽きずに見られる作りになっている。
反省が足りない男
最終的にはなんとかして山積していた問題はとりあえずは解決するという方に行くことが出来たが、男の人格自体がしょうもない。
未熟な男のドキュメントということではしっかり成立している。
自分でもここにいない父親に語りかける形で、自分は父と違う、自分は問題をちゃんと解決できるんだ、などとも言っていたことから見ても分かるように、自分に酔っている様が節々に見受けられる。
妻にも「一回だけだ」と言っていたし、言い方に本当に悪かったという気持ちはほとんど感じられない。
電話で話す人達に「しかたがない」と口で言っているだけのように聞こえ、心から思っている素振りはない。
失敗したことやこんなきつい状況を作り出してしまったこと自体への悔いはあっても、人に対して心から悪いという気持ちはないんだろう。
自分で作り出した状況なのに、それがまるで天から与えられた使命かのように振る舞うこういった人間は実際にいるから要注意だ。
こういう人間はきっと、この状況を切り抜けたことで自分は成長したと勘違いして胸を張るだろうから、この先も何も学ばない。
ちゃんとした理由が欲しい
明日の仕事に行けない、家に帰れない理由が病院に行かなければいけないということだが、その理由が自分の失敗なので、全てをほっぽり出す理由にはなり得ない。
そういう意味で本当にやむを得ずに、という緊迫感はない。
自分は悪くないのにやむを得ずに行かなければならず、しかも周りの理解が浅くて協力してもらえずに孤軍奮闘して窮地を乗り越えたというのなら応援したくなるが、決してそうではない。
もし病院に行かなければいけないのであれば、子供を産む女性の人格をなぜあんなに深みのない人格に設定したのだろう。
自分と関係を持ったという設定も必要もなく、自分の友人でも別にいいわけで、例えば冒頭にその友人とのかけがいのない友情のようなものが描かれていて、その友人のためにとにかくいかなければいけないという理由があればそれでいい。
走れメロスのような危機的な状況であったらかなり良かったんじゃないかと思う。
もし自分の失敗で招いた状況であるならば、冒頭から既に猛省し、全てを受け入れる覚悟をし、新しく人生をやり直すと心に誓ってからハンドルを握るという内面であるべきだった。
上司と話す時、妻と話す時、部下と話すとき、少しでもいらついて声を荒げたりしている時点で全くそうではなく、相手が怒っても自分は終始低姿勢で丁寧に話そうとしているのならまだ分かる。
未熟な人間が未熟なままなんとか乗り切ったということになってしまっている。
ずっと車の中という状況から発想して話は後付していったからこうなってしまっているのか?
それだとやはりよくある手法が先行しているだけで斬新だと謳っていて中身がない作品になってしまっている。
そもそもが未熟な人間のドキュメントか、全ての困難を自分一人で乗り越えた敏腕の出来る男の話しか、監督がどういう意図で作りたかったのかは分からないが、前者として見ればいいと思う。
人の不幸は蜜の味ではないが、他人が起こした問題を覗き見て楽しむのは人の心理として存在するものだ。
しょうがないね、この男は、と悪口を言いながら反面教師として見るのも悪くはない。
主人公の心理が伝わってきやすい撮り方、ドキュメントの様であるがゆえに、よりそうしやすくなっている。
もしそれが監督の意図であったら狙い通りとも言える。
自分が尊敬できるような人間を映画で見て、何かを学べればという様な目線で見ている人にはかなり物足りないだろう。
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