ゴジラ-1.0 英題:GODZILLA MINUS ONE
監督-山崎貴 2023年 125分 日本
脚本-山崎貴
出演-神木隆之介、浜辺美波、吉岡秀隆、青木祟高、佐々木蔵之介、山田裕貴、安藤サクラ、田中美央、他
映画「ゴジラ-1.0」のあらすじ
太平洋戦争に特攻隊員として参加した敷島は、飛行機が故障したと嘘をついて任務から離れ、近場の島の日本軍の基地で飛行機を整備してもらっていた。
ところが、その島の地元住民がゴジラと呼ぶ、恐竜に似た怪物が突如として基地内に現れ、隊員たちは応戦を余儀なくされる。
整備兵の橘は、敷島に乗ってきた戦闘機の機関銃で応戦するように指示し、敷島はコックピットに乗り込むも、恐怖から撃つことをためらい、結果として敷島と橘以外の隊員たちは全員ゴジラに殺されてしまう。
橘に恨まれながら、東京の家に帰って来た敷島だったが、家は空襲でめちゃくちゃに破壊され、両親が死んだことを聞かされる。
生きる気力を失っていた敷島だったが、闇市で赤ちゃん連れの典子という女性と出会い、行き場のない彼女達と一緒に暮らすことになる。
敷島は彼女たちを養うため、危険だが報酬の良い機雷除去の仕事を始め、典子たちの明るさにも助けられ、敷島は徐々に生きることに前向きになってきた。
そんな矢先、敷島の前には再びゴジラが姿を現す。
以前よりもさらに大きくなったゴジラは、典子の働く銀座へと向かっていくのだった
“観て損はない☆3″理由と考察、その感想
アジア初アカデミー視覚効果賞受賞も、主役の敷島に魅力が足りない
戦後間もない日本を舞台に、最新のCGを駆使してゴジラと人間の戦いをを描いたアクションドラマ。
日本映画として初めてアカデミー賞の視覚効果賞を獲ったということで、どんなものだろうと思って見てみた。
結論としては、アクションとしては日本映画にしては少し楽しめたが、ドラマや演技部分が物足りなく、ほろりとくる場面もあるものの、全体としては物足りなかった。
ドラマに物足りなさを感じた原因として、主演の神木隆之介が演じた敷島をいまいち好きになれないことが大きいと思う。
特攻隊の任務から逃げた臆病者の敷島が、初めて自分の大切な人のために命をかけて奮起する、という敷島の成長物語だが、敷島が変わっていく感じがよく分からなかった。
敷島が典子や明子と出会い、次第に明るさを取り戻し、生きることに前向きになっていく様をもっとハッキリと描いて欲しかった。
この役者の持ち前の、ナチュラルな明るさをもっと出すべきだった。
敷島がハッキリと変わった、その矢先にゴジラが現れ、今度は典子たちを守るために戦う、ということなら分かるが、あまり変わった様子もなく、ほぼずっと暗い感じで深さも感じられず、人格の描写としてメリハリがなく応援しづらい。
神木隆之介の敷島の演じ方は、序盤の臆病な感じは悪くないが、全編を通してリアルさを感じづらい。
敷島が戦争時のトラウマで悪夢を見て、自分は生きているのか死んでいるのかもわからない、典子も実は夢なんじゃないか、と言ってパニックになり典子にさとされるシーンがあるが、非常にあざとく感じてしまった。
本当に訳が分からくなっている、もしくは自分だけ生きていることに苦しんでいる人間ではなく、表面上そういう人間に思われたい人間の、うわべの振る舞いに見えてしまった。
しかし、そんな敷島を見て、憐れみや同情などの感情がこみ上げたのか、泣かんばかりに「何いってんの、生きてるよ」と怒ってさとす典子の振る舞いは敷島を包み込み、二人をひっくるめたそのシーンはなんとか成立し、おじゃんにならずに済んだ。
浜辺美波のおかげだ。
というか、この典子の怒る感じは涙腺を刺激される。
典子の振る舞いに欲を言えば、敷島の目を覚まさせるためにもっと激しくぶつかっても良かった。
ビンタしたり、口づけしたり、夢じゃないでしょ、と言って泣きながら敷島を強く抱きしめるくらいでも良かったかもしれない。
敷島は、典子の振る舞いで自分が生きてることを物理的にも実感させられ、嗚咽をあげながら泣きじゃくる、とかならもっと良かった。
そんな強烈な描写であれば、その日を境に敷島が前向きになることもおかしくはないので、このシーンにはもっと強さが欲しかった。
そして、典子によって前向きになったはずなのに、ゴジラが出没した銀座で働く典子を助けに行ったにも関わらず、敷島はなぜかゴジラに見とれてしまい、典子に身を挺して守られてしまった。
せめて、そんなよそ見などせず、必死に典子を助けようと一心不乱に二人で走るが、それでも典子に助けられてしまった、とかにして欲しかった。
百歩譲ってまだゴジラのトラウマが残っていたから呆然として見てしまったとしても、吹き飛ばされた典子を必死に探しにも行かない意味が分からない。
そして地面に座ったままゴジラに対して敷島は怒りの声を上げるが、その声の上げ方も本当に怒っているようにも見えず、見ていて感情も揺さぶられない。
そんなに怒っているなら、ゴジラに相手にされなくても本当に向かっていけば良いのに、座ったままだし、怒っているけどまだゴジラは怖いのか?
主人公がゴジラに対して激しく憎悪を抱くシーンを演出したかったのだろうが、典子を探しにも行かず、戦おうともせず、ただ叫ぶだけなので、中身のないうわべの演出と言わざるを得ない。
このシーンでは、変わった敷島が必死で守りたい、せっかく手に入れた大事なものを、今度は戦争じゃなくゴジラという理不尽な存在に奪われ、とんでもない憎悪を抱く、という、このドラマのかなりの見せ場であるはずが、大分物足りなかった。
その理不尽さにこっちも泣きたかったが、演出の不備で、敷島が悲劇のヒロインを演じているように見えてしまった。
原爆を落とされ、ボロボロになって戦争に負けたばかりなのに、今度は訳の分からない強すぎる化け物に蹂躙されるなんて、泣きっ面に蜂で、理不尽にもほどがある。
その理不尽さの代弁者として、もっとリアルに表現してほしかった。
表面的な、ヒステリックな叫びを見たいわけじゃない。
その後、敷島はゴジラ掃討作戦に参加し、整備士の橘をわざわざ呼び寄せ、決死の覚悟で戦闘機に乗り込み、最終的にはゴジラに突っ込んでいくが、その覚悟の感じも、達観した強い感じには見えず、物足りない。
橘の前で、手が震えていることを見せているくらいだから、怖さがあるんだと思うが、そこは覚悟を決めた人格として、むしろこの役者の持ち前の、爽やかさがあるくらいの明るさがあっても良かったんじゃないかと思う。
怖がっている時点で、覚悟は決まっていないとも言える。
いざ飛行機を操縦し始めたら、少し笑ってはいるが、もっと楽しそうでも良かったし、飛び立つ時に敬礼する時もも、爽やかな顔をしていても良かった。
特攻隊に行く直前の人達は、爽やかな表情をしていた、笑顔で飛び立っていった、という記録も残っているくらいだし。
それは、自分の犠牲が国を守る、自分の家族を守れるという理由の下、これから死ぬ、人生が終わることを自分の中でハッキリと決めたからで、今となっては誰にも絶対にやらせてはいけない、言葉にできない悲しみが隠された、爽やかな笑顔だ。
むしろ曇った表情より、そんな晴れやかな表情で飛び立っていくのを見送る方がどれだけキツイか。
というか、そんな状況は作っちゃいけないが、敷島が飛び立つ時は、笑っていた方が涙腺を刺激されただろう。
それを見て、あ、本当に死ぬ気なんだ、と思うはずだ。
そして、典子が生きていることを知り、典子と病院で対面するが、その時の振る舞いもイマイチだった。
典子を見るなり泣きじゃくるが、泣こう泣こうとしている感じに見え、冷めてしまった。
母親を見て安心して泣いてしまうような無邪気な自然さにも見えず、泣く演技をしている、という感じだ。
自然に感情が動いて泣けない限り、泣くことに何も意味をなさないし、立ち尽くすのではなく、せめて間髪入れずにすぐに抱きつきに行って欲しかった。
すぐに探しに行かなかった謝罪の気持ちも込めて。
このシーンは、敷島がナチュラルであれば、浜辺美波の存在感と合わせて、大分涙腺を揺さぶられるシーンになったはずだが、そうはならなかった。
生かされなかった神木のポテンシャル
神木隆之介という俳優に自分は好感を持っていて、ナチュラルに演じられる印象があるが、この作品では、一番最初の臆病な雰囲気は良いが、それ以外は薄いという感じだった。
それがだんだん変わっていくというグラデーションも薄く、強い人格が見える訳でもないので、演じ方の、感情の振り幅が非常に狭く見えてしまった。
脚本や演出もあるんだろうが、もっと彼のナチュラルさをベースにした、嘘でない心の流れが、見ていて分かるような演じ方でやって欲しかった。
特攻から逃げたこと、両親の死、自分のせいで軍人たちを死なせたことを思って暗くなるのは分かるが、その暗さに深みが欲しい。
暗い、影があるってきっとこんな感じなんだろう、というような、中身を伴わない表層的な演じ方に見えた。
この敷島という人間は、もしかしたら彼には合っていない人格なのかもしれない。
俳優ではないが、敷島が戦場カメラマンの渡部陽一のような人だったら、めちゃくちゃ感動出来たかもしれない。
失礼かもしれないが、弱々しさもあり、修羅場をくぐっているからイザという時の強い顔もできるし、何より演技では作れない優しさが垂れ流しになっている。
そんな人が誰かのために自分を犠牲にしようとして敵に立ち向かっていく様には、涙腺が崩壊せざるを得ないだろう。
俳優なら、草彅剛なんか、かなり良いんじゃないか?
弱い感じも強い感じも出来るし、人格が変わっていく様子も表現できるだろう。
堺雅人も出来そうだけど、堺の強すぎる感じを知ってしまっているので、返って少し物足りなく感じてしまうかもしれない。
ただ、きっとこの人は演じられるだろう、ということで選んでいくと、どうしてもおじさんばかりになってしまう。
今はCGも発達しているし、それこそアイリッシュマンのように、ベテランが若手を演じる、ということも全然ありで、演じられない若者を使うより、CGを使ってでも演じられるベテランにやってもらった方が、ドラマとしては重厚になるだろう。
しかし、それでは若手が育っていかない、ということにもつながりかねないので、理想はその役の年齢に近い、若い役者に演じてもらうことが一番良いが、物足りなさを感じさせるくらいなら、ベテランが良いと思ってしまう。
若い人には、そんなベテランたちを押しのけるくらいのマンパワーを身に着けてほしい。
神木隆之介は、自分が良いと思っている役はドラマ「スペック」のニノマエ役だ。
ニノマエは、通常の人間の数万倍の速度で動ける特殊能力を持ち、いつもニコニコしながらひょうひょうとして声を荒げることもなく、主人公たちの行く手を阻む凶悪である。
通常の悪らしい感じではない、子供のような無邪気ささえ垣間見える悪で、むしろ強面の悪より怖さが引き立つ、存在感のある悪だった。
設定がハマった、ということもあるだろうが、その演じ方は、素に近いからか、特に作っている感じもなくナチュラルで良かったが、敷島にそういう魅力は感じられなかった。
敷島が元気を取り戻した時は、繰り返しになるが、そのナチュラルな爽やかな感じを強く出した方が良かったんじゃないか?
そもそもデフォルトの真面目な青年という感じが、彼に合っていないんじゃないかという気もする。
彼本来の、良い意味で軽さがある、魅力的な素をベースにした敷島の方が板についていたかもしれない。
物足りない敷島チーム感、存在感のある典子
ゴジラと戦う上で、敷島を取り巻く主要メンバー、野田、秋津、水島に、もっとリアルなチーム感が欲しかった。
機雷除去やゴジラ掃討作戦の頭脳である学者こと野田は、基本的にセリフは棒読みに聞こえるが、味があるにはある。
ゴジラに初めて遭遇した時、切羽詰まった状況で、「口の中、口の中ならどうだ」と言う感じは、本当にその場で思いついて言っている感じがして、リアルな緊迫感があって良かった。
学者が、ゴジラ掃討作戦の前日、今日は皆さん家に帰って家族と過ごしてください、先の戦争でこの国は命を粗末にしすぎた、今回は一人の犠牲者も出さない戦いにしたい、などと熱い思いを作戦参加者に呼びかけていたが、学者に似合わない感じで違和感を感じた。
学者はあくまで一歩下がった感じがスパイスとして光るのに、全面に出て来ると変な感じで、そもそも学者はこの作戦のリーダーではないのに、なぜ勝手に「帰って良い」などと仕切りだしたのか、と思う。
ヒゲで恰幅の良い指揮官が、今日は泊まり込みだ、と言ったら、それに反論して学者が、今日ぐらい帰らせて下さい、あなた達軍は命を粗末にしすぎた〜などと上記の演説をするのなら格好良かった。
リーダーの下で個性を発揮できるタイプなのに、自ら指揮をとる感じは、ヒーローぶっているようにも見え、学者のキャラと合っていない違和感があった。
学者のしゃべり方は基本的に棒読みだが、ところどころで感情が宿り、リアルな感情が顔をのぞかせる。
感情が宿っているように見えないセリフのやり取りや振る舞いは退屈で、物足りなさはあるが、感情が出ている時もあるし、その棒読みも含め、学者の味として解釈出来なくもない。
彼が仮に怒ったとしても、怖く見えず、可愛らしく見えてしまうのは、良い意味でも悪い意味でも味だろう。
敷島や水島にとっての兄貴分、秋津は、口は悪いが熱い男という感じで存在感自体は悪くないが、ずっと演じているように見えてしまい、魂の叫び的な瞬間も特になかったので、物足りなく感じてしまった。
きっと、普段はこんな人じゃないんだろうな、と思ってしまう。
兄貴を演じているのは分かるが、リアルに態度がでかい兄貴感が欲しかった。
例えば、堤真一のような、リアルなうっとうしさというか、おせっかい感、面倒くささがある兄貴でも良かったし、寺島進のような器のでかい兄貴感でも良かった。
そう考えると、佐々木蔵之介演じる秋津は少しキャラクターが薄めの兄貴である。
特に何かがあざといとかではないが、もっと濃かったらドラマのスパイスとして面白くなったんじゃないかと思う。
後輩である水島は、本当にいそうな、まだ色々と足りてなく若い、かわいい後輩感があるので良い。
役者によって違うだろうが、後輩を演じるより、先輩を演じる方が難しいと思う。
後輩は、若さを武器に出来るが、先輩はそうはいかず、それなりに人間力が求められる。
だから役者は年を取れば取るほど、それに見合ったリアルな深さを身に着けていかなければ、いつまでたっても演じられる幅は増えていかないだろうと思う。
そういう意味で役者って大変だ。
でも普通の仕事も同じか。
年をとってるのにダメな意味で軽さがある人は、任せてくれる仕事も少なくなるだろう。
そんなこんなで、敷島を取り巻く、兄貴、後輩、学者のチームは、ところどころ悪くはないが、リアルな関係性、熱いチーム感的なものをガツンとは感じられなかった。
兄貴役の秋津はもっとリアルな味が欲しかったし、学者は一歩下がって欲しかった。
ちなみに元海軍の艦長だったヒゲの堀田指揮官は、いかにも軍の艦長という感じで、それなりの重厚感があって良い。
浜辺美波が演じる典子は、悲壮感から楽しそうな感じ、怒る時も、それぞれリアルな感情が出ていてどの顔も真実で深いし、全体を通して存在感があって非常に良い。
もちろん演じているのは分かっていても、それを超えてくる強さが典子にはある。
敷島を突き飛ばす感じも、本当にそういうことをしそうな、自己犠牲をいとわない人間に見えるし、病院で敷島と対面した時は、見ているこっちも安心感を感じられて、涙腺がゆるんだ。
若いのにこの存在感を出せる女優は、今のところ彼女を除いて他にいないんじゃないか?
このドラマのキーマンとして、なくてはならない存在感を示している。
主役の敷島も、典子のようにナチュラルで強い演技だったらもっと面白くなったのに、と思ってしまう。
ハリウッドに負けていないアクション描写
演技的なことは置いておいて、アクションとしては、ハリウッドにそこまで負けていないんじゃないかと思った。
ハリウッド作品でも獲れない視覚効果賞を獲った、というくらいだから、どんなものかとは思っていたが、それにしては、これはCG、もしくは模型っぽいな、という箇所は結構あった。
しかし、ゴジラが水中から艦船に熱線を放つシーンは、熱線が出る前に水面が青白く光るが、本当に生の映像を見ているようにしか見えなかった。
この光る水も全てCGだとしたら、すごい。
かと思えば、銀座を歩いているゴジラを上から眺めた感じは、CGっぽく見えたし、その出来は部分によってムラがあると思う。
それでも、CGだと分かって冷める、ということはなく、分かっていても見てしまう迫力があり、今までの日本映画のあからさまなチープさより一枚上手なものにはなっていると思う。
今までがひどすぎたのかもしれないが。
ゴジラはもちろん生で見たことはないが、ゴジラの顔や身体の感じは、リアルな気持ち悪さ、迫力を感じられて良かった。
熱戦を放つ時に背びれが一つ一つ動いて光る感じなど、実に気持ちが悪い。
作り物だと分かっていても迫力があるので、銀座を闊歩している感じは、異様な怖さを感じた。
典子が乗っていた電車をゴジラが壊して口に咥え、典子が手だけでぶら下がる危機一髪の描写など、浜辺美波の演技も相まって、本当にハリウッド映画のようだった。
これが出来るのであれば、アクション面においては、わざわざハリウッドに憧れる必要などない。
きっとこれはこれで作るのは大変で、稀な日本映画だと思うが、日本のアクション映画全てがデフォルトで最低限このクオリティのアクションを出来れば、まだ見ていられる。
アメリカをうらまやしく覗く必要なんてなく、じゃんじゃん日本もアクションを作っていけば良い。
しかし、問題はやはり演技面だろう。
アクションが良くても、演技がリアルでなければ、やっぱりハリウッドには敵わない。
ハリウッドが一番だなどとは思わないが。
敷島を始め、せめて主要人物全てがリアルで存在感がなければ、面白い所まではいかない。
ちなみに、銀座で暴れるゴジラを、ビルの屋上でレポートするテレビクルー達がいたが、レポーターの感じが特に恐怖も感じてない雰囲気なので、違和感があった。
ゴジラがものすごい勢いで劇場を目の前で破壊していて怖すぎるはずなのに、あまりに冷静でリアルじゃない。
どんなことでも視聴率のためにレポートするんだ、という、狂ったアホレポーターである、というフリがあればまだ分かるが、単純に目の前にいるゴジラの迫力とリアクションがズレているように感じた。
実際に目の前で見ているわけじゃないから、想像だけで演技するのは難しいのか?
強すぎるゴジラ、知恵を使った作戦もあっけない幕切れ
それにしても最初、ゴジラは強すぎるんじゃないかと思った。
自分は人が中に入っているゴジラの映画を見たことがあるが、その時は正義の味方だったし、ここまで圧倒的な破壊力がある存在ではなかった。
海での動く速度も早いし、原子爆弾のような爆発力のある熱戦、ダメージを受けてもすぐに再生してしまう回復力など、人間が戦うにはあまりにも絶望的な強さで、歴代のゴジラの中で一番強いんじゃないか?と最初は思った。
ただ序盤で、ゴジラが敷島たちが乗っている船を追いかけていた時は、すぐ船を攻撃出来るはずなのに、ゆっくりと追いかけてる感じで、ゴジラはこの時遊んでいたのかな?と思った。
なので知能が高い冷酷な怪物ではなく、強大な力を持て余した動物なんだろう。
この圧倒的な強さのゴジラを倒すために、泡で浮力を奪って海底に沈め、水圧で潰すという作戦の発想は面白い。
戦艦などを使えない、民間の知恵を絞った感じが興味深くて良い。
沈めてダメなら、今度は浮かせてまた水圧で潰そうとするが、ゴジラが抵抗し、それを民間の船がたくさん来て助けるという展開も、ありきたりと言えばありきたりかもしれないが、ちゃんと水島というキャラクターも活かされていて悪くない。
ダンケルクのラストシーンに似ているが。
こういう民間主導で力を合わせて強大な怪物に立ち向かう、というストーリーは応援したくなる話ではある。
しかし、ソ連を刺激したくないから、駐留連合国軍が軍隊をゴジラ用に出してくれない、という設定はちょっと無理があるような気がする。
さすがにあのゴジラの暴れっぷりを見たら、そんなこと言っている場合じゃなく、むしろ自分の国に上陸されたら終わるし、アメリカも絶対助けてくれると思う。
連合国軍の軍隊が参戦して助けてくれるがことごとく失敗し、ゴジラに原爆を落とすしかない、という結論になり、それは日本側が困るから、少ない戦力でなんとかする、民間の力も借りて、とかならまだ分かる。
でも、最終的に口の中に爆弾を投下すれば倒せたので、戦闘機をいっぱい使えば倒せたんじゃないかと言う気もするので、そこは少し拍子抜けの感じが残る。
連合国軍は戦闘機をたくさん持っているだろう。
民間の力、知恵でしかゴジラを倒せなかった、という独特の倒し方なら、感動できたかもしれないから、他に何かなかったのか、と思ってしまう。
敷島がゴジラをひきつけ、なんとかゴジラを沈めるシーンや、たくさんの船で引っ張ってゴジラを浮かせるシーンなど、アクションとしてハラハラする感じはあるので、もっと面白くなったんじゃないかと思う。
敷島の生還は自動脱出装置でやって欲しかった
敷島は当初死ぬ覚悟でゴジラに突っ込むつもりだったが、橘の計らいで脱出でき、死なずに帰ってくることができた。
これは、敷島は事前に知らなかったほうが面白かったんじゃないかと思う。
死ぬつもりで突っ込んだが、脱出装置が勝手に働き、敷島は、なぜ死なせてくれなかった、典子や自分が死なせた隊員に申し訳が立たない、などと悔やんでいたが、典子が生きていることを知り、病院で典子と明子に会った途端、自分は死ななくて良かった、橘さんありがとう、となる方が粋だったんじゃないか?
ゴジラにぶつかる5秒前に安全装置を外せ、と伝えておいて、それがきっかけで脱出装置が勝手に作動するとかにすれば、出来ないこともないんじゃないか?
そして、橘が事前に脱出装置がついていることを敷島に教えるのは、敷島をもうすでに許している感じでゆるく感じてしまった。
敷島が「明子の未来のために、ゴジラは刺し違えてでも」と死ぬ覚悟を橘に語った時点で、すでにもう脱出装置は設置されていたわけだから、最初から助けるありきだったのかな、と思ってしまう。
自動脱出装置が設置可能という前提だが、脱出装置は外した、という会話を事前に敷島としていて、その時は本当に外していたけど、実は直前でこっそり付けておいた、敷島に死ぬ覚悟を感じたから、とかも出来る。
また、橘が敷島に、生きろ、ということをわざわざ言う必要もなくなる。
脱出装置が勝手に作動した=生きろというメッセージになるので、粋でスマートになったんじゃないか?
アクションとして金曜ロードショーにはちょうど良いかも
この作品は、上述した通りドラマ部分が物足りなかったが、アクションドラマとしてはまだ見れるものになっている。
古くからあるゴジラ作品を踏襲しつつ、凶悪で格好良いゴジラをCGで作ることには成功した。
お馴染みのゴジラのテーマソングも効果的にストーリーを盛り上げている。
この作品では、ゴジラに対してではなく、ゴジラと戦う者達への応援歌的な使われ方をしている。
例の、エヴァンゲリオンをそのまま当てはめたかのような芸のない作り方で、主役の演技やドラマも酷かったシン・ゴジラに比べれば、アクションやドラマも誠実さが感じられてよほどマシだ。
しかし、これをハリウッドでそのまま作り直したら、これより面白くなるだろう、と思ってしまう。
登場人物の存在感に関して、より感情表現豊かな連中を上回るのは、基本的に不可能だ。
単純に登場人物の感情がより豊かであれば、ドラマもより面白くなるに決まっている。
日本人らしいが感情が乗っている、欧米の俳優にも真似できない演技をしなければ、いつまでたっても日本映画はアメリカの影から出れないだろう。
例えば、主要人物で言えば、典子や堀田艦長は良いし、学者の部分部分も悪くない。
後は俳優を全部置き換えてしまっても、特に名残惜しさもない。
だからこそ、主役をはじめ、アクションに力を入れるのと同じかそれ以上にドラマ部分を重厚にして欲しい。
むしろCGやアクションはチープだけど、日本人独特の感情表現豊かな演技が満載で、ストーリーも隙がなく、ハリウッドが真似しても劣化版しか作れない、という逆の状況の方がマシだ。
そうでなければ、ハリウッド映画みたいだね、の枠から出れない。
日本人が頑張って作ったハリウッド映画、と言われてもしょうがない。
特攻隊という日本独自の歴史も、上手くドラマに活用できているほどではない。
ただ、アクション部分と浜辺美波が良いので、見て損はないんじゃないか、とは思う。
金曜ロードショーなどで流すにはちょうど良い作品かもしれない。
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