ブロークン レイジ 英題:Broken Rage
監督-北野武 2024年 62分 日本
脚本-北野武
出演-ビートたけし、浅野忠信、大森南朋、白竜、中村獅童、仁科貴、長谷川雅紀、劇団ひとり、他
映画「ブロークン レイジ」のあらすじ
ボロアパートに住み、質素な暮らしをしている高橋は、実は、喫茶店を通じてMという人物から指示をもらい、殺しを請け負う孤高の凄腕ヒットマン、通称ねずみであった。
しかし、目をつけられていた刑事に捕まえられてしまい、自白するよう暴行を受けるが、高橋は一向に口を割ろうとしない。
そんな高橋に刑事は、あるヤクザの組事務所に覆面捜査官として潜入し、違法薬物の証拠をつかめば、身分を保護し、今後の生活を約束する取引を持ち掛ける。
しぶしぶ応じた高橋は、持ち前の腕っぷしの強さを見せつけ組へ入り込み、警察の協力も受けながら、ついに違法薬物を扱う現場に遭遇するのだった。
後半は、同じねずみの物語がまた繰り返されると思いきや、なぜかねずみは間が抜けており、ヤクザや警察、喫茶店に至るまで、どこかおかしな世界が広がっている。
間違えて関係のない人を殺してしまった高橋は、警察で取り調べを受けるが、そのやり方は常軌を逸したものだった。
“観て損はない☆3″理由と考察、その感想
たけしの久々のハチャメチャ映画
ヤクザに潜入捜査することになった凄腕のヒットマンと間抜けなヒットマンの対照的な活躍を描いたコメディ映画。
1時間と短く、内容も後半はハチャメチャな映画だが、最近のたけし映画の中では一番面白かった。
前半部で格好つけるたけしのダサさや、後半部でのたけしのあざといウケ狙い演技、俳優のゆるいコメディ演技など、引っかかる部分は多々あるものの、突き抜けた下らなさ、遊び心のある非現実な展開など、たけし本来の味が感じられて、少し楽しめた。
もっと面白く、もっと下らなく突き抜けられたとは思うが、たけしはまだ死んでいない、と思わせてくれるので、少し嬉しくなった。
壮大でうんちくのある映画など作る必要はなく、このくらいの適当な感じで、じゃんじゃん遊び感覚で映画を作って欲しいと思う。
格好つけた前半部のハードボイルドドラマ
前半部のハードボイルドな殺し屋の描写は、少し見るのが億劫だった。
年齢はハッキリしないが、実年齢よりかなり若い感じの殺し屋の感じで、派手な殺し方もするヒットマンだった。
80近くにしてはよく頑張っていて、それなりに怖い感じがあるが、この感じのたけしは、格好つけている感じに見えてしまい、魅力をあまり感じれない。
こういうたけしが格好良いと思えたのは、Brotherが最後かもしれない。
たけしの本当の怖さは、もっとひょうひょうとしている中に垣間見える狂気なので、怒鳴ったりもする、あからさまに怖い感じは合っていない。
これは後半部で壊すための前フリなので、格好良い感じでヒットマンを演じる必要があった、と言われても、そこまで格好良く出来ていないので、たけしがわざわざやる必要があったのか、と思ってしまった。
本人は、前フリと言いつつも、何かと理由をつけてこういう格好つけた役をやりたいんじゃないかと思う。
後半ダサくなるから別に良いでしょ、という大義名分を使って。
それは老いに対する抗い、とでも言うべき見栄のような気もする。
昔は、普通にしていても怖い雰囲気が漂っていたので、それがなくなった分、補うように表面的な怖さを出そうとしてしまうんじゃないかと思う。
なぜ怖く見られたいのかは知らないが。
殺し方も派手で、怖い表情をちょこちょこ出す感じとか、特に格好良くもない。
ヤクザぶるような雰囲気もなく、淡々とひょうひょうとしている演じ方のヒットマンの方が、よっぽど格好良かったと思う。
なので、前半部のたけしがもっと魅力的であれば、後半のパロディはより跳ね上がったと思う。
そこはきっと、本人は格好良く出来ているつもりなので、周りは誰も触れられない部分かもしれない。
お笑いコンビ錦鯉の長谷川が65歳の組長として起用されているのは、悪くない起用法だと思う。
65歳にしては若いが、組長と言われればそんなふうにも見えるし、一言もしゃべらさないのは、たけしならではの使い方で良い。
演じよう演じようとしている感じが出てしまっていたが、それでも存在感はある。
相方の渡辺も、側近として十分使えそうな感じだ。
ヤクザ役の人達も、警察関係者や一般人役も特にあざとくはなく、比較的リアルな雰囲気で作られていると思う。
かといってたけしに魅力はあまりないので、前半部は普通のハードボイルド的なドラマで、特に惹き込まれるほど面白い訳ではない。
たけしが100キロのベンチプレスを軽々上げていたのは、ちょっとふざけているけど。
良かった後半のコメディシーン
後半は、前半部のハードボイルドさをめちゃくちゃにする滑稽な描写が多く、時には非現実な展開が、通常の映画という枠をもぶち壊しており、ハチャメチャで良い。
後半に入ってようやく本番が始まった感じがした。
コインロッカーの大きなバッグには、なぜか伝言を読み上げるためだけに声の高いメガネの小柄なおじさんが入っていたり、連絡に使っている喫茶店では機動隊がたくさん待っていて、漫画のようにネズミに飛びかかり、さっきのメガネの男が警察官に扮して、確保〜と画面に向かって楽しそうに叫んでいた。
シュールで奇妙な世界で良い。
取り調べの警察側もおかしければ、椅子取りゲームを始めるヤクザ、急にネズミの扮装になるネズミ、はたまたネット民と思われる書き込みがこの映画を批判していたり、めちゃくちゃでやりたい放題で悪くない。
ネズミは前半の出来るヒットマンと違い、ドジで間抜け風に描かれており、他の登場人物とコントのようなやり取りを繰り広げていく。
良かったシーンは、警察の奇妙な取り調べ、180キロのバーベルを片手で上げるネズミ、覆面を被るネズミ、ネズミの組事務所での自己紹介、焦って目の前の味方を撃ち殺してしまうネズミなどだ。
刑事がネズミの目の前で剣を飲んだり、手をアイスピックで刺しそうになったり、剣山の上に裸になって、ハラハラさせてネズミを自白させようとしているシーンは、下らなくて滑稽で良い。
ネズミも、そのおかしさに戸惑いながらも一応、やめろ、と所々弱く言う感じがリアルに感じる。
時には笑ってしまっているが、たけしも探り探り演じているのかもしれず、それがリアルに見える。
浅野演じる刑事も真剣にやっている感じが良い。
大森はこの時すでにわざとらしいが。
ネズミが組長の弾除けとして雇われ、自己紹介をするが誰も聞いておらず、しまいにコマネチをして、ダメだなコリゃと言っているシーンは、本当に悲哀が出ていて良い。
若い人の前でコマネチをやっても、誰も知らない、という自虐が入っている様にも見える。
そこまで考えてなく、ただのハチャメチャなアドリブかもしれないが。
激重のバーベルを片手で上げてしまうのも、覆面捜査官だからといって本当に覆面をかぶるのもバカらしくて良い。
ヒットマンが出てきた時に、ネズミが誤って目の前にいる組員の頭を吹き飛ばした時は、ちょっと格好つけている感じも相まってネズミがアホに見えたので良かった。
その後に白竜が、何やってんだ、とちゃんと怒るのも良い。
わざとらしくなく、コント的なツッコミではないので、よりネズミのアホさが際立つ。
何やってんだ、で済むことじゃないだろ、とは思うが。
その後ネズミが、サムソンだ、ソフトバンクじゃない、などと、若者が持っていた携帯についてモゴモゴ言う感じは、ボケてますよ、というあざといしゃべり方だったが、それも含めてアホに見える。
そんなこんなで、前半部のまともなストーリー展開や人物描写が、おおむね面白く壊れていくので楽しめる。
あざといたけしの演技
しかし、気になってしまった部分は、たけしがボケるときのあざとさがマイナスに働く時と、面白くなっていないのにやたらと長引かせる会話の部分だった。
基本的に、たけしが自分で笑わそうとするシーンは、その振る舞いはほぼ全てあざとい。
そのあざとさは基本的に邪魔だが、それも相まってバカバカしく見えて、許せてしまうシーンもあるので、全くダメとも言い切れないのがやっかいな所だ。
例えば、ネズミが家に帰る時、階段を足元がおぼつかない感じで登るのがあざとかった。
リアルに足元がおぼつかない滑稽さではなく、わざと転ぼうとしている感じで、リアルでも何でもなく冷めてしまう。
組長の横のランニングマシンで、スピードを上げて競い、あっぷあっぷしている感じもそうだ。
喫茶店の入り口で押し出されたり、どこかに体をぶつけて、いてっと言う感じは、たけしの十八番であるが、わざとらしい。
渥美清ほどのテクニックもないのに、それで笑わそうとするのは、無理がある。
発想だけで体が追いついていない、というか。
台所から大きな火が出て、ふーふーと吹いて消そうとしたり、火事だーと叫ぶ感じもあざとい。
その行動自体はバカらしいし、こんなあざとい自分を主演にしてこの人は何がしたいんだ、というおかしさにはなるが、それは狙ったものではないだろう。
たけしがもし、自分のあざとさを知っていて、もっとわざとらしくあざとくやってやろう、という意識があれば、ただあざとくて足りないのではなく、もっとめちゃくちゃなおかしい世界観を主体的に作り上げられたと思うが、そうではない。
こっちが勝手にそのあざとさを含めて楽しめる部分と、そうでない部分が混在している。
例えば、バーに潜入する時、覆面を被っていこうとし、それを注意され、振り返って指を鳴らすシーンは、たけし自身笑ってしまっているけど、許せてしまう。
ボケる時に、そのおかしさに自ら笑ってしまう、というのはダメなタブーであるが、それも含めて、ネズミとこれを作っている監督合わせてバカだなぁと思える。
重いバーベルを片手で上げる時もそうで、少し笑っているけど、それもバカらしくて良い。
上述した通り、間違えて手下を撃った時に言い訳する感じも、あざといけど悪くない。
しかし、それはあくまで、最悪ではない、ということで、自らのあざとさを利用出来ないのであれば、あざとさなどないに越したことはない。
もし、これらのたけしがあざとくなく、リアルに情けない、アホなネズミを真剣に演じることが出来れば、めちゃくちゃ面白かったんじゃないかと思う。
より不条理な世界観が際立ち、とんでもないものが出来たんじゃないか?
そういう意味で、たけしではなく、前半部の格好良さも、後半のダサさも、どちらもリアルに演じられる役者にやらせた方が良かったと思う。
それこそ、今は亡き渥美清であれば、ボケない真剣な演技も出来るし、しょうもないボケボケの人間も演じることが出来るので、ぴったしな気がする。
緊張感のない、冗長なコントシーン
コント的な会話を無理に長引かせる部分は、特に何も起きないので、冗長で盛り下がる。
ネズミが椅子取りゲームで優勝し、そのトロフィーが壊れ、混ぜ物をした疑惑のある組員に、親分とネズミが、直せよ、何してんだ、直せコラ、とずっと言い続けるのは、ただしつこいだけだった。
たけしはちょっと笑っていて楽しそうだが、その感じもゆるいし、よくこんな中身のない長いやり取りを楽しめるな、と思う。
終盤で、組長と若頭、刑事2人と、ネズミが言い合うシーンも、無理に面白くしようとして失敗している。
何かを生むためにとりあえず長くしてみて、後で編集するのは良いと思うが、そうはなっはおらず、冗長でダレるだけだ。
全体の尺が短い映画なので、なおさらもったいないと思う。
大森南朋も何がおかしいのか、面白くなっていないのに、笑ってしまっているのがイラッとする。
まるで自分をひょうきん者だと思っている痛い素人が、面白さをはき違えてふざけているようで、非常に萎える。
大森演じる刑事は、取り調べの時も少し笑っていたし、面白くしようとしているあざとさがすごく邪魔だ。
真剣にバカらしいことをやるから面白いのに、半笑いで変なことをするのは台無しだ。
やってることは素人で、役者としてどうなんだと思う。
いくら芸人じゃなくても、そこら辺はわかるはずだろう。
たけしが注意しなければいけないが、たけしも笑ってしまっているので注意出来ないし、したところで説得力もない。
戦国時代劇の「首」でも、たけしは大森らと、似たようなあざとく長いだけで冗長なコメディシーンをやっていたし、そのシーンの良し悪しや、そういう演じ方がプラスかマイナスかも監督は判断できないのか、と思うと悲しい。
白竜も目の前のことに少し笑っているシーンもあるが、あからさまではないし、大森ほど邪魔な笑い方はしていない。
たけしも笑ってしまっているけど、上述した通りそれでも面白く見えるシーンはあるので、どう統一感を出すのか難しい。
これは笑って良い、これは真剣に、など細かく決めるのは至難の業で、流れるがままの適当さで、このままでも良いんだろうが、カオスになってしまっている。
例えば、監督以外の俳優は全く笑わずリアルな演技を頑張ってもらって、監督であるたけしだけ、あえてあざとくずっと笑っているキャラクターに設定していれば、まだ良かったかもしれない。
たけしがツッコミに回る時すら、ずっとたけしだけヘラヘラ笑っているキャラクターであれば、主体的に変な世界観を作れただろう。
そうではなく、その時の気分によって笑ったりそうでなかったりするのは、ぐちゃぐちゃで見づらい。
理想は、やはり全員真剣にバカなことをする、ということだろうが、それは今のたけしに作れるパワーはもうないんじゃないか?
たけし自身に緊張感もないし、共演者の襟を正させるほどの言外の圧力もない。
ソナチネなどを作っている頃のオーラ垂れ流しのたけしならまだしも。
作って欲しいけど、現状もう作れていない。
なので、たけしだけわざと笑う、以外には、後半の出演者全員がなぜかずっとヘラヘラ笑っている、とかでも良いんじゃないか?
たけしの意図とは違った、訳の分からない作品になると思うが、邪魔なあざとさが入って中途半端に壊れるくらいなら、もっと壊してしまった方が良い。
そうしたくないのなら、やはり基本に立ち戻って、普通に作るべきだと思う。
たけしの生き様映画
上述した通り、この作品は、良い部分とそうでない部分、切れ味があり振り切れている部分と役者のゆるさが場を盛り下げる部分が複雑に絡み合ったカオスコメディである。
良いとも悪いともハッキリしない。
ただ、たけしの最近の映画では、一番面白かった。
格好良さがダサく崩れるベタなコメディ的落差をベースに、ネット民らしきコメント描写や、現実を無視したぶっ飛んだ展開が上乗せされ、たけしが培ったお笑い感、メタ的な俯瞰する視点、無限に振り切れた極端さ、そしてどうにでもなれという遊び心のある適当さを感じられて、たけしがまだ死んでないことを教えてくれる。
たけし自身が、自分の演技があざといことをハッキリ認識してはいなさそうだが、それも含め、良い意味でも悪い意味でも、自分をさらけ出していることに違いはない。
あんなにお腹に浮き輪が出来たようなボテ腹を、この年になって普通にさらせることに、ロック感もなくはない。
そういう意味で、演技があざとく、ゆるくても、卓越した俳優ではなく、コメディアンとして自身が主演することに大きな意味があった、とも言える。
なので、この作品は、筋の通ったエンターテインメントでも、重厚なコメディでもなく、この年齢の芸人たけしが見せれる、精一杯の生き様そのものなんじゃないか?
いつからか、一流映画監督として俺は良い映画が撮れる、と勘違いしだしたであろうたけしが、客に受けるなど考えずに、気楽に楽しんで作れた映像作品なのかもしれない。
この作品自体の評価がどうであれ。
なので、ブロークンシリーズでも良いし、そうでない普通の短編でも、ギャングものに限らないジャンルでも、長編が出来るなら長編でも、この適当な感じでじゃんじゃん撮り続けて欲しい。
奇跡的に良作が生まれるかもしれないし、フタを開けてみないと分からない、ガチャガチャの様な映画を気楽にたくさん作って欲しい。
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