映画「ゼロ・ダーク・サーティ(2012)」を“見て損はない”理由と考察、その感想

③観て損はない☆3

ゼロ・ダーク・サーティ 英題:Zero Dark Thirty

監督-キャスリン・ビグロー 2012年 157分

脚本-マーク・ボール

出演-ジェシカ・チャスティン、ジェニファー・イーリー、ジェイソン・クラーク、他

映画「ゼロ・ダーク・サーティ」のあらすじ

911後、アメリカの捜査員達はテロの首謀者ウサマ・ビン・ラディンの足取りを血眼になって追っていたが、手掛かりは依然としてつかめないままだった。

その捜査手法は、パキスタンのCIAの基地でテロ組織の関係者達を監禁し、激しい拷問を加えることも辞さない壮絶なものとなっていた。

途中から捜査に参加した分析官のマヤは、その状況にも億することなく、言葉巧みにビン・ラディンに関する情報を聞き出していく。

過激派の爆破テロの危険にさらされ、同僚が次々と離脱するなか、地道な捜査で核心に近付いていくマヤだったが、さらなる困難が立ちはだかるのだった・・・。

“見て損はない☆3”理由と考察、その感想

ジェシカ・チャスティンの迫真の演技

実話を元にした捜査員達の命がけの奮闘を描いている。

ビン・ラディンを捕まえるために、ここまで壮絶な捜査を裏でやっていたというのはすごい。

捕まえる方も鬼にならざるを得なく、その鬱屈した感情は狂気に近いものがある。

葛藤し苦悩しながらも諦めず地道に捜査を続けていく捜査員を、ジェシカ・チャスティンが見事に演じている。

自分の上司にクビをかけて怒鳴りつけるシーンなど実に強烈で感情が伝わってくる。

すっぽんさながら食いついたら離さない執着心がよく描かれていると思う。

暴力の連鎖の壮絶な結末

ビンラディンを追い詰めては行くが、捜査員たちも満身創痍で、それぞれ負った傷は深い。

もし自分だったら、ここまで自分たちがボロボロになって、やり返す意味はあるのか?これは一体何のための戦いなんだ?と思ってしまう。

だからといって引き下がるわけには行かず、生きも地獄帰るも地獄で、もう後には引けないという強烈なジレンマだ。

暴力というものはつくづく何も生まなく、やった方もやり返した方も両方傷つく諸刃の刃だということを改めて思わされる。

一見ハッピーエンドのようにも見えるが、決してそういう訳ではない。

最後のマヤの涙はただの喜びではなく、様々入り組んだ感情の深い涙だと思う。

この作品は、捜査員たちの苦労を労わっている一方で、この戦いに勝者はいるのか?と皮肉さながら訴えている様にも感じた。

素材をそのまま見せ、見ている者に判断させるこういう手法はドキュメントにも近いものがあり、それがかえって強いメッセージに感じる。

見終わって残るざわつき 追記:2023/05/24

アメリカが実際にやった特殊作戦をリアルに描いた数少ない作品かもしれない。

ビンラディンをやっつけたのは良いが、見終わって全然爽快にもならないし、むしろ虚無感が残る。

9.11という大惨事を起こした犯人を殺害したのだから、正しいことをしたに違いない。

しかし、本当に正しいのか?とざわつきが残る。

もし、日本が何らかの理由で9.11のような事件が東京で起こった時、果たして日本はどうするのだろう?

アメリカの様に国境を超えて犯人に直接手を下すなど全く出来ないだろう。

そういう意味で、アメリカがやったことはすごい。

しかし、暴力の応酬は悲劇しか生まない、勝者などいない、というメッセージのみならず、アメリカがいかに頑張ったか、ということを主張しているようにも感じて少し怖くなった。

アメリカのプロパガンダというのは言い過ぎだが、アメリカ側からの視点しか描かれていないので、どうしても少しそっちに傾いてしまう。

アメリカ政府が過去に中東の国を刺激し、9.11のテロ組織とも関わっていた、ということは一切触れられていない。

もし、アメリカが全く世界に対して何も働きかけをしていなかったら、このマヤの涙はよりすっと理解出来ただろうが、アメリカは世界中で色々裏工作を行ってきた。

中東やイスラム世界においても、アメリカが望むように国を動かすために、対抗勢力の片側に資金や武器を援助してきた。

ビンラディンは、母国のサウジアラビアに米軍が駐留していることで、国を汚された、とアメリカを敵視するようになったそうだ。

それが9.11のテロを起こして良い理由には全くなり得ないが、ビンラディンの勢力も、元はと言えば、サウジアラビアやアメリカが利用していたわけで、アメリカと関わりがそこそこあったテロ組織だ。

世界で暗躍するアメリカの工作は、世界情勢に安定をもたらすためにやっていることも多分にあり、日本も間接的に恩恵を受けていることもあるかもしれない。

一方で、明らかな民間人を空爆して殺してしまったり、どちらかの武装勢力を援助したりすることは、明らかに恨みを買う要因になる。

そもそもアメリカがそういった他国の戦争に全く介入していなければ、9.11の事件は起こらなかったかもしれない。

それはそれでアメリカが一切何もしなければ、世界情勢は不安定になるかもしれないが。

そういった経緯や反省、考察なども映画に含めて欲しかった。

一切描かれていない時点で、どちらかというとアメリカを肯定する側の作品なんだと思ってしまう。

なので、うかつにおススメ出来ない作品である。

実話に基づいているだけに、そこの違和感がどうしてもぬぐえない。

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