映画「キューブ(1997)」が“物足りない”理由と考察、その感想

④物足りない☆2

キューブ 英題:Cube

監督-ヴィンチェンゾ・ナタリ 1997年 90分

脚本-ヴィンチェンゾ・ナタリ、グレーム・マンソン、
アンドレ・ビジェリク

出演-モーリス・ディーン・ウィント、ニッキー・グアダーニ、ニコール・デボア、他

”物足りない☆2”理由と考察、その感想

あまり疲れているように見えない

理由もわからず閉じ込められた人達が助け合い、時には喧嘩しながらこの謎の部屋から脱出を試みる。

少ない登場人物達の会話劇、密室劇だ。

設定は悪くないと思うが、出演者の演技に少し緊迫感が足りなく、そこまで緊張感が伝わってこなかった。

理由もわからず水すら与えられずに12時間以上も閉じ込められていたら、疲れていらいらしたり、焦りや恐怖などが出てきて精神状態もおかしくなるだろうが、まだ足りないと思う。 

どんどん全体的に疲弊していく感じがもっとあってもいいのに、そういう様子がかなり足りないと感じた。

だんだん溜まってくる怒りや深刻さのような張り詰めていくものもさほど伝わってこず、後半に向けて緊迫感が高まっていかなかった。

密室劇であるがゆえに、リアルな演技が命であるわけで、そこが抜け落ちてしまうと一気に演劇的な作り物に感じてしまう。

謎を解いて嬉しいなどという次元ではなく、解けたとしても生きれる希望に対する喜びはあっても、もうヘロヘロになっているはずで、後半でもまだ全員に余力はかなりある感じがする。

勝手な推測だが、実際には休憩などしながら撮影している訳で、役者自体は大して疲れていないのかもしれない。

疲れている演技が出来ないのであれば、そのまま出てしまっては見ていて違和感があるのは当然だろう。

そこらへんのリアルな焦燥感、実際に箱の中にいると感じる暑さや息苦しさや窮屈さ、いらだちというものが役者の演技を通してもっと真に迫ってこないと見ていてきついものがある。

クエンティンが目立ちすぎる

こんなに理不尽な状況におかれ、精神的にも肉体的にも苦痛を与えられ続けては、なんとかして脱出するために皆で協力せざるを得ない。

その協力していく中で仕掛けによって理不尽に命を奪われたりするというのなら、それはホラーであり、ドラマもあるだろう。

もしくは、普段は正常に見える人間が、精神状態が不安定になり、ささいなことで腹を立てたり、自分だけ助かりたいために人を陥れ、またそれに賛同するものが出てきたり、どろどろした人間模様も見どころがある。

この作品の場合、なぜかおかしくなるのはリーダーになるクエンティンだけであり、後半はこのクエンティンからいかにして逃げるかというテーマにすり替わってしまっている。

他の人も一緒になっておかしくなっていればまだ分かるが、クエンティンだけなので、長時間の疲労などで精神に支障をきたしたというよりも、もともとそういう人間だったという様に見えてしまう。

とても警察官の取る行動はしていないし、なぜおかしくなったのかという描写もなく、他の人は大して変わっていないことから見ても、もともとクエンティンがおかしいんだろうと思う。

もしあくまでもこのおかしな状況のせいで正常なクエンティンが狂ったというのなら、もっとクエンティンの背景を描くべきだし、他の人も同じように狂い、クエンティンにコバンザメの様に取りつく人間が出てきたり、一緒になって酷いことを言う人間が出てきたっていいんじゃないか。

実は警察官でもなんでもなく、虚言壁のあるこの男を、箱を作った側の人間があえて場を混乱させるために投入したというのならまだ分かるが、そういう訳でもなさそうだ。

描かれているのは、こんな理不尽な状況になったら人は狂うという怖さではなく、このクエンティンというもともと狂っている男の怖さなんだと思った。

そこらへんがごっちゃにされていてもやもやしまするし、箱自体の存在感も薄れてしまっている気がする。

狂うならそれなりに、もしくは誰も狂わずみんなで協力するかのどっちかなら分かりやすく、もしクエンティンの怖さを描きたいのであれば、キューブという理不尽な状況の設定自体いらないと思う。

もうちょっとクエンティンを押さえた上で、人間の精神の変わり方や箱自体の怖さを見たかった。

人間ドラマが足りない

登場人物にはそれぞれ背景があるが、それもあまり掘り下げられていなく、ドラマとして絡み合ってこない。

普段は目立たなくていつも人目を気にしてこそこそしている数学少女がここぞというところで能力を発揮し、皆を導くなら感動もあるが、レブンの振る舞いは最初ちょっと臆していただけであり、そんな陰気な感じもしない。

サバン症候群と思われるカザンはすごい計算能力を発揮しながらも足手まといになっている感じだが、「静かにしろ」と言われて音に反応する罠のところで結構静かに出来たし、後半に行くにつれてそこそこ普通になっていっているように見えた。

そこらへんの設定どまりの人間像が濃いドラマになるのは難しいと思う。

これといったドラマのメインがほぼクエンティンの横暴さなので、密室劇としてはかなり物足りない。

低予算で作られた実験的な作品ということを考えると、上出来なのかもしれないが。

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