グラン・トリノ 英題:Gran Torino
監督-クリント・イーストウッド 2008年 117分
脚本-ニック・シェンク
出演-クリント・イーストウッド、ビー・ヴァン、アーニー・ハー、ジョン・キャロル・リンチ、他
映画「グラン・トリノ」の簡単なあらすじ
家族にも疎まれている元軍人が、家の隣に住む中国人の少年との交流を通して、生きる意味を見つけていくシリアスドラマ。
朝鮮戦争にも出兵した元軍人の整備工コワルスキーは、頑固で口が悪く、息子家族からも疎まれていた。
先日愛する妻に先立たれ、表向きは心配する息子家族の助言を聞かずに、愛犬のデイジーと自慢の愛車「グラントリノ」を眺めながら、一人細々と暮らしている。
ある日、隣に住む中国人の少年タオが、いとこでギャングのスパイダー達に因縁をつけられ、襲われているところをコワルスキーが散弾銃を突きつけ助ける。
また、タオの姉のスーが町で不良の黒人たちに絡まれているところも、偶然通りかかったコワルスキーが助けてやり、それらがきっかけで隣人の中国人一家との交流が始まる。
文化の違いに戸惑いながらも、一家の暖かいもてなしに次第に心が変化していくコワルスキー。
スパイダーの命令でグラントリノを盗もうとしたタオは、償いにとコワルスキーの元で無償で働くことになる。
タオの仕事ぶりを見たコワルスキーはタオに建設現場の仕事を紹介してやり、必要な工具まで買ってやった。
そういったタオやスー、隣人一家との交流が、戦争のトラウマを抱えたコワルスキーにとって、次第に心安らぐひと時になっていった。
そんな中、タオが建設現場からの帰り道にスパイダー達に絡まれ、工具を壊され、顔にタバコを押し付けられてしまう。
それを知ったコワルスキーは怒りに震え、スパイダー達の家を回り、一人づつ痛めつけ、タオに近づかないよう警告をする。
コワルスキーのおかげでタオも元気を取り戻し、また平穏な日々が戻ってきたかに思われたが、そこからスパイダー達の復讐が度を増してしまう。
中国人一家は危機にさらされ、特にスーに行われた仕打ちはコワルスキーの胸を大きく痛めつける。
復讐に燃えるタオを制し、考え抜いた末コワルスキーはある決断をする。
スーがされたひどい仕打ちとは?
そして、コワルスキーが行った勇気ある決断とは!?
クリント・イーストウッド監督、生きる葛藤を描いたシリアスドラマ!
“今すぐ見るべき!☆5”理由と考察、その感想
イーストウッド節が効いている
自分としては本作のイーストウッドの雰囲気がたまらず、見終わったあともしばらく頭にこびりついていた。
クリントの演じ方は作っている感じがしなく、ナチュラルに無理なく深い演技が出来ている。
それが、時間が経つほどじわじわと心にしみてくる。
コワルスキーは家族に疎まれていますが、実際こんなおじいちゃんがいたら尊敬してしまう。
仮に最後の行動がなかったとしても、こういう人を邪険に扱うのはよっぽど心無い人なんだと思う。
そこは、やはり世間の冷たさを少しデフォルメしている様な部分なのかなと思う。
口は悪いが、タオやスー、中国人一家に対する態度や、男仲間との会話も、口の悪さの中に優しさが漏れている感じがある。
クリントが演じると、ただ頑固なだけじゃない深みがすごい。
枯れたカッコよさだと、彼の右に出る人はいないんじゃないかとすら思う。
銃を向けて凄むところなんかは迫力がすごい。
その人を助けるためにやったわけじゃない、という姿勢を貫くのも粋だ。
孤独なコワルスキー
コワルスキーが徐々に閉じた心を開放していく描写が作品の大半を占めている。
妻が死に、息子家族はうわべでしかコワルスキーを心配しておらず、精神的には天涯孤独だ。
ましてや年齢も年齢で、あとは余生を生きるだけ。
そんなときに、心のよりどころがないまま最後まで生きていくというのは、なんとも切ない。
しかし、愚痴などを言ってふて腐れないその強い姿には哀愁を感じつつも、美学のようなものも感じる。
そんなコワルスキーが、心を開いたのは身内ではなく、いつも悪口を言っていた異なる人種の隣人という皮肉。
隣人の愛は孤独なコワルスキーの心にどんどん入ってくる。
人種を超え、年代も越え、お互いにうわべではない愛情を抱いていく様は心あたたまる。
代えがたい愛情を抱き、自分の生の残り時間も考えたがこその、あの行動。
格好良いと感じるのと同時に、非常に心揺さぶられた。
コワルスキーが乗り移ったグラントリノを、タオがデイジーと共に楽しそうに乗り回す姿は何とも言えない。
悲しいけど嬉しいような、複雑な感情が湧きあがる。
コワルスキーと床屋との会話も絶妙で良かった。
お互いリアルにボロクソに言い合っていて、それを普段からやっている感じが面白い。
クリントらしい。
お互いにゆるくない悪口を言うのがポイントだ。
シリアスな調子ではあるが、エンターテインメントとしても非常に楽しめた。
アクション要素も入っているので、盛りだくさんの作品だ。
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