Cinema Soul

~なぜ面白いのか、面白くないのかしっかり書いていく~

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スイス・アーミー・マン Swiss Army Man

   

監督-ダニエル・シャイナート、ダニエル・クワン 2016年 97分

脚本-ダニエル・シャイナート、ダニエル・クワン

出演-ポール・ダノ、ダニエル・ラドクリフ、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、他

簡単なあらすじ

無人島に漂流してしまい、生きることに絶望していたハンクは、浜辺に人が打ち上げられていることに気付く。

それは身元の分からない男性の遺体であり、再び落ち込むハンクだったが、その遺体から大量のガスが出ていて、それが推進力になり、遺体に掴まるとぐんぐんと海を進んでいった。

なんとか無人島を脱出することに成功したハンクは、遺体も一緒に連れて、森を抜け、町を目指すことに。

友人のように遺体に語り掛けながら、孤独を紛らわせて進んでいくハンクだったが、その遺体は次第にしゃべり始め、さらに驚くべき能力を発揮していくのだった・・・。

感想

率直な感想としては、不可解なサバイバル物だが・・・

序盤は非常に興味深く見られたが、メニーに女性とはどういう存在かなどをハンクが教えていくあたりからラストまではよく分からなかった。

何かが足りなく、ただの変な話を見せられた感じで、ポカンとしてしまった。

もし、これが一人でサバイバルし、何とか生き抜き、生きる気力を取り戻した話だとしたら、あまりにも足りなすぎる。

ハンクがこのサバイバルで何を得たのかがよく分からないし、成長した様も微妙でさほど感じられない。

食料や道具がなくてもなんとか生き抜いた、好きな人を思って希望をつないだ、クマに打ち勝った、自分を見つめなおしオナラが人前で出来るようになった、これだけ?

似たようなサバイバル物は過去にも腐るほどあるが、それらと比べても、あまりにもゆるすぎる話だ。

主人公がまだ15歳にも満たない少年とかならまだ成立するだろうが、大の大人の話としてはあまりにも内容が稚拙すぎる。

完全な陸の孤島でもなく、人が捨てたごみも多く、自然もそこまで猛威を振るっているようにも見えない。

特に、わざわざバスを木や枝で大掛かりに再現して、メニーに体験させるためにやたらと時間と労力を費やしている動機も不可解だ。

そして、迎えに来た父親も喜ぶわけでもなく、さわやかじゃないし、最後にメニーが息を吹き返して海に行ってしまうラストシーンも、妄想じゃなかったんだ、という感動にもならない。

どこをどう感動ししろというのか分からない不可解さが、中盤からラストまで支配している。

しかし、これは、このストーリーの意味を知らない、率直な感想であり、このストーリーに隠された意味や設定を知ったとき、印象はガラッと変わってしまった。

スイスアーミーマンに隠された設定とストーリー

私はこの設定と真相を知って愕然とした。

なぜ気付かなかったのか、いや、気付くはずもなかったと思う。

正直、真相を知ってから観たかったと思う。

それぞれのシーンの感じ方が全然変わってくるからだ。

スルメ映画というのはよく聞くが、こういう作品は何て呼んだら良いのか?

偉そうなことを言っていた自分が恥ずかしくなる。

というか、もしこれまで見た作品でも、自分が気付かなかっただけで、とんでもない意味が隠されているのかもなんて思うと怖くなってくる。

意味を知ると、不可解なシーンも全て合点がいく。

というか、泣けてくる。

真相は、この話はLGBTに関する話であり、メニーは死体であるが、実際に死体がある訳ではなく、死体はハンクの魂そのものである。

ちなみに監督自身、LGBTである。

ハンクはバスで出会ったサラを異性として好いている訳ではなく、自分もサラのようになりたいという、いわば同性としての憧れを持っているが、それは社会に受け入れられずに悩んでいた。

遭難した風に描かれているが、全く遭難などしておらず、一人サラの家の裏庭をグルグルしているだけだった。

その証拠に、終盤でメニーの死体を追いかけてハンクが山に入ると、あっという間に海岸に着いてしまっている。

どうでしょうか?

人前でオナラが出来ないだけでなく、ハンクは女性になりたいと思っていたから、バスの再現のシーンでは、メニーにサラがどういう人間か分からすというよりも、サラになりきりたかったし、メニーの純粋な思いを否定せずに受け入れたかったのだ。

メニーにキスしたのも含め、そういう女性になりたいという願望の表れでもあるし、メニーの思いを受け入れるという優しさでもある。

だから、かなり重要なシーンだった。

ちなみにハンクがサラに初めて会った時も、好きというよりも、憧れているという目でサラを見ていた。

そもそもメニーなど存在してない、言ってみれば、全てが最初から最後まで寓話であると言える。

メニーはハンクの魂であるから、つまり、ハンクの魂は冒頭は死んでしまっていたということだ。

社会からも家族からも疎外され、もうどうすれば良いのか、生きる意欲を失って、魂が死んでしまっていた。

LGBTの問題で、人に言えないこと、理解してもらえないことも多く、これは社会で大きな問題である。

そんな死んだハンクの魂は、対話により徐々に息を吹き返し、奮起し、何度もハンクの命を救った。

ハンクは自殺するために山に入ったのだが、そんなハンクを救ったのは、ハンク自身だったということだ。

首を吊った時も、水中に飛び降りた時も、木から飛び降りようとした時も、三度の自殺をメニーが助けた。

それはハンク自身が葛藤し、自身と対話し、踏みとどまったということだろう。

終盤で木から飛び降りて自殺しようとした時、魂であるメニーは号泣しだした。

人生とは何だ、なぜ自分が思っていることを隠さなければならない、と。

水中からものすごいパワーで飛び上がったシーンも、一度は死を覚悟したが、やはり生きようという魂の爆発が涙腺を刺激してくる。

ハンクはメニーが気にしていることを全て正常なことだと認め、メニーに生きる希望を与えた。

メニーもまた、ハンクに対して「美しい」と伝え、何も隠す必要はないと素直な心でハンクを励ました。

ハンクはメニーとの対話もあり、メニーに勇気づけられ、最終的には、社会の前で、自分の思っていることや真実を恥ずかしがることなく、主張することが出来るようになった。

社会とは、サラとその家族、警察、レポーター、父親である。

誰もがメニーは死んでいると思っていたが、唯一ハンクだけ、メニーは死んでいないと真実を叫び、今までしなかったおならを人前でし、自分がしたと言えるようになった。

つまり、社会はハンクのことを死んでいるとして、認めようとしなかった。

しかし、ハンクがおならを自分のものだと認めると、メニーは蘇って海を進みだし、誰しもがメニーは生きているということを認めざるを得なくなった。

父親はそんなメニーを見て少し微笑んだ。

ハンクは自分の思いを恥ずかしがらずに主張した結果、社会に認められ、父親も受け入れてくれたということだ。

なんという深い話だろうか?

自分が抱いているセクシャリティも含め、何から何まで恥ずかしいと隠す必要はない、という強烈なメッセージが隠されていた。

隠していたつもりもないのかもしれないが、私には分からなかった。

自身の魂との対話を、サバイバル風に描いた話し。

きっと、社会自体も言いやすいような寛容さを持つようにしなければ、勇気一発で言えば良いってものでもないのだろうと思うから、社会が持つ責任は重いと思う。

自殺を考えなければ行けないほど人を追い込んでいく社会は変わらなければいけない。

ストーリーの真相は、Ritesh Singhさんの意見を参考にさせてもらった。

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